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“職人”ミズノの逆襲 奇抜なデザインの裏に勝利への自信

 ミズノは7月1日、新たに開発したシューズ用高反発素材“ミズノ エナジー(MIZUNO ENERZY)”を発表した。同素材は「ミズノ史上最高」という柔らかさと反発性が特徴で、約2年をかけて開発されたもの。スタンダードタイプの“ミズノ エナジー”のほか、軽量タイプの“ミズノ エナジー ライト”と最も反発性が高い“ミズノ エナジー コア”の3タイプを用意する。接地時のエネルギーを無駄なく反発力へと変えることに長け、“コア”は従来のソール素材よりも反発性を約56%向上、柔らかさを約293%向上させている。この反発性の研究にはシューズの知識だけではなく、同社が1906年の創業以来研究し続けてきた野球のバットやゴルフのクラブなど、スポーツ用具の知見も生かされているという。現在、同社としては珍しい奇抜なデザインが話題となったコンセプトモデル“ザ ミズノ エナジー(THE MIZUNO ENERZY)”(2万5000円)が販売中(ECは完売)。より軽量化したスピードモデル“ウエーブ デュエル ネオ(WAVE DUEL NEO)”(2万3000円)と“ウエーブ デュエル ネオ ロー(WAVE DUEL NEO Low)”(1万9000円)は7月中旬から順次発売予定だ。

トレンドを追わない覚悟

 昨今の国内ランニング市場は、「ナイキ(NIKE)」の“ヴェイパーフライ(VAPORFLY)”をはじめ、大きな推進力を生み出すカーボンプレートを搭載した厚底シューズの話題で持ち切りだった。一方、“ミズノ エナジー”を搭載したシューズにはカーボンプレートは使わず、樹脂を用いた既存素材“ミズノ ウエーブ”を用いており、“ヴェイパーフライ”などと比べて厚みはない。「厚底ソールは地面との距離があるためシューズをコントロールしづらい、疲れやすいといったデメリットもある。選手もシューズに合わせた走り方にする必要があり、ランナーの安全を考えると厚底シューズが最適なアプローチでない場合もある」と語るのは、“ミズノ エナジー”の研究開発に携わったグローバル研究開発部デザイン・開発部技術開発課の森田彰氏だ。「われわれも当初はカーボンプレート内蔵モデルを考えた。しかし、試走時に『硬すぎて20kmも走るといつも以上に疲れが出る』というフィードバックをもらった。市場のトレンドではないかもしれないが、文字通り“地に足をつけて”足元を支える方針に決めた」。

機能をデザインで表現

 機能性のみならず、デザイン性にも注目が集まっている。新素材発表と同時に数量限定で発売されたコンセプトモデル“ザ ミズノ エナジー”は、ボールが詰め込まれたような、あまりにインパクトの強いソールデザインに賛否が巻き起こったものの、公式オンラインショップ分は発売当日に完売。デザインに関わったグローバルフットウエアプロダクト本部ランニング・トレーニング企画課の鷲見将成氏は、「新素材のコンセプトモデルのためソールに目がいくようなデザインを採用した。アッパーをはじめそのほかのあしらいは非常にシンプルで、機能を妨げるような無駄なデザインはない」と解説する。また水ぶくれなどの原因となる縫い目を少なくするため「パーツ数も限界まで削ぎ落とした」という。鷲見氏と同じくデザインに携わったランニング・トレーニング企画課の益子勇賢氏は「ミズノは常に実直なモノ作りでお客さまの支持を得てきた。これからもその期待に応えていく」と話す。

実は披露していた“謎の白”

 同素材は、今年1月の箱根駅伝で10区区間賞を獲得した創価大学の島津雄大選手が着用した“ウエーブ デュエル ネオ(WAVE DUEL NEO)”にも搭載されている。島津選手が着用したのは真っ白なプロトタイプで、他区では “ヴェイパーフライ”が圧倒していたこともあり、「あのシューズはどこのメーカー?」「カッコいい!」と観客からの注目を一気に浴びていた。

 ランニングシューズのプロモーションにおいて、着用選手のレース結果はシューズの人気を左右する重要項目だ。しかし“ミズノ エナジー”搭載シューズに関しては、「レース結果によるイメージ訴求に頼るつもりはない」とコンペティションスポーツ事業部第1事業企画販促部陸上・ランニング課 課長の河野光裕氏は語る。「履けばその良さがわかる。トップランナーの争いを気にするのではなく、風下に降り、お客さまと対面して一足一足を販売していく。もちろん島津選手の好成績がなければこれだけ話題となることはなかった。ただ今後は一時的な世間の注目度よりも、地道に獲得したファンの拡散力を重視していきたい」。

目指すは国内3番手

 国内のランニング市場が盛り上がりを見せる中、同社は2019年度の国内ランニング部門の売上高が前年同期を若干下回った。その理由の一つとして河野課長は、ある人気シリーズを挙げる。「当社の核となる“ウエーブ ライダー(WAVE RIDER)”シリーズは1997年の発売以来、初心者からフルマラソンを走るランナーまで幅広い層に支持を得てきた。その人気に頼ってしまった結果、新モデルの開発やプロモーションが十分に行えていなかった」。

 その一方、海外では再び存在感を示しつつある。同社は2019年度、アメリカのランニング部門の売上高は前年同期比10%増で、ヨーロッパでもほぼ同じ成果を収めた。「海外ではランニングが日常に根付いている。速く走れるか、安定しているか、軽いか、耐久性があるかなど多様な尺度でモデルが選ばれ、マーケットが細分化している。そのため安定性と機能性が売りのわれわれも一定の層からの支持を得ている。ところが国内はトレンドと安さの2つが購買の基準として強く、それ以外のモデルは見向きもされない」と分析する。

 では国内市場を成熟させるにはどうすればよいのか?河野課長は「このような市場にしたのはわれわれメーカー側の責任が大きい。発売時のプロモーションやレースの結果に頼るだけで、時間をかけてモデルを育てていこうとはしていない。このままではお客さまもついてこない。ユーザーのデータをもとにアップデートを続け、二人三脚で市場を成長させたい。“ミズノ エナジー”は、それを可能にする重要な素材だ」と自信を見せる。

 ミズノは現在、国内ランニングシューズでは5番手に位置している。「史上最高」の素材でスパートをかけ、ナイキとアシックスに次ぐ3番手への浮上を誓う。