グローバルボーイズグループ・INIの許豊凡が、初めてミラノ・ファッション・ウイークを訪れた。その目的は、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)の逝去から間もなく行われた「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」のショーと、ブランド創設50周年を記念したブレラ美術館での特別展だ。彼が感じた、巨匠が遺した美を自らの言葉で綴った。
初めてのヨーロッパ、憧れの街ミラノへ
9月23日。僕は生まれて初めてヨーロッパへ。
早朝のミラノ・マルペンサ空港は混雑していて、世界各国からいろんな人が集まっていた。9 月のミラノは東京よりも空気が冷えていて、14 時間のフライト、そしてそこから入国の列に 2 時間半も並んだ体に沁みる温度だった。初めてのイタリアというのもあって、出発の 1 ヶ月前から何だかずっと浮かれ気分だった。大好きな映画、「Call Me By Your Name」もまた繰り返して見るくらい。来月のこの頃、こんなに美しくて素敵な街に、本当に行くんだと、ワクワクが止まらなかった。もし今の道を選んでなければ、実はこの街にある大学に進学する予定があったのでミラノとこういう形で再会するのも、きっと縁がどこかにあったと思ったりした。出発の約 3 週間前、ジョルジオ・アルマーニ氏が 91 歳でこの世を去ったというニュースが、僕たちの元にも届いた。あまりに静かでありながらも、大きく僕たちの心を震わせた。今回見る予定のショーとコレクションも、アルマーニ氏が手掛けた最後の作品となり、ショックや悲しみのあまりに心情も一気に複雑に。
メンバーと感じる街の美しさ
このタイミングになってはいたものの、事前にいただいたアルマーニ氏の自伝『Per Amore』を読みながら、少しでも彼自身のことや、彼が築いたアルマーニ帝国のことについて知りたいと思いながら、そしてワクワクと同時にはいろんな他の複雑な感情を持ちながら、3週間後にミラノ行きのフライトに乗った。
着いた日の午後からは少し自由時間があったので、メンバーと一緒に出かけることにした。美しい。この街のどこを切り取っても美しい。人も、建築も、そのすべてが。と、初日ならではのザ・観光客みたいな感想しか出なかった。あいにく天気があまり良くなく、時々通り雨が降っていた。だがそれすら美しく見える。数々のファッションブランドのスケールが大きい商業広告が、驚くほど街に溶け込んでいて、ファッション産業がいかにこの街に影響を与えている、そして与えられているのかがわかる。無駄が少なく、洗練されていながらも、限りなく長い歴史や深い哲学が漂っている。「Milan is at the heart of my world, in every way possible」と、アルマーニ氏が言ってたように、巨大なコミュニティを抱えながら、産業と文化、実務と理想が混じり合うこの街だからこそ、彼が自身の美学を培うことができたのかなと、曇っていた空を見ながら、ふとそう思った。
日本では頼んだことのないエスプレッソを一日3杯も飲んだ。そんな、ミラノの初日だった。
次の日、僕たちは朝から街を歩きながらファッション撮影や取材を行った。身に纏ったのは「エンポリオ アルマーニ」の衣装で、静かで、軽やかで、この街の空気に自然と溶け込んでいて、歩いているうちに、不思議に「ホームタウン」という言葉が思い浮かんだ。
ブレラ美術館で感じるアルマーニの哲学
午前訪れたのはミラノの名門美術館、ブレラ美術館。ここでは、この日からジョルジオ アルマーニの特別エクシビション『Giorgio Armani. Milano, per amore』が始まっていた。そしてその週の週末には美術館の中庭で2026年春夏のコレクションが発表されるという。このような展示は初めてとのことだったが、そんな貴重な初日に立ち会えたことが嬉しかった。
展示室には、120点に及ぶアーカイブ・ルックがブレラ美術館本来所蔵の西洋画などの芸術作品の展示とともに陳列されていて、光の加減、配置、全てに徹底されているこだわりを感じた。「Less is always better」とおっしゃっているアルマーニ氏だが、作品もモダン、エレガントでありながらも、無駄がなく洗練されていた。ルックごとのパネルにはコレクションの発表年や背景が記されていて、初期の作品から近年の作品まで、ブランドの50年にわたる歴史により理解が深まる。その中には、ケイティ・ホームズが2008年のMet Galaで着用した印象的なレッドドレスなど、貴重な作品も見ることができ、彼の作品は時代を超えて愛され続けているんだなと実感した。
見ている間には、言葉を発さなくても、対話が自然と行われていた。一つ一つのルックが、長い時間を経てもいまだに、発表当時にショーを見られていた人たちの目を奪うように、その熱くて強い生命力が保たれている、そして僕たちに語りかけている。同時に、作品とその空間自体の対話も行われていた。共通して静かで、本質的だが、構造を強調する空間に対して、作品の多くが非構造的だった。従来の構造をバラしつつも優雅さはそのままだった。アルマーニ氏が生涯をかけて追い続けた美学、確実にそこに息づいていた。
最後のショーが伝えた、文化とエレガンスの対話
次の日、いよいよショーの当日。前日の余韻がまだ抜けないままショーの会場へ。意外にもショーの当日はとても緊張するというアルマーニ氏だが、彼が残してくれた最後の作品を、見る前から僕もドキドキし始めた。
時間になってショーが始まり、「エンポリオ アルマーニ」2026春夏ウィメンズコレクションを身に纏ったモデルさんが続々と登場。自伝『Per Amore』では「There is a special sort of allure in the traditional costumes worn by different people(人々がそれぞれの土地で受け継いできた伝統衣装には、独自の美しさと魅力が宿っている。)」と語るアルマーニ氏が残してくれた最後のショーには、様々な文化からのインスピレーションが反映されていた。イカット織、ラフィアのクロシェキャップ、ノーマディックなバッグ… 異国的でありながら都会的に解釈されていた今回のコレクション。文化の交流や人との繋がりを大切にされていた彼が、そこから得たエレガンスが一つ一つのルックに宿っている。
もう彼に直接会うことができないが、展示やショー、彼が残してくれたものを彼が愛するミラノの街で自分の五感で感じ取ることができたことが、この先、僕の人生のとても大切な思い出になると思う。
最後までエレガントだった。そしてきっと、これからもエレガントであり続ける。