WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説していきます。
「店頭」という小さな単位から始める組織改革の王道
今回のテーマは「仕入れ精度改革は店頭から――マンガ『在庫管理の魔術』最終回に学ぶ成長の王道」です。
マンガ「在庫管理の魔術」の第16話は コチラ 。
マンガ「在庫管理の魔術」(全16話)を解説して来た当コラムも今回で最終回になります。最後に、これまでのストーリーを振り返りながら、アパレル経営や在庫運用に携わる読者のみなさんへの示唆をまとめたいと思います。
ストーリーの発端は、店舗バックヤード倉庫が水没して使えなくなるという災難でした。しかし主人公の徹は、その状況をただ嘆くのではなく、まず「店頭起点」で考えることから動き始めます。やがて倉庫や店舗間の在庫偏在を調整し、売り逃しを販売機会へと変えることで社内の需給ミスマッチを解消。結果として会社の業績を大きく押し上げました。
それをそばで見守っていたバイヤーのあいも、サプライヤーの利益を尊重しながら小ロット・短納期の供給体制を築き、外部とのミスマッチを改善。社内外の改革がかみ合ったことで、アパレルチェーン「ハンナズ」は業界平均を大きく上回る成長と収益性を実現したのです。
この過程が示しているのは、組織改革の王道です。改革は大きなところから一気に変えるのではなく、まずお客さまに最も近い「店頭」という小さな単位から始める。そして地域、全国へと段階的に広げ、上司や仲間の理解を得ながら浸透させていくことが成功の条件です。内部体制を整えずに、いきなり仕入れや外部取引にばかり手をつけても成果は限定的になりがちなもの。ハンナズが業界平均の倍の成長を遂げたのは、内部の仕組みを固めた上で外部連携に進んだからに他なりません。
各店の店頭在庫の最適化が出発点
最終話であるマンガの第16話では、単なるいち企業の「過去最高業績」というハッピーエンドではなく、さらに新しい展開が待っていました。
社長の安堂平磨(あいの父)が示したのは、フランチャイズ方式の導入です。内部と外部の流れを整えたうえで、競合が追随できないスピードで成長を加速させる仕組み――それがフランチャイズであり、現代で言えばプラットフォーマービジネスに通じる発想です。
フランチャイズには、多店舗展開のための資金をFCオーナーに委ねられる点や、地域に根差した経験豊富な人材を短期間で確保できる点など、多くのメリットがあります。日本のアパレル業界ではワークマン(WORKMAN)の事例がよく知られています。ワークマンでは本部が店舗を取得し、運営を地域の夫婦に委託する仕組みをとっていますが、これも“しくみ化された努力の結晶”があって初めて成立するビジネスモデルです。ハンナズが描く次の成長シナリオも、この流れに沿ったものといえるでしょう。
ここであらためて強調したいのは、「利は元にあり」という言葉どおり、アパレル事業の成否を分けるのは仕入れにある、という点です。但し、仕入れ精度を高める秘訣は、短期的なバイヤーのスキルの向上や、いきなり外部との交渉を行うことではなく、まず店頭にあります。チェーンストア内で在庫をいかに効率的に回すかを徹底し、その上で仕入れ判断の精度を磨いて行くことが不可欠なのです。
現在、多くの企業がサプライチェーン全体の在庫削減に取り組んでいますが、バイヤーやMDのグロスの仕入れ精度を高めるには、まずは各店の店頭在庫の最適化が出発点となります。徹やあいが仲間を巻き込みながら、ミクロからマクロへ改革を広げていったように、現場での改善を一歩ずつ積み重ねることが成功の秘訣です。そしてその過程を支えるのは、現場を理解する上司の支援と、トップマネジメントの強いリーダーシップに他なりません。
当連載の締めくくりとして、読者のみなさんにお伝えしたいのは次の一言です。
「仕入れ精度の改革は、店頭在庫の最適化から始まる」
そして、マンガの最後のセリフ「僕らには限界なんてない」って言葉にもシビれますね。

改革に挑む私たち自身を鼓舞するメッセージとして、ぜひ自社の現場を見直す第一歩に重ねあわせて前に進んでいただければ幸いです。