ビューティ

ファッション好きに愛用される香水ブランド「バイレード」 最初の香りは“父親”をイメージ 

 スウェーデン・ストックホルム発のフレグランスブランド「バイレード(BYREDO)」はミニマリスティックなパッケージとシンプルながらもユニークな香りが人気で、ファッショニスタの愛用者も多い。創業者のベン・ゴーラム(Ben Gorham)はもともとプロのバスケットボール選手で、27歳のときに著名調香師のピエール・ウルフ(Pierre Wulff)と出会ったことをきっかけに香水の道に進む。全く調香の経験がなかったゴーラム創業者はウルフにアドバイスをもらいながら、2006年に「バイレード」を設立した。

 香りと記憶の関係に関心があったという彼は自身の人生や経験にまつわるエピソードを香りに落とし込み、「ジプシー ウォーター」「モハヴェ ゴースト」「ブランシュ」など数々のヒット作を生み出してきた。ファッションブランドとのコラボも積極的に行い、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」や「オリバー ピープルズ(OLIVER PEOPLES)」などとも協業している。日本ではエストネーション(ESTNATION)やビオトープ(BIOTOP)などのセレクトショップで取り扱われ、11月にリニューアルオープンした伊勢丹新宿本店には日本初の旗艦店をオープンした。
 
 そんなゴーラム創業者に、一つの香りを作るまでのプロセスや、新しいプロジェクトなどについて聞いた。

WWD:香水を作ろうと思ったきっかけは?

ベン・ゴーラム「バイレード」創業者(以下、ゴーラム):美術学校に通っていたとき、自分のメモリー(思い出)を香りにしてほしいとある調香師に頼んだことが始まり。そのとき、パーソナルな思い出だったこともあって感動したんだ。目に見えないもの(=香り)がここまで感情をかき立てることができるのかと。それがきっかけで香りを作ろうと思った。特に、自分はそれまで美術を学びとても視覚的な世界にいたから、見えないものにここまでのパワーがあることに感心したんだと思う。

WWD:一番最初に作った香りは?

ゴーラム:今まで25種類ほどの香水を手掛けてきたが、一番最初は(記憶の中の)父親の香りをイメージした。とてもパーソナルな香りだけど、父親(もしくは父親像)の香りって誰もが共感できるものだろう?香りを作るとき、そういったパーソナルな記憶や人をイメージして作ることが多い。記憶と香りはとても密接なつながりがあるから。そしてそれを香ることによって人が共感しあい、つながってほしい。

WWD:香りはどのように作っているのか。

ゴーラム:まず、どの香りでも一つのストーリーを描くようにしている。それがパッと思い浮かぶときもあれば、そうでないときもある。でも13年も香水を作っていると自然に鼻が敏感になるから、考えなくとも毎日の生活の中にある香り全てが刺激になる。例えば先ほど(ホテルで)シャワーを使ったときに、アメニティーの小さな石鹸が強い印象として残った。新しい土地を訪れる際、普通は景色(視覚)や気温(触覚)などが記憶になると思うけど、私はそれらと同じくらい香り(嗅覚)が記憶になっている。印象的な香りはノートに書きためて、ノートを見返したときに何度も似た香りが出てきたり、思いが強かったりすると、そこからその思いを調香師に伝えるためにアイデアソースを集める。それは詩だったり、写真だったり、オブジェクトだったり……。そこから調香師と会って、実際の香料の製作作業に入るんだ。香水作りにはだいぶ慣れたが、いまだに難しいと思うのは、誰もが共感できるような”客観的”な香りを生み出すこと。でもその難しさが楽しいんだよね。チャレンジングだからこそクリエイティブなものが生まれるだろうね。

WWD:今まで一番作るのが難しかった香りは?

ゴーラム:エムエムパリス(M/M PARIS)とコラボした「M/MINK」という香りはチャレンジングだったかな。特殊なカリグラフィー(書道)のインクをイメージした香りなのだが、インクの香りを表現するのって意外と難しくて。インセンスやアンバー、パチュリリーフ、ハニーなどをブレンドして作ったけど、かなりの自信作だよ。

WWD:元プロバスケットボール選手と全く異なる業界からの転職となったが、それは香水作りに生かされている?

ゴーラム:香水を作る経験も知識もなかったし、最初はほぼ独学で香りを作っていたので大変なこともあったけど、かえってユニークなものを作れていると思う。トレーニングや学校などで「これが正解」というようなことを教えられていないので、自由に香りを作ることができるし、真にユニークでパーソナルなものばかりを生み出していると思うよ。

WWD:「バイレード」といえばシンプルなパッケージが魅力だ。
ゴーラム:もともとは香りに集中してもらいたいという思いがあり、香りが主役でパッケージはある意味脇役と考えていた。つまり、外見よりも中身に注目してほしかったんだ。でもそんなパッケージも時間をかけてデザインをしているし、ディテールにもこだわっている。ガラスの工場にも足を運んで、シンプルながら高いクオリティーのパッケージを作っているよ。

WWD:なぜ世界中でヒットするまでに成長したのか?

ゴーラム:いい質問だね。タイミングかな?ちょうど「バイレード」がデビューしたとき、ニッチなパフュームメゾンの市場が伸び始めていたから、それは大きい。特に若い世代は香りで自己表現をする人が増えているし、ユニークな香りにもどんどん挑戦している。あとは幅広い層に支持を得ているから。18歳の顧客もいれば、85歳の愛用者だっている。それはシンプルな香りだからなのか、センスなのか、どちらか言い難いけど。

WWD:ファッション好きにも愛用者が多い印象だ。伊勢丹やセレクトショップに出店しているのもそういう狙いがあるから?

ゴーラム:もちろん百貨店でも売っているけれど、アート畑出身の私はファッションも好き。ファッションやアートを意識して香りを作っているから、ファッション感度が高い人が買い物するような場所に置くことも大事だと思った。そういう人たちが一番共感してくれると思ったからね。

WWD:多くのファッションブランドとコラボしている。

ゴーラム:「オフ-ホワイト ヴァージル c/oアブロー」のヴァージル ・アブロー(Virgil Abloh)とは昔からの友人。前から「いつかは一緒に何か作りたいね」と話していたから、自然にコラボレーションが生まれた。ファッション業界に友人がたくさんいるから、自然とコネクションもできやすい。でもこういった異業種のコラボレーションは新たな視点から香りを見つめるきっかけになるし、面白いよね。

WWD:今は香水だけでなくサングラスやバッグ、レザーグッズも手掛けるようになった。そのきっかけは?

ゴーラム:もともとアートを学んでいたので、視覚的なものにももちろん興味があったんだ。香りは見えないがアーティスティックな表現ができるものとしてずっと作ってきたけど、久しぶりに見られる・触れるものを作りたいと思ったのがきっかけかな。ファッションショーに招待されることも多いし、ファッションデザイナーの友人も多くいるから、インスピレーション源は常に周りにあるしね。中でもレザーグッズはタイムレスだし、ブランドを上手に表現をできるものだと思って選んだ。

WWD:他に挑戦してみたいものは?

ゴーラム:実は20年春夏にメイクアイテムを出す予定なんだ。まだ詳細は言えないが、カラーコスメをスタートするから期待していてほしい。

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