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服作りのイノベーションはレガシーにあり クリエイティブの祭典で語られた「着るの未来」

 未来を語ろうとするとき、未来志向になりきれない自分たちを責めたり後ろめたく感じたりしてしまうのは、日本のファッション業界の悪い癖かもしれません。クリエイティブの祭典「Any Tokyo2019」のプログラムの一環として開催されたトークセッション「着るの未来」では、バイオアーティストの福原志保、ファッションデザイン/デザインリサーチコレクティブSynflux(シンフラックス)主宰の川崎和也スペキュラティヴ・ファッションデザイナーが登壇。司会進行を村上要「WWD JAPAN.com」編集長が務め、ファッション業界が持つポジティブなレガシー(遺産)の可能性について語り合いました。

プロトタイプとバージョンという発想

 先端テクノロジー領域に詳しい2人の視点を、「ファッション業界が抱える閉塞感や停滞感を打破するヒントにしたい」という村上。ファッション業界はどうすれば変われるのかと聞くと、川崎氏は、ダイバーシティーやサステナビリティなどのビジョンは浸透・確立されつつ、ファッション業界はそれを実現・実践するフェーズへの過渡期であり、今まさに変わっている途中ではないかと言います。

 川崎氏はビジョンを実現するために、ファッションにプロトタイプとバージョンの概念を導入すべきだと話します。「環境問題をはじめとする社会問題やテクノロジーの応用は短期的なサイクルでは解決できません。そのためにプロトタイプをアップデートしていく技術開発のような考え方で、長期的に取り組む必要があると思います。毎回同じテーマに取り組み続けるため、ユーザーにとっても作り手にとっても、『変わらない』ことや『一貫すること』を受け入れる文化的な土壌が重要になると思います」(川崎)。

 これに対して村上は、各ブランドが持つ「ステイプル(ブランドを象徴する定番商品)」を評価するようになったコレクション動向を例に、ファッション&ビューティ業界も、少しずつブラッシュアップする姿勢に価値を見出せるようになっていると応じました。製品やサービスの成長過程を楽しむ仕組みやマインドは、クラウドファンディングなどの共感投資型の消費動向に見られる通り、一定の市場を形成し始めています。他分野の事例を考えると、これまで完成された結果のみを見せてきたランウエイさえ、ブラッシュアップの道程を示すものと捉える考え方が必要なのかもしれません。

「イノベーションなくして、レガシーなし」

 「イノベーションとは積み重なってきたもののこと、つまりレガシーです。イノベーションなくしてレガシーはありえません。伝統と呼ばれるものは、革新的に変化してきたから生き残っています」――プロトタイプやステイプルの話を受けて福原氏は、環境負荷や効率性に課題があったサンドブラッシュやストーンウオッシュを控えてレーザー加工を導入した「リーバイス(LEVI’S)」を挙げながら、素材や加工のイノベーションがデニムというレガシーを生んできた道のりを説明します。

 続けて、人の情緒的な側面に寄り添ったクリエイションを生み出してきた伝統工芸やクラフトの歴史はテクノロジー領域にとっても学びが多いと話し、川崎氏もこれに同調。身体知として蓄積されてきた職人の技術の履歴をデータとして残す重要性を説きます。その上で、その履歴を応用してクラフトの現場で行われてきたような試行錯誤やチャレンジングな遊びを実践することが、ファッションの可能性を広げるのではないかと提言しました。

 「人のエモーショナルな部分を美しくドライブすることは、ファッション業界が一番得意としてきたことだと自負しています。話を聞いて、ファッション業界がなしてきた歴史を再確認しました。個人的にもその面を押し出して異業種とタッグを組んでいきたい」(村上)。

過去に対する正しい評価を

 イベントが始まるまでは、「死んだ」「殺す」「サバイバル」などの物騒な言葉が並ぶ近年のファッション関連書籍よろしく、未来に向けて負のレガシーをいかに改善するかという議論が進むと予想していたのですが、意外にもレガシーをポジティブに評価する論調のまま閉幕したのは正直驚きでした。

 あまりにネガティブな面が顕在化し過ぎているためついつい見落としてしまいますが、ファッション業界には積み上げてきた技術とクリエイションの歴史と伝統があります。今回のトークセッションではこれからのクリエイションの可能性が焦点となりましたが、ファッション業界は変化の要因を外部に求めるだけでなく、積み上げてきたものの価値を今一度評価する必要がありそうです。

 今回語られたようなレガシーは、国内繊維産業の衰退につれて現在消失の危機に晒されています。残すべきレガシーの再評価とともに、負のレガシーを見極めて改善することにも取り組まなくてはいけません。革新的なアイデアを外部に求めて焦ってしまう気持ちを抑え、まずはレガシーと向き合うことでファッションの未来は描かれるのかもしれません。

 同トークセッションを企画したクリエイティブの祭典「Any Tokyo2019」の会期は11月24日まで。会場には川崎氏主宰のSynfluxによる作品や、福原氏が参加するHUMAN AWESOME ERROR(ヒューマン オーサム エラー)による作品など、幅広い領域からの作品が展示されています。未来を考えるために、足を運んでみてはいかがでしょうか。

■Any Tokyo2019
日程:11月16~24日
時間:11:00~19:00 (最終日のみ11:00~17:00)
場所:kudan house
住所:東京都千代田区九段北1-15-9
入場料:一般 1000円 / 学生 500円
出展者:脇田玲 / 鈴木啓太[PRODUCT DESIGN CENTER] / HUMAN AWESOME ERROR / ゴールデンピン デザイン アワード / 八木夕菜 / Synflux [川崎和也+佐野虎太郎+清水快+藤平祐輔] / 田中義久 + 大原大次郎 / YOY / mmm + Kenta Tanaka / サクマカイト バティック / ni-wa / 平川紀道 / 大城健作 / 井上嗣也 x 新良太 x 西村裕介 x 吉田多麻希 / echo project / TAKT PROJECT / 岩本幸一郎 / 松山祥樹 / alamak! project 2019 / 立石従寛 / 高島マキコ

秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。