「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)による2026年春夏コレクションを発表した。会場は、「バレンシアガ」の本社。ピエールパオロは、「温かみのある空間。(前任で『グッチ(GUCCI)』に移籍した)デムナ(Demna)は、ここで回顧展を開催した。私は、彼が去った場所からスタートしたい」と話した。
米「WWD」のプレビューでピエールパオロは、デムナによる「バレンシアガ」の“トリプルS”のスニーカーを履きながらインタビューに応えた。ピエールパオロはクリエイティブ・ディレクターに就任するとアーカイブに触れながら、デムナと共におよそ1カ月、本社で働いたという。「2人でチーム、空間を共有することで、尊敬や寛容、分かち合いという概念を学んだ」。と同時に「クリストバル・バレンシアガ(Cristobal Balenciaga)の洋服はすべて、身体という概念に基づいている。身体から始まり、時には身体から大きく離れながらも、常に身体が中心にある」と悟り、「身体」というフォーカルポイントを「人間」に置き換えたという。「研究の中心に人間性を据えることで、現代にも通じるものにしたい。ノスタルジックにはならず、シルエットと生地を通して現実に迫りたい」と語った。
また「クリストバルは、女性たちを服の重荷から解放した」と続け、「ディオール(DIOR)」のニュールックの初代モデルが約4kgだったのに対し、ピエールパオロが触れた「バレンシアガ」アーカイブのサックドレスは1kgにも満たない軽さだったと指摘。特にクリストバルが使用したシルクガザルは、「硬い構造でありながら余分な重量を加えずに織り上げるダブルヤーンの生地で、建築的なシルエットを生み出した」。そこで「同じように軽いのに構造があり、ある種の緊張感さえ伴う生地を作りたかった。現代の日常生活によりふさわしいコットンガザルとウールガザルを編み出している」という。
言葉通り、ピエールパオロは軽いのにハリもあるガザルを用い、柔らかな曲線を保ち、身体と洋服の間に“ゆとり”のあるスタイルを打ち出した。ドレスも、シャツも、タキシードに至るまで、ガザル素材を用いた洋服は、緻密に設計されているからこそ、まるで中空に浮いているかのように軽やか。そしてその姿のまま、美しさをたもっている。これが軽いのに、構造的で、ある種の緊張感を伴う、ピエールパオロが見出した「バレンシアガ」のシルエットの真髄なのだろう。微妙なハリやコシ、そしてドレープや落ち感は、ガザルがシルクなのか、ウールなのか、それともコットンなのかで決まる。縫製や、ましてやディテールなどで、後から形作るものではない。素材を決め、カッティングして、ほんの少し縫製すれば、自然と形作られるかのよう。「鋏の魔術師」と呼ばれたクリストバルの再来さえ思わせた。シルエット自体は「ヴァレンティノ(VALENTINO)」の頃と変わらないが、軽さ、そして生地本来の力を引き出す工程は、ダーツなどを駆使して生み出してきた前職とは大きく異なる。
ピエールパオロは、「今までとは違うシルエットだが、先人との繋がりも感じられるだろう」と話す。その「先人」とは、クリストバルであり、デムナだ。事実、ドレスやスカートに合わせるボンバーズやレザーのTシャツは、デムナを彷彿とさせた。ピエールパオロは、「デムナは『バレンシアガ』をストリートウエアの世界に持ち込んだ。私は、文化としてのクチュールという概念を用いて、Tシャツやジーンズのように毎日着られるアイテムを制作したい。クチュールについて考えると美しさばかり考えてしまい、現実やクールさを忘れてしまうことがある。現実と深く関わるため、クールさは忘れずにありたい」という。「クールさ」を継承するデムナへの敬意を込め、モデルには一見不釣り合いな“デムナ風”のサングラスをかけさせた。シルエットはクリストバルから、リアリティやクールネスはデムナから、そして過去に敬意を表しながらも改革を恐れない大胆な姿勢は、「バレンシアガ」再来の立役者とも言える、現在「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でウィメンズのアーティスティック・ディレクターを務めるニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)にも刺激を受けたという。
自身も翻弄された昨今のデザイナー交代についてピエールパオロは、「まるで椅子取りゲームなのは事実だが、プレイヤーである私たちは人間。それぞれは、自分のやり方でゲームに加わっている。自分のやりたいことをするだけ」と話した。彼はさまざまな「人間」に敬意を表しながら、またこの椅子取りゲームに加わったのだろう。
「バレンシアガ」、そして親会社のケリング(KERING)からは、「一切の注文もなかった」という。