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編集後記座談会:「エネルギーのダダ漏れは尊い!」 連載「モードって何?」Vol.13

【#モードって何?】きっかけは読者から編集部に届いた質問「つまるところ、モードって何ですか?」だった。この素朴な疑問に答えを出すべく、「WWDジャパン」9月16日号では特集「モードって何?」を企画し、デザイナーやバイヤー、経営者、学者など約30人にこの質問を投げかけた。ウェブでもこれまで12回にわたって、ファッション研究者や有力バイヤーらが考える「モードって何?」を掲載してきたが、今回はその締めくくりとして、特集を担当した記者による座談会を実施。「WWDジャパン」が考える「モードって何?」の答えやいかに……!?

座談会参加者

向千鶴:「WWDジャパン」編集長。海外コレクション取材歴20年以上。モードを愛し、モードの持つパワーを信じるパッションあふれる編集長

五十君花実:「WWDジャパン」ニュースデスク。ファッションのエモーショナルな面と共に、ファッションの産業としてのロジカルな側面の取材も普段から担当

秋吉成紀:「WWDジャパン」アルバイト。豊富な読書量に裏打ちされた、学問としてのファッションの知識を見込まれて、今回の特集では研究者の取材を担当

五十君花実(以下、五十君):特集お疲れさまでした。特集を担当したもう1人、大杉真心記者はロンドン&ミラノのコレクション取材に旅立ってしまったので座談会への参加は3人です。さて、「モードって何?」特集ですが、改めてどんな意図から企画したものだったんでしょうか?

向千鶴(以下、向):特集のリードやウェブ連載の冒頭に繰り返し書いてきたことではあるんだけど、「モードって何ですか?」という読者の方からの質問が編集部にたくさん寄せられた(注:「WWDジャパン」4月8日号に掲載した新入社員向け特集のために、SNSでファッション業界に関する質問を募ったところ、そうした質問が多数届いた)ことがきっかけです。その質問に答えようとしたんだけど、改めて考えると案外難しい。それで、いい機会だから突き詰めてみようと思ったのが企画の始まりです。

秋吉成紀(以下、秋吉):海外コレクションを含め、ファッションを幅広く取材している「WWDジャパン」なら、つかみどころのない「モードって何?」に答えてくれそうだと思われているんですかね。

向:実は私自身、ここ数年思うところがあって。こんなにファッションが好きな私でさえも、「現状のファッションビジネスの未来はどこにあるのか?」って、海外でショーを見ながらふと冷静になって考えてしまう瞬間があるんだよね。「ファッションシステムはこのままでいいのか?」って。モードという言葉をきっかけにして、これまでのファッションシステムを見直してみたいというのも、自分の中ではテーマとしてありました。

五十君:向さんの言う「現状のファッションシステム」というのは、具体的に何を指していますか?

向:パリコレをピラミッドの頂点にして、トレンドが上から下に伝わり、同時に生産から販売のフローとしては、左から右に不可逆的に流れていく、という動きのことです。トレンドを作って欲望を喚起し、売り減らしていく、という流れね。

五十君:確かに、アパレルの大量廃棄などは今や社会問題化しています。「業界内のシステムが長年こうだったから、しょうがない」ではもう済まないですもんね。

向:もちろん、大量廃棄などの側面から今までのシステムに疑問を抱いたという部分は大きいんだけど、それと同時に、ショーを見ていても純粋に面白いとは思えない瞬間が増えていたんだよね。私はジョン・ガリアーノ(John Galliano)やアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)の時代から海外コレクションの取材をスタートしているんだけど、あの頃のショーは本当にエモーショナルだった。でも今は、クリエイティブ・ディレクターがち密に計算した上で欲望を作り出す時代。「あのころはよかった」だなんて当時のことを語ってもそんなのはただの郷愁だし、そんな気持ちの人にショーをレポートされても読者は迷惑だと思う。そういったことをいろいろ考えていて、自分の中でモードの価値観をアップデートしたかったんだよね。

秋吉:取材していても思いましたが、世代によって感じていることが違って面白いです。僕は今25歳なんですけど、「パリコレってスゴイ!」みたいな感覚は持っていない。生まれた時から「ユニクロ(UNIQLO)」も「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」も同列に存在していたし、日本経済が“失われた30年”といわれる中で生きてきた。僕の中でモードっていうのは、 自分以外のどこかを中心として勝手に欲望が作られて、それに巻き込まれる、引きずり回されるイメージ。まるでリードにつながれて引っ張られる犬みたい。興味がないわけじゃないけれど、たまにでいいかな、という感じ。

五十君:私は今30代半ば。パリなどのコレクションを取材すると、確かに「面白い」「伝えたい」と感じる何かに毎回必ず出合うんだけれど、ショーを見てそのスペクタクルに刺激されて、猛烈に圧倒されたという向さんのコレクションの原体験とはやはり違う気がします。だからといって、秋吉くんほどニヒルな感覚でもない。やはりちょうど中間の世代なのかも。

向:「WWDジャパン」は、バイヤーやビジネスパーソンは普段からよく取材しているんだけど、今回の特集では秋吉くんを水先案内人として、意識的にファッション研究者を多数取材しました。一口に研究者といってもバックグラウンドはバラバラ。まるで映画を観るような感覚で取材が進んだのが非常に印象的でした。

秋吉:学問としてのファッションは、日本では鷲田清一さん(注:大阪大学総長も務めた哲学者)から始まるといっていいと思います。それを成実弘至・京都女子大学教授らが整え、蘆田裕史・京都精華大学准教授、水野大二郎・京都工芸繊維大学特任教授の世代が押し広げて、さらにその次に、研究もしつつビジネスの実践の場にも身を置く藤嶋陽子ZOZO研究所リサーチサイエンティスト、川崎和也スぺキュラティブ・ファッションデザイナーらの世代が続きますね。

向:どの方もお会いしてみたかったんですが、なかでもやはり鷲田さんには一度お話を聞いてみたいと思っていました。「モードの迷宮」(注:1989年に筑摩書房より出版された鷲田の著作)を改めて読んで、この人が今の時代をどう見ているのか聞いてみたかったんだよね。仙台の講演会にお邪魔して、手紙を渡して取材を申し込んだんだけれど、結果として取材は叶いませんでした。ただ、そのお断りの文面が非常に納得がいくものだった。これ、記事に出してもいいと思うんだけど、要約すると「私は『ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)』『コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)』が日本でショーを行わなくなって以降はファッションを語っていない。ファッションは上から語るものではなく、現場に身を置いて、現場から語るべきもの。現場に身を置いていない私は語るべきではない」といった内容でした。

五十君:鷲田さんがおっしゃる、「現場に身を置いて、現場から語る」というのを、まさに今の時代に実践しているのがZOZO研究所の藤嶋さんたちの世代かもしれませんね。

向:われわれ記者も、現場で見て、それを伝えるということが大切だと改めて思ったし、背筋が伸びる感覚でした。研究者はどなたも思考のスパンが長いです。ビジネスでは短期での結果がどうしたって求められるけど、研究者は半年、一年、それ以上のスパンでファッションの先を見通そうとしている。それが、今回の特集で意図的に研究者の方にたくさんお会いした理由です。さっき、私が「研究者の取材は映画を観るような感覚だった」と表現したのもそのためです。映画は長期的に作るものだから。

五十君:研究者の話が続きましたが、特集全体として、印象的だったコメントは他にどんなものがありますか。私は南青山のセレクトショップ、アデライデのバイヤー、長谷川真美子さんの言葉をぜひご紹介したいです。「モードって見つけづらいものなんだけれど、展示会やショーで他とは違う光を放っていてるから魅了される。それを見つけてくるのは、まるで、岩場に同化している保護色のアワビを長年の経験や勘、感性で獲ってくる海女さんのようだ」といったことをおっしゃっていたんですが、長谷川さん独特のユーモアやウィットが非常にチャーミングです。

秋吉:僕は編集者の中島敏子さんの言葉にすごく納得しました。モードとは「時に涙が出るほど華麗で軽薄で、熱狂と倦怠を交互に繰り返す運動体」ということでしたが、モードとはシステムなんだということをズバッと言い切っています。

向:私はどの方の言葉も印象的だったけど、そのうちの一つはストリートスナップ誌「フルーツ(FRUiTS)」の創設者である青木正一さんのコメント。ストリートに身を置き続けている青木さんならではの目線で、「モードのシステムが存在しない環境でのストリートファッションは、実はつまらない」とおっしゃっていました。ファストファッションが世の中を圧倒していた2010年前後を振り返っての言葉です。

五十君:さて、そろそろこの座談会も総括に入りますが、向さんはこの特集を通して、自分の中の「モードって何?」にどう答えを出しましたか?

向:私がこの特集をしようと思ったきっかけは、この対談の前半でも語ったようにすごく感傷的だったんだけど、「モードの体系」(注:仏の哲学者、ロラン・バルト=Roland Barthesによる1967年の著作。モード論の原点として今回の特集内でも何人かから名前があがった)って、英語版だと「The Fashion System」っていうタイトルなんだよね。“モード=ファッション”とすごく単純に訳されている。それを私は特別な気持ちで解釈しすぎていたとは思う。でもそれって、私だけじゃなくてみんなそうだと思う。日本は敗戦国として洋装を徐々に受け入れて、欧米へのコンプレックスを下地に、モードというものをその時々で捉えていった。だからこそ、モードに意味を持たせ過ぎる感覚が生まれたんじゃないかな。

秋吉:「モードとは単なる言葉だ、欲望を喚起する記号だ」というバルトの原点に戻ればいいということですか?

向:原点通り、欲望を喚起する記号ではあるんだけど、でも欲望の湧き出し方が今は昔とは違う。昔みたいに、世の中全体で共有できる大きな物語や大きな欲望があるわけじゃない。小さな欲望の集合体からふつふつと湧き出るものを、つぶさに見ていくことが大切なんだなと思う。無理やりモードって言葉に意味を持たせようとして、みんなゴメンね!という気分です(笑)。

五十君:その小さな欲望をなんとか喚起できないかと、企業やデザイナーは腐心しているというのが、ファッション業界の現状ということですね。

向:大きな欲望ではなく、小さな欲望だといっても、それを喚起するにはすごいエネルギーが必要だし、そうしたエネルギーを持っているモノや人が、私は魅力的だと感じる。「モードって何?」特集の前週の「WWDジャパン」9月9日号は、村上隆特集を掲載したよね。実は私の中で、この2つの特集は2つで1つといった感覚です。村上隆特集は1万5000字の超ロングインタビューで村上さんを掘り下げているんだけど、その中で「個人的な体験を世の中にダダ洩れさせていくのがアーティストやクリエイターだ」といったことを村上さんは言っているんです。「リミットを外して、どれだけ自身を外に対してさらけ出していくことができるか」って。それが世の中に与えるエネルギーなんだと思うし、やっぱり私はそういう人が好き。「WWDジャパン」は、そういう人を応援できる媒体でありたいと思っています。

五十君:リミットを外して世の中にさらけ出す、という点では、今回の特集の表紙がまさにそれですよね。

向:表紙は、カメラマンの沢渡朔さん、スタイリストのふくしまアヤさんらとチームを組んで、渋谷で撮り下ろしました。沢渡さんたちにお願いしたのは、「忖度なく、自分が今、かっこいいと思う感覚を表現してください」ということだけ。そういう風に言える雑誌や媒体って、実は今すごく少ないんですよね。でも、忖度なしで、自分がいいと思うものをクリエイター同士がさらけ出してぶつかり合う中で、いいものは生まれると思うから、そうお願いしました。

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