ファッション
特集 伝統と革新、吉田カバンの90年 第3回

吉田カバンと職人の未来、そして一つのバッグができるまで

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吉田カバンと職人の未来、そして一つのバッグができるまで

部門を横断する吉田と職人の関係性

吉田カバンは通常の製造に携わる企業と同じように、開発から生産、販売に至るまでの様々な部門・部署が存在するが、一点他と大きく異なる部分がある。それは、その中の多くの部門が職人と密接な関係を築いているということ。通常であれば窓口は一つにまとめた方が効率的なようにも思えるが、それぞれがその専門分野で職人と二人三脚を行ってきた結果、今のような形に落ち着いた、と言える。例えば開発本部や企画部では、職人に出した新型バッグの試作と改良を繰り返し、製品化の展望が見えてきたところから量産可能数やクオリティーコントロールを生産本部、各部と詰める。ときにはそれをどのようなルートで運んでいくかを物流部と協議し、広報部は職人にまつわるエピソードを世に届けるためにコミュニケーションを繰り返す、といった具合だ。職人が各部門をまたぐ関係上、吉田社員たちも部署の垣根を意識している人が少ない。自分たちの領分に拘らず、開発本部でも店舗設営を行うし、マーケティング部も販売応援でポップアップストアに日夜立ち続ける。“できることはみんなやる”が吉田らしさだ。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月22日&29日合併号からの抜粋です)

吉田カバン組織図と職人との関わり

INTERVIEW
職人との成功体験の共有が製品のアップデートを生む

小川義正/生産本部 マネージャー

小川義正/生産本部 マネージャー

PROFILE:(おがわ・よしまさ)2005年に吉田に入社。初めは営業部に配属され、卸のルートセールスを主に担当した後、当時存在した特殊販売部(現在の開発本部)で勤務。その後、ショップ運営や別注品の手配などを経て25年から現職 PHOTO : SATOSHI OMURA

生産管理と品質管理を担う生産本部の小川は、「生産本部に異動してから、吉田のカバン作りは、本質的にはずっと『変わらない』ことをより深く理解するようになった」と話す。例えば“タンカー”などに用いるナイロンの染色は、他社なら抜き取り検査かもしれないが、「吉田は色のブレをなくすため、上がってきたものは全部見る」。もちろん日々さまざまなトラブルはあるが、「当たり障りのない素材で作るのはどうなのか?こだわりがなくなったら、吉田らしさもなくなってしまうのではないか?」と考え、過去のノウハウから気をつけるべきポイントを探りつつ、一方で新しいバッグについては「吉田にしかトライできないことをしている」感覚で挑戦する。「もともとファンだったので、携わっている人たちと喧々諤々モノ作りするのは本当に楽しい。時々『自分が“タンカー”の生産とかやっているんだぁ』といまだに信じられないように感じることもある」と笑う。

ただ、いかに効率よく生産できるかは日々進化しているところ。例えば“タンカー”の前ポケットは、折りグセをつけてから縫製するが、一部の工場では機材を導入。「折りグセをつける工程を機械化することで、質と量を上げている」と話す。こうした「この製品の、この部分に機材を導入したらよりよくなるのではないか?」という成功体験は、他の工房にも共有して、それぞれのやり方で「人と機材でどうするか?」というモノ作りのアップデートを続ける。

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