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「テクノロジーをファッションをアップデートする一つの切り札として盛り上げていけたらなと」by川崎和也スペキュラティブ・ファッションデザイナー/シンフラックス主宰 連載「モードって何?」Vol.6

【#モードって何?】きっかけは読者から編集部に届いた質問「つまるところ、モードって何ですか?」だった。この素朴な疑問に答えを出すべく、「WWD ジャパン」9月16日号では特集「モードって何?」を企画し、デザイナーやバイヤー、経営者、学者など約30人にこの質問を投げかけた。答えは予想以上に多岐にわたり、各人のファッションに対する姿勢や思い、さらには現代社会とファッションの関係をも浮き彫りにするものとなっている。本ウエブ連載ではその一部を紹介。今回は川崎和也スペキュラティブ・ファッションデザイナー/シンフラックス主宰に聞く。

“新しい欲望を生み出すメカニズム”

WWD:“モード”とは何でしょうか?

川崎:めちゃめちゃ大きいテーマですが僕なりに答えますと、“新しい欲望を生み出すメカニズム”だと思います。“モード”には現象面での“モード”、あと制度としての“モード”の2種類があると思っています。現象としての“モード”は美意識や流行などを司るもので、制度としての“モード”は人間の体にまとうものを生産する川上から川下までの生産構造、パリを中心にしたシステムとして動いている。

最近はテクノロジーが“モード”に影響を与えていると考えています。テクノロジーには2つの要素“コード”と“ミーム”があり、これが“モード”に大きな影響を与えていると思います。

WWD:“コード”とは何でしょうか?

川崎:“コード”という言葉は、“記号”という意味や、“コンピューターのプログラム”という意味があります。日常的にSNSに接していたり、eコマースを使っていることを考えると、コンピューターの設計やウェブサイトの設計、インターフェイスの設計に洋服の選択が依存せざるを得ない。

例えば「アマゾン(AMAZON)」で買ったときと、「グッチ(GUCCI)」の公式サイトで買ったときでは、同じ人が買ったとしても選択の結果が違ったりする。その時のインターフェイスの権力はすさまじくて、そこに我々は洋服の選択や自分たちの美意識を結構託していると思います。なので、“モード”は“コード”、つまりコンピューターのアルゴリズムにある程度影響されていると言わざるを得ないです。

“モード”と“コード” 
アルゴリズムの可能性

WWD:ネガティブな印象を受ける話でもあります。

川崎:このようなコンピューターが洋服を選択する際に影響しているという話はネガティブに聞こえるかもしれませんが、AIの機械学習や深層学習、あるいはブロックチェーンなどの技術をよくよく見てみるとそういうわけではない。

例えばブロックチェーンは素材の産地・生産者を追跡してその洋服の生産プロセスをオープンにできる、トレーサビリティーを担保できるテクノロジーでもあります。こういった“コード”がより普及していくと“モード”が開かれる可能性がある。そういう意味で、いけないことだけではなくよいこともあるのではないかと思っています。もちろんこれもまだ兆しが見えてきている段階なので、一般層の手元に届くにはまだ時間がかかるかもしれないですが。

WWD:AIに関してはどのような可能性がありますか?

川崎:現在はAIが、デザイナーの強烈な個性が担ってきた役割との共存、あるいはなり代わるかたちでトレンド予測をしたり、提案をしてくれる。個人的にデザイナーの個性をいまでも素晴らしいと思っていますが。

しかし、レコメンドしたものは人間が本当に欲しいものなのか?あるいはコンピューターは、いままで人間が着てきた洋服のアーカイブなどから計算するものだから、その枠から出られないんじゃないか?予想外のものを“コード”が人間にオススメできるのか?などの声もあります。このように“コード”にはできることとできないことがあると思います。いずれにしてもファッションサービスの一部に応用され始めている過渡期なので、その是非を各方面と議論したいです。

“モード”と“ミーム” 
インターネットカルチャーの合流

WWD:“ミーム”とは何でしょうか?

川崎:“ミーム”とはそもそも生物学者のリチャード・ドーキンス(Clinton Richard Dawkins)が提唱した概念です。日本語でいうと模倣子(もほうし)。これは文化にも遺伝子のようなものがあるという考え方で、文化が発展していくときに、それを司るなんらかの要素があるという話です。例えばコラージュ画像がすごい勢いで拡散されたりするインターネットミームなどの現象。あれは結構“モード”に似ているところもあると思います。

北山晴一・立教大学名誉教授は“モード”を社会学者のゲオルク・ジンメル(Georg Simmel)の理論を引いて、人と同じになりたい、あの人と似た姿になりたいという同化と、人とは違う姿になりたいという差異化の矛盾する2つの力が働くことでファッションのサイクルが回っていると整理しました。現在それがインターネットを通してすごい勢いで拡散している。

最初のものがインターネット上でリミックスされていき、同じようで少しずつ違うものが何万何億という膨大な量でパクりパクられ、改変と模倣を繰り返して進化していくということが起きている。そういったインターネット上のコミュニケーションの変容が“ミーム”という現象を通して現れている。その“ミーム”を敏感に察知して“モード”が影響を受けているのではと思います。

WWD:クリエイターとして注目されている方は?

川崎:長見佳祐「ハトラ(HATRA)」デザイナーです。長見さんは「JFLFアワード 2018」も受賞されていますが、もともとは日本のいわゆるオタクカルチャー、インターネットカルチャーに刺激を受けてストリートに出てきたブランドです。彼のアイデンティティーの中にインターネット文化、オタク文化が根強くあり、彼自身が敏感に察知して製作に取り入れています。洋服のデザインはもちろん、ネット上でPRするときの画像の使い方やSNSの使い方、あるいは型紙のパターンカッティングのプロセスにアパレルCADのCLO3Dを取り入れているなど、デジタルに親和性を持ったブランド運営をされているため注目だと思います。

分野越境の対話

WWD:ファッション業界はテクノロジーを不安視しているところもある。

川崎:僕はファッションの王道にいるというより“水野一派”というか(川崎は慶應義塾大学SFC水野大二郎研究室出身)、外側から切り込んでいくポジションです。テクノロジーは不安をあおるものでもありますが、むしろ不安を解消するものとして期待していただいても大丈夫なのかなと思っています。個人的にも頑張ろうと思いますが、テクノロジーをファッションをアップデートする一つの切り札として盛り上げていけたらなと。

WWD:盛り上げるためには何が必要ですか?

川崎:テクノロジーとファッションをドロドロに混ぜることが重要だと思います。とりあえずやってみて一つコレクションを出して終わり!という話はよくあると思うんですけれども、お互いに影響し合うような関係が望ましいです。テクノロジーとファッションの融合自体がサステイナブルにならないとトレンドで終わってしまう。もう少し本質的なレベルでお互い議論し、勉強し合い、一緒にものを作るということをやっていきたいと考えています。

WWD;最近自分をさらけ出すことの重要性をよく感じる。

川崎:テクノロジーが発展することでパリコレが崩壊する、みたいな単純な話ではない。それぞれがオープンにしつつ各自の専門分野で頑張る。それでお互い影響し合えるようになれば、劇的な置き換わりではなく、新陳代謝するようにファッションは変わっていくと思います。

WWD:対話が大事なのかなと思います。

川崎:今回の企画「#モードって何?」ではそれがある程度実現され得るのではと思います。最初はカオスだと思うのですが、優れた調整役として編集者がいればうまくつながっていけるんじゃないかと。これが1回だけじゃなく、定期的にできればいいですね。

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秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。