ビューティ

93年前の「ルイ・ヴィトン」初の香水から名前をとった新フレグランスが発売 世界三大調香師キャヴァリエに聞く創作の裏側

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は2月27日、新フレグランス「ウール・ダプサンス(Heures d' Absence)」を発売した。このフレグランスはウィメンズのフレグランスコレクション「レ・パルファン ルイ・ヴィトン」で11番目の香りとなるが、実はその名前は、「ルイ・ヴィトン」が1927年に発表したメゾン初の香水の名前からとったものだ。「ウール・ダプサンス」の意味は“余暇の時間”。ヴィトン家が20年代に仏セーヌ・エ・マルヌ地方に所有していた別荘にちなんでつけられたこの名前は、束縛からの自由や旅先でのゆっくりと流れる時間を想起させる。しかし、香りそのもののレシピは現存していなかったという。

 レシピは失われてしまったが、「ルイ・ヴィトン」のインハウス・マスター・パフューマーであるジャック・キャヴァリエ・ベルトリュード(Jacques Cavallier Belletrud)はこのフレグランスを現代によみがえらせた。そのインスピレーション源から製造の過程、メゾン初の香水の名前をとった理由、今後発表する香水の構想までを、ジャック・キャヴァリエにパリで行われたプレス発表会で聞いた。

WWD:2016年に70年ぶりの香水を発売してから11番目の新作となる。今回、93年前に発売したメゾン初の香水の名前を冠した理由は?

ジャック・キャヴァリエ・ベルトリュード(以下、キャヴァリエ):なぜなら私が「ウール・ダプサンス」という名前が大好きだから。とてもロマンチックで、魅力的。“自分を解放しよう”“憂鬱な気分を振り払おう”“今を生きよう”といったコンセプトも気に入り、このコンセプトをもとに全く新しいフレグランスを作った。

WWD:93年も前のものでレシピは残っていなかったそうだが、インスピレーション源となったのは?

キャヴァリエ:ロマンティシズムだ。だから香料には全て花だけを選んだ。キーとなるのは南仏の都市グラース産のミモザ、ジャスミン、ローズの3種の花。「ウール・ダプサンス」という名前は、時間が経っても色あせないものだ。われわれの周りのものは時を経て変化するものがほとんどだか、ロマンティシズムと愛の価値は永遠に変わらない。この永遠のロマンティシズムを3種の花で表現したかった。この香水には自由というコンセプトもあるが、93年前と今とでは選べる自由も女性らしさも変わってきている。この香水は現代の自由な女性のための香水だ。

WWD:開発にはどのくらいの時間を費やしたのか?

キャヴァリエ:開発には3年かけた。新しい香りを生み出すことだけなら1分しかかからないが、その後には、それぞれの花の香りの比率を調整して正しいバランスになるまで手直しするという作業が待っているからね。

WWD:開発にあたって、今の香水のマーケットやトレンドは意識したか?

キャヴァリエ:もちろん、今のマーケットやトレンドはきちんと調査していて、主要ブランドや重要な香水の香りを嗅ぎ、香水マーケットで何が起きているのかを把握している。香水が大好きだから、今何が起きているのかはすごく気になるんだ。しかしマーケットを見ると悲しくなることもある。香水は毎年約2000種類も発表されるが、クオリティーと創造性に欠けたものがあまりにも多いからだ。

WWD:今の香水のマーケットで気になるトレンドはあるか?

キャヴァリエ:トレンドとは言えないかもしれないが、上質な香水は常に好みだ。上質ならば、シック、フローラル、オリエンタルまであらゆる香水が気になる。逆に好きでないのは、質が低いものだ。香水作りは料理のようなもの。チョコレートや砂糖がよいものであれば、よい料理ができる。しかし安く、バランスが取れていないものは香りが過剰になる。

WWD:これまでの香水と今回の香水とでは製造方法にはどんな違いがあるか?

キャヴァリエ:今回は全て花を香料として使用したから、他の香水よりも製造に時間がかかった。それから自分が素晴らしい香水だと確信を持つまでに時間がかかったのも一因だ。素晴らしい香水だと確信できたのは、ある朝自宅で、私のもとに娘が「ウール・ダプサンス」をつけてやってきて、笑顔を見せてくれたときのことだ。このフレグランスを嗅ぐたびに笑顔を運んできてくれるだろうと確信し、完成したんだ。

WWD:これまでたくさんのブランドでそのブランドを代表するような香水を生み出しているが、「ルイ・ヴィトン」における仕事で意識していることはあるか?

キャヴァリエ:もちろんある。私の肩書きに“インハウス”とあるように、私はブランドの一部であり、その歴史の一部だと感じている。以前は、「ブルガリ(BVLGARI)」以外でそのように感じたことはなかった。“インハウス”として働くのは、ただの“サプライヤー”と違い、より自分に厳しくなる。「ルイ・ヴィトン」では、メゾンにとって新しいものは何かと常に探している。メゾンのファッション、レザーグッズ、バッグ部門などを常に意識して、つながりを持つようにしている。「ルイ・ヴィトン」の今のスタイルが何であるかを知ることがとても重要なんだ。「ルイ・ヴィトン」は私の家であり、とても居心地がいい。そして新しい香水を作るのに必要な全てがそろっている。これは私にとって、とてもラグジュアリーなことだ。厳しいマーケティングもなく、消費者テストもない。だからアーティスティックな表現をすることができる。本当に自分の好きなことができるんだ、ファッションなどメゾン内のほかのクリエイターたちと同じようにね。

WWD:ウィメンズの12番目の香水の構想はもう決まっている?

キャヴァリエ:もちろんもう製作は始まっているよ。たくさんの要素を含んだ香水になるから、アイデアも多く出てくる。今言えるのはここまでだけだけどね。

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