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東京ヴェルディと機能服「ミノトール」が異業種タッグ ファッションの力でクラブの伝統を世界へ発信

 スポーツクラブの東京ヴェルディと泉栄一デザイナーのメンズブランド「ミノトール インスト(MINOTAUR INST)」は、eスポーツ用のアパレルを共同製作し、「ミノトール インスト」の公式オンラインストアで6月29日から購入予約を受け付ける。アイテムはスポーツライン“ミノトールジム(MTRGYM)”の半袖Tシャツ(1万2000円)と長袖Tシャツ(1万5000円)の2型。素材はペットボトルを再利用したもので、優れた吸湿速乾性を備えており、泉デザイナーが得意とするミニマルなデザインと都市生活を快適にする機能性を融合させている。取り扱い店舗は「ミノトール インスト」の直営店と、同ブランドの卸先である海外のセレクトショップを予定しており、「チームのグッズではなく、あくまでファッションアイテムとして売っていきたい」と泉デザイナー。そう意気込む理由は、シンプルなTシャツの胸元に映える東京ヴェルディのロゴに特別な思いがあるからだった。

両者をつないだデザイン界の巨匠

 サッカーで有名な東京ヴェルディは、2019年にクラブ創立50周年を迎えた。1993年のJリーグ発足当時は多くのスター選手が所属し、初代チャンピオンに輝くなど華々しい歴史を築いてきた。しかし05年のJ2降格や親会社の撤退、有名選手の流出が相次ぐなど、チームの成績も経営も苦しい時期が続いた。そして節目となる50周年を機に、大きくリブランディングを実行する。主力のサッカーに加え、新規参入した野球やバスケットボール、eスポーツチームなど所属する17競技のチーム全てが東京ヴェルディの名を掲げる、総合型クラブへと舵を切った。指揮をとるのは熊本浩志アマダナCEOで、チームのクリエイティブセンター長としてまずは全チームをつなぐ新たなロゴとユニホームのデザインに着手した。同氏が起用したのは、デザイン界の巨匠であり、泉デザイナーも敬愛するネヴィル・ブロディ(Neville Brody)だった。泉デザイナーは「若い頃からDJをやっていたので、レコードや周辺のカルチャーを通じてネヴィルは当然知っていた。熊本さんからの依頼に即答したものの、彼のタイポグラフィーやロゴを使うということにはプレッシャーもあった。僕にとってはそれぐらい大きな存在」と述べる。

“オールヴェルディ”で売上高100億円目指す

 熊本クリエイティブセンター長のリブランディングの成果は着実に実を結んでおり、ユニホームの売り上げは3.7倍に跳ね上がり、グッズの売り上げも倍増した。サッカークラブの売上高は、現在所属するJ2のリーグの平均が15〜16億円であるのに対して、19年度は19億円。楽天が運営するヴィッセル神戸のJリーグ史上最高売上高の114億円にはまだまだ及ばないものの「“オールヴェルディ”で100億円を超えたい」と熊本クリエイティブセンター長。そのためのエンジンの一つとして「もっとファッションのイメージを付けていきたい。“東京”を掲げるからにはファッションは切り離せない」と続けた。「ミノトール」の販路であるフランスやスペインでの販売が実現すれば、ネヴィル・ブロディが手掛けたロゴが付くウエアを通じて、東京ヴェルディの知名度は広がるかもしれない。

 スポーツチームがファッションを通じて知名度を広げるマーケティングは、フランスのパリ・サンジェルマンFC(PARIS SAINT-GERMAIN FC)が有名だ。日本でも渋谷・明治通り沿いにベイクルーズグループが運営する公式ストア「PSG ストア トウキョウ」を運営するなど、ファッション事業にも積極的だ。

“デジタルアスリート”のための服

 また、eスポーツのウエアというのも今回の協業のポイントだ。東京ヴェルディは、観戦者の高齢化が進むプロサッカービジネスの将来を危惧し、16年にeスポーツチームを結成した。市場はまだ小さいものの、若年層ファンの取り込みと海外進出に可能性を感じており、事業の一つして現在注力している。熊本クリエイティブセンター長は「eスポーツってスポーツなの?という議論が日本ではまだある。事業として参入しているメーカーもあるが、選手たちが袖を通すユニホームには正直ピンとこなかった」と振り返る。しかし泉デザイナーと企画を進める中で出たキーワード“デジタルアスリート”という言葉に光明を見出した。「とてもしっくりきた。選手はもちろん、昼夜パソコンと向き合っている僕たち全員も“デジタルアスリート”じゃないかと。筋肉質なスポーツ選手が似合うスポーティーなものではなく、普段でも着られるデザインであるべきだという結論に至った」。泉デザイナーも「機能服は得意だし、eスポーツはもともと興味があった。欧米のようにカルチャーとして定着してほしい」と期待する。東京ヴェルディは今後、歴史あるサッカークラブと新進のeスポーツチームを“オールヴェルディ”として運営することで、eスポーツの競技としての地位向上を目指している。

 新型コロナウイルスの影響という予想外の事態に見舞われたものの、リブランディングは奏功し始めている。中断していたJリーグも再開され、スポーツの活気が徐々に戻ってきた。あとはスポーツチームを名乗る以上、最も効果的なPRにつながるのは本業の成績だろう。東京ヴェルディの勝負はこれからだ。

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