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「写真から解き明かすモード」by沢渡朔 × ふくしまアヤ 連載「モードって何?」Vol.7

「WWDジャパン」9月16日発売号「#モードって何?」では、その問いに各人がそれぞれの思いを持って答えている。どれもが正しく、洋服のアプローチとして“モード”の定義と言い切れるものは存在しないのかもしれないとさえ考えさせられる。一方で、何かに憧れたり夢を見続ける情熱や常に進化を求める実験的な姿勢は全員の共通点でもある。表紙撮影を依頼したのは沢渡朔。写真家としての活動が50年を超えた今も「現場が全て」と言い切り、撮影では予期せぬハプニングを期待しながら、渋谷の街中を縦横無尽に歩き回る。そのタフさと、少女の写真にこだわり続ける情熱に“モード”の片鱗を見た。届いた写真は問答無用に“モード”だったことは言うまでもない。今回はスタイリストとして参加し、“究極のバランス”が最も表現されている世界観を作ることに徹するふくしまアヤとともに、あらためて撮影を振り返ってもらった。Profile 沢渡朔 1940年東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。日本デザインセンターに勤務後、フリーの写真家として「流行通信」(流行通信社)や「ハイファッション(Hi Fashion)」(文化出版局)等の雑誌で活躍。日本広告写真家協会奨励賞、日本写真協会年度賞などの受賞歴を持つ。近年は女優やアイドルの写真集などを手掛ける。著書に『森の人形館 NADIA』(毎日新聞社)、『少女アリス』(河出書房新社)など ふくしまアヤ 1980年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部工芸学科卒業。ものを1から作り出すことよりも、既に存在するワクワクするもの同士を掛け合わせ、新たな世界観を表現することを得意とし、25歳の時にアパレルデザイナーからスタイリストへ転向。現在は、国内外のモード誌や広告を中心に表現の幅を広げている WWD:最初にモード特集の表紙撮影と聞いてどんなイメージを持ちましたか? 沢渡朔(以下、沢渡):最初はなかなかイメージができなかったんですよ。でも、以前ふくしまさんとご一緒した撮影がすごく楽しかった。僕は今、雑誌をちゃんと見ていないから、ふくしまさんの話ならOKって……そんな感じだったの。
“世界観を作るための究極のバランスの方程式” by Aya Fukushima ふくしまアヤ(以下、ふくしま):うれしいです!私は「モードって何?」というテーマを聞いて、まず写真の世界観を作るための究極のバランスを考えました。そのための方程式には、これまでファッションという潮流で素晴らしい写真を撮られて、酸いも甘いも知り尽くしている写真家は沢渡さんしかいませんでした。 沢渡:いやいや。でも、編集部と打ち合わせた時に自由に撮っていいというので、こんなに楽しい仕事は何年ぶりかなって思ったんだよね。今は時代的にも難しいから。 WWD:特にファッション誌は難しいですね。今回、最初の打ち合わせでロケで撮影することはすぐに決まりましたが、渋谷の街に決断されたのはなぜでしょうか? 沢渡:来年はオリンピックだし、昨年あたりから渋谷の周辺でよく撮影していたから。雨のシチュエーションで少女もファッションも撮影した。混沌とした雰囲気というか、渋谷のゴチャゴチャしながら変化していく様を背景にするのが気持ちよくて。でも、もう半分以上が完成しちゃってたね……国立競技場の周りもきれいに整備されてたし。 ふくしま:リアリティーを感じられる点で、“未完成の渋谷”がはまったんですかね。 沢渡:どうかな。結局、面白ければどこでもいいわけですよ。
ふくしま:(笑)。私は”未完成の渋谷“から、沢渡さんのイメージする女性像を考えて、完成された女性ではない儚い”未完成の美”のために、予定不調和な想定外を生み出すよう、自分の方程式に当てはめながら方向性を定めました。スタイリングは“未完成の雑踏”と対極の“とてつもない完成度の美しいドレス”。ちょうど、ファッションの時代の潮目もストリートからドレスに移ってきていて、気分的にはまだうっすら残るストリートが20%、高まるドレスアップが80%の気持ちでスタイリングを表現しました。 WWD:沢渡さんは現場で初めて完成したスタイリングを確認されましたね。 “予期しないハプニングが重要” by Hajime Sawatari 沢渡:ロケハンした時に、きたない電話ボックスや歩道橋とかいくつか候補を決めたじゃない。後はモデルのローラとつくっていけばいいわけだから。バス停の撮影では突然雨が降ってきたけど、傘を差して続けたでしょ。そういう予期しないハプニングが重要。ロケバスに戻ればそこで終わってしまうように、こっちで勝手にイメージを操作するような行為はダメ。 ふくしま:歩道橋の撮影では、ローラが履いたヒールで動きが制限されたときも「そのまま立ってよう」と、現場で起こるあらゆることに呼応しながらつくっていきましたね。 沢渡:今はどんな雑誌でも、洋服のディテールを見せなきゃいけないという前提があるからなかなか難しいよね。正直、僕が20歳の頃にファッションの撮影をしたいと思ったきっかけは女性が撮れるから。洋服への興味はいたって普通なので、そこはふくしまさんにお任せなわけです。 ふくしま:沢渡さんは被写体と淡々と向き合うのではなくて、心の距離感をつかむ写真家。それを縮めることができるようなスタイリングやモデルを考えました。沢渡さんの突き詰めているイメージに寄り添いたかったです。 WWD:オーディションから撮影までを通して、モデルのローラはどんな印象でしたか?  ふくしま:初々しさもあって、予期しないハプニングが生まれやすかったのかも。
“既視感のある写真にはしたくない” by Hajime Sawatari 沢渡:モデルの前に、ロケで撮ることだけは決めてたね。“モード”っていう特集の、しかも表紙なので、既視感のある写真にはしたくなかったから、洋服が見えてなくてもいいし、ブレていようがいまいが、寄っても引いてもいいなとは考えてた。 ふくしま:純粋に強いモード写真を撮影していただきたいという思いで沢渡さんにお願いしましたしね。 沢渡:僕は現場が楽しければベストだと思ってるの。そうするとおかしな写真にはならないわけ。写真も撮影したその日に粗選びするしさ。撮影の現場の次に楽しいことだよね。 ふくしま:ストレートに写真が好きだと伝わってきます。それに“少女性”ってファッションや美には必要不可欠ですけど、ずっと追い続けるのは簡単ではないですよね。 沢渡:僕が33歳の時に「ナディア」を発表して、その秋に「少女アリス」の写真集を作った。その時点ですでに自分がやりたいことをやっちゃった。それ以降はファッションも撮ったけどね……当時は少女も自由に撮れたから、生涯のテーマになりうると思ったんですよ。 ふくしま:年齢を重ねて、よりいっそう強く思うようになったと。 沢渡:でも、みんなそう思ってるはずだよ。荒木(経惟)さんも、篠山(紀信)さんも少女を撮りたいっていう気持ちはある。バルテュス(Balthus)だって少女を描いていたでしょう。神秘性があって完成されていない感じがいいんだよね。
ふくしま:写真家って自発的に撮影する方と、依頼されて撮影する方がいますよね。 沢渡:森山(大道)さんも荒木さんも撮ったものが全て作品になるじゃないですか。作家だよね。僕はその中間なのかな。依頼されて撮るのが好きなの。1960年代に少女を撮りたいと思った時点で、ファッションもコマーシャルもやらなきゃいけなかったから。 ふくしま:沢渡さんは被写体の女性と恋愛されることはあるんですか? 沢渡:別に何かが始まるという意味じゃなくて、撮影しているときは軽く恋愛しているような気持ちで撮ってますよ。それは当たり前です。だって、気持ちよく撮れるでしょ。 ふくしま:そうですね。タフだし、決断力も好奇心も現場で一番若いと感じました。撮影で指示を出すこともほとんどないですよね。
“現場の生っぽさを生かす” by Hajime Sawatari 沢渡:ある程度、自分のイメージしたものが撮れればいいから。細かく説明する必要はないですよ。演出したり指示を出せば出すほどダメになる。現場の生っぽさとかハプニングはなくなっていくからね。 WWD:予定調和は少ないほうがいいですね。 沢渡:そうだね。今は決まり事が多いから。その中でいかに自由にできるかっていう考え方もできるけど、現場は自由であるべき。だって、写真が発表される場所や形式は、媒体やデザイナーによるからね。 ふくしま:撮影の現場と撮影後のこだわり、沢渡さんの興味は前者ですね。 沢渡:昔は現像も自分でやっていたけど、好きなように焼きこんだりできるから、選択肢が無限に広がると悩み過ぎておかしくなっちゃうんですよ。森山(大道)さんのように自分でプリントを作っていくのって、ものすごい精神力だよね。 ふくしま:プリントまでが作品という写真家もいますよね。 沢渡:僕は逆だけど、それがいいのかは決して分からない。 WWD:今回、デジタルで撮影をしたのはなぜでしょうか? 沢渡:単純にたくさん撮りたかったから。フィルムで一発で決めるという感じでもないし、ハプニングにスピーディーに対応できる良さもある。雨が降ったときとか、いいと思う瞬間に撮れないシチュエーションの可能性を想定するとデジタルがいいと。 WWD:撮り直しがきくという、デジタルの一般的なメリットではなく、デジタルをフィルムの感覚で撮るということでしょうか。 沢渡:そう。そういう“使い方”ね。デジタルでできることは利用したらいいし、別にフィルムにこだわらなくてもいい。 ふくしま:現場が好きだから、その手段は何でもいいのかもしれないですね。 沢渡:とはいえ、ある程度は考えますよ。ただ、僕よりももっとそういったことを追求している写真家がいるのは事実……でも、僕は現場。 WWD:ふくしまさんはどうですか? ふくしま:スタイリストもスタイリングをしっかり見せたい人と写真の世界観をつくりたい人がいますが、私は完全に後者です。 沢渡:だからいろいろな写真家と仕事ができるんじゃない?
究極のバランスを突き詰め 『モード』を体現” by Aya Fukushima ふくしま:はい。極論ですが、私にとってそれぞれのアイテムはそこまで重要ではなく、一枚の写真になったとき、イメージしていた方程式が成立していればOK。今回は全てがゲリラでミステリーツアーみたいな撮影の中、沢渡さんはその答えを導いてくれました。お互いが考えているゴールが一緒であれば、プロセスは自由だと考えているので、究極のバランスを突き詰めることで“モード”を体現できるのだと再認識しました。 WWD:お2人の考え方も現場も極めて若い印象です。 沢渡:80歳には見えないでしょう。 ふくしま:全然見えない。 沢渡:また、こういう撮影ができたらうれしいよ。ラッキーな撮影だったね。 # WHAT is “ MODE ” 【白と黒のドレス】ドレス 210万円/オスカー デ ラ レンタ(三喜商事)、リフレクションタイツ 6万2000円/マリーン セル(エムエイティティ)、グローブ 7万5000円(参考価格)/リック・オウエンス、リフレクションブーツ 15万6000円(参考価格)/ベン ダヴァニティ™️ アンラベル プロジェクト(共に、イーストランド) ネックレス(K18WG×ダイヤモンド) 628万6000円/ポメラート(ポメラートブティック 銀座店) 【ビジューのドレス】ドレス 430万6000円(参考価格)/アレキサンダー・マックイーン(アレキサンダー・マックイーン)、リフレクショントップス 3万7000円、リフレクションショートパンツ 4万8000円、タイツ 2万3750円/以上、マリーン セル(エムエイティティ )、スカーフ 13万9000円/アレキサンダーワン(アレキサンダーワン)、ブレスレット右手上(K18RG×SV×ダイヤモンド) 663万9000円、右手下(K18WG×ダイヤモンド) 368万2000円、左手下 (K18WG×ダイヤモンド)803万3000円、左手上(K18RG)256万円/以上、ポメラート(ポメラートブティック 銀座店)リフレクションブーツ 15万6000円(参考価格)/ベン ダヴァニティ™️ アンラベル プロジェクト(イーストランド) SHOP LIST:三喜商事 03-3470-8232、エムエイティティ INFO@THE-MATT.COM、イーストランド 03-6712−6777、ポメラートブティック 銀座店 03-3289-1967、アレキサンダー・マックイーン 03-5778-0786、 アレキサンダーワン 03-6418-5174 PHOTOS : HAJIME SAWATARI STYLING : AYA FUKUSHIMA(OTUA) HAIR & MAKEUP : KOUTA(EIGHT PEACE) MODEL : LAURA MARIE(WIZARD)