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「服の見た目のかっこよさや意味だけに特化した“モード”がほぼ終わりを迎えている」by水野大二郎特任教授 連載「モードって何?」Vol.3

【#モードって何?】きっかけは読者から編集部に届いた質問「つまるところ、モードって何ですか?」だった。この素朴な疑問に答えを出すべく、「WWD ジャパン」9月16日号では特集「モードって何?」を企画し、デザイナーやバイヤー、経営者、学者など約30人にこの質問を投げかけた。答えは予想以上に多岐にわたり、各人のファッションに対する姿勢や思い、さらには現代社会とファッションの関係をも浮き彫りにするものとなっている。本ウエブ連載ではその一部を紹介。今回は水野大二郎・京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab特任教授に聞いた。

日本だけを見ていてもしょうがない

WWD:“モード”とは何でしょうか?

水野大二郎・京都工芸繊維大学特任教授(以下、水野):みなさんの“モード”の解釈を統合したらなんとなくの輪郭は出てくるとは思いますが、一般的な意味としては“流行” “慣習” “時勢に合った様相”です。ファッションが取り立ててあからさまだったから“ファッション”=“モード”と思われていましたが、“モード”は必ずしもファッションのことだけじゃない。プリンもプリン・アラ・モードですし。

要は“人の生活全般に関わるある一定の期間にだけ立ち現れてくる慣習的なもの”と考えています。それは消費するものごとと関係している場合が多いため、車や電化製品など消費対象になっているもの全てに“モード”がある。

WWD:2019年現在の“モード”ではなにが起きていますか?

水野:僕は日本だけに限定した一過性の社会現象やファッションだけをあまり見ないようにしています。日本だけを見るのも面白いですが、日本が持っていた文化的な発信力はすごい弱くなってきていると思うので、そこだけ見ていてもしょうがないと思っているのが正直なところです。

ではなにを見てるのかというと、僕が慣れ親しんでいたイギリス(水野特任教授は英国王立美術大学ファッションデザイン博士課程後期修了)を中心としたヨーロッパでのデザインを取り巻く“モード”です。“デザイン”といってもプロダクトなどのことだけではなく、社会や政治、環境問題を対象にする広い意味での“デザイン”がヨーロッパにおいてどのように扱われているのかに興味を持っています。

バイオ・デザインの潮流

WWD:ヨーロッパにおけるデザインに関して、どのような現象が起きていますか?

水野:現在、京都工芸繊維大学KYOTO Design Labで海外プロジェクト連携・海外交渉を担当しており、夏の海外出張でセント・マーチン美術大学(Central Saint Martins以下、セント・マーチン)やロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(London College of Fashion)があるロンドン芸術大学(University of the Arts London)、オランダのアーネム芸術アカデミー(ArtEZ Academy of Art & Design Arnhem以下、アーネム)、同じくオランダのアイントホーフェン・デザイン・アカデミー(Design Academy Eindhoven)などの研究者と話をしてきました。

出張を通してわかったことは、服の見た目のかっこよさや意味だけに特化した“モード”がほぼ終わりを迎えているということ。見た目のかっこよさや意味などは、環境系の問題に対してなんのインパクトもないので、その上にどのようなものを作るか?ということについて議論して、成果を発表しようとしている状態にある。例えばセント・マーチンの、素材からのデザインを研究するマテリアル・フューチャーズ(Material Futures)という修士過程に、かつてだったらコンセプチュアルなデザインを志したであろう学生が流れている。

WWD:特に顕著な動きは?

水野:現在、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)のような方向性に共感する人が増えています。成果物もラディカルで素材からデザインを始めるような事例が多い。いままでのコレクションでコンセプチュアルなものを出す、みたいなものとは違う次元に来ています。

セント・マーチンやアーネムなどではバイオ・デザインの潮流が顕著です。アーネムでは世界的に評価の高い農学部を擁するワーヘニンゲン大学(Wageningen University)とコラボして彼らのバイオ技術を参照しながら、“マイコテックス(MYcoTEX)”というキノコ由来のバイオ素材などを使った新しい服作りを実践している。“美しさ”のようなこれまでの価値観を守りつつ、新しい素材やアプローチで服を作ることで社会的な問題に対して新しい解決の可能性を提示しようとしている。

名付けようのないクリエイター?

WWD:日本国内ではどのような動きがありますか?

水野:日本は長見佳祐「ハトラ(HATRA)」デザイナーがCLO3Dを導入するなど、デジタル技術を使ったデザインがようやく普及定着し始めたという段階。僕がそれを言い始めたのが2012年なので、やっとだなと思います。12年頃デジタルファブリケーション領域で活動していた人たちは現在バイオ・デザインに流れている。だからデジタルファブリケーション技術を前提にしてバイオマテリアルを作る方向性はまた5〜6年後くらいに日本にも来るのではないでしょうか。

WWD:バイオマテリアル技術のような理工知にデザイン的思考、感性はどのように関係してくるのでしょうか?

水野:それがないと意味がないと思います。紹介したセント・マーチンやアーネムはいわば美大。強度や堅牢度などの工学的な評価基準だけに終わらせない視点も必要です。

デジタルファブリケーション領域で新しいデザインを模索している名付けようのないデザイナーなのかエンジニアなのかよくわからない人たちはもう次の次くらいの段階まで行っています。おそらく“モード”はファッションのこれまでの価値基準を守りながら、バイオマテリアルなどを中心にしたデジタルファブリケーション・バイオ技術を前提に実験的なものを作っていくことになると思います。

WWD:その名付けようのない存在にはどのような人がいますか?

水野:例えば、川崎和也主宰のシンフラックス(SYNFLUX)(川崎は慶應義塾大学SFC水野大二郎研究室出身)。情報系にも強く、サステイナビリティーなどの課題を意識しながら実践している。なんと言ったらいい人なんですか――という感じです。

シンフラックスが開発したAIを活用したパターンメーキングシステム「アルゴリズミック・クチュール」のイメージ動画

ありうる可能性を提案する

WWD:課題を解決するという意味だと、従来のプロダクトデザイナーが言うところのデザインに近いように思える。ファッションデザイナーは課題を解決するというより、欲望を後押しするようなところがあったと思う。

水野:欲望を駆動させるという90年代的な発想はもう終わったと思います。お金は必要だけれども、消費を喚起するよう記号的に操作して資本主義経済を駆動させるという考え方だけだとやばいと思っている人たちはすごく多くなっている。

課題解決としてのデザインも2000~10年代に定着したデザインの一つの解釈だと思いますが、これも終わりを迎えつつあります。例えばレザーをやめるだけで解決するような簡単な話ではない。課題解決案を単純に出せるほど甘くないですから。いまの若い世代は課題を解決するということだけではなく、課題がそもそも何で、どこに解決の可能性があるのかということを考え、ありうる可能性を提案しているという状況にいます。

WWD:ファッションデザインにはどのような可能性があるでしょうか?

水野:ありうる可能性を提案することはファッションがいままで散々やってきたこと。これまでのラディカルでコンセプチュアルなファッションが好きな人でもそこは納得、共感できるはずです。いずれにしても、次の次くらいの社会を目指したありうる提案をして、そこに向けて生き延びうるくらいの生態系、それはビジネスの生態系でもあり社会の生態系でもあり環境の生態系でもあるようなものを作ろうとしている。

アルゴリズムと人間の創造性の
ハイブリッド

WWD:現状において何を突き詰めたい?

水野:サステイナブルな生態系作りやコンピューターを使った新しい服作りなど、いままでデザインスタジオがやってきたことでは補い切れないことをラボでやることです。スタジオでの作業からラボでの実験に向かっていかないといけない。実験・実践で生まれた実物とともに説明するということを、取り合えずやろうかなと。これは産業だけではなく学校の話でもあり、従来の教育制度を超えた授業のやり方、研究のやり方に変えないと実現できない。

先ほどのセント・マーチンの事例のように、一つの学校で補い切れない場合は外部とコラボしていく必要がある。それをやるには教員・学校が旧態依然としいては不可能です。ただ、その仕組みを日本で実現できるのかはわからない。専門学校がどうなるのか皆目見当がつかないです。だからほとんどつぶれるんじゃないですか?

WWD:理工知を持たなければ生き残れないのではという不安が頭をもたげます。

水野:服作りに焦点を当てて話すと、手作業の時代からアパレルCADなどで手作業をコンピューターに置き換えた時代を経て、最終的にはコードを書くことでコンピューター自体が得られた情報を自動で深層学習し、形を自動算出するという時代になりうると思います。多くのデザイナーがいなくなるかもしれませんが、これは何十年もかかることですし全員が駆逐されるわけではない。全体のパイの比率が大きく変わるということ。

素材に関してもバイオ繊維などが出てくると、サステイナブルではない素材はおそらく消えていく。ビジネスモデルの生態系にしても、単純に人間の経済的な考え方だけではなく、環境系の問題が人間の構造を制約するようになる可能性はある。また、アルゴリズムが人間の行動を決定するようなサービスがたくさん出てくるだろうし、それがやがて主流にはなると思います。これらを総して理系の話ということになるかもしれませんが、人間はアルゴリズムだけで動かないと思います。レコメンドされているものをいいと感じるとは限らない。

WWD:今後、どのような課題があるのでしょうか?

水野:ビジネス、素材、デザインプロセスなどがごちゃ混ぜの状態ですが、明らかにコンピューターが介入してくるような世界観に向かっている。他方で、人間の創造的な行為はそれなりには残ると思うので、そのハイブリッドをどう作り出すかがいまのファッションデザインに限らないデザインの課題になるのではないでしょうか。

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秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。