
古来、日本の美容と暮らしに根付いてきた「発酵」が、今再びビューティ市場で存在感を高めている。微生物研究の進化や原料開発の高度化を背景に、発酵は経験則に基づく伝統技術から、エビデンスを伴う先端スキンケア技術へと再評価が進む。外資・国内を問わず、発酵原料を軸にした新シリーズや象徴的製品が相次いで登場。一方で、発酵の機能的価値や情緒的価値、日本人との高い親和性を背景に、長年支持され続けるロングセラーも存在する。技術革新によって更新される発酵の価値を背景に、外資から国内まで、各ブランドが発酵をどう捉え、生かしているのかを探った。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月22日&29日合併号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
「SK-Ⅱ」
発酵美容の元祖、ピテラを核に歩み続ける
安実直子/P&Gプレステージ SK-Ⅱ ブランドコミュニケーションズ ディレクター
発酵美容の先駆け的存在の一つが、「SK-Ⅱ」だ。酒造の杜氏の手が、年齢を重ねてもなお潤いと滑らかさを保っていることに着目し、「美しい肌の鍵は発酵や酵母にあるのではないか」という発想から1970年代に研究が始まった。安実ディレクターによると「当時は化粧品の安全性が社会問題化していた時代。安全性と有用性を両立する成分開発が、最大の課題だった」という。多くの試行錯誤の中で350種以上の酵母からただ一つの酵母にたどり着き、人工的には再現できない天然由来成分ピテラが誕生した。
ピテラは現在も全製品に配合するキー成分であり、ブランドの原点だ。同氏は「発酵は新しい取り組みではなく、『SK-Ⅱ』の根幹に据えてきた領域」と位置づける。中でもブランドを代表する化粧水“フェイシャル トリートメント エッセンス”にはピテラを90%以上配合。酵母株、発酵プロセス、発酵環境の全てを独自管理し、「門外不出の技術として厳重に守られている」という。50種以上のビタミンやアミノ酸などを含み、肌の天然保湿因子に似た構成で角層の隅々まで素早く浸透し、健やかな肌へ導く点が強みだ。
45年近く処方を大きく変えずに支持され続ける背景には、機能的価値と情緒的価値の両立がある。「肌悩みが気にならなくなり、自分の肌が長所に変わる。そうした“運命を変える体験”によって愛され続けてきた」(同)。美容部員の体験共有や、桃井かおり、綾瀬はるかといったミューズを通じて理解が広がり、ピテラの魅力は世代を超えて浸透。今後も「ピテラに勝るものは、より多くのピテラ」という思想の下、発酵カテゴリーをけん引していく考えだ。
「エスティ ローダー」
酒造と協業し、日本発の医薬部外品に挑む
縄田友樹/ELCジャパン エスティ ローダー PRアシスタントマネージャー
「エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)」は1968年の日本上陸以来、日本の消費者ニーズに寄り添った製品開発を進めてきた。その象徴が、勇心酒造と協業し2024年9月に発売した日本発の医薬部外品スキンケアライン“アクア チャージ”だ。発酵について縄田PRアシスタントマネージャーは、「当社の日本市場への深いコミットメントから注目し始めた重要領域。日本では発酵技術への信頼と文化的な親和性が高く、揺らぎや乾燥などの悩みに有効だと判断した」と語る。協業の決め手となったのは、日本で唯一、水分保持機能の改善が認められている医薬部外品成分“ライスパワー No.11α”だったという。構想から製品化までには6年を費やし、同成分とグリチルリチン酸ジカリウムを掛け合わせた独自の“セルフ ハイドロ テクノロジー”が、従来の“与える保湿”を超え、肌が自ら潤う“自潤肌”へ導くアプローチを実現した。
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