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破綻バーニーズで知っておきたい3つのこと

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 経営破綻した米バーニーズ ニューヨーク(以下、バーニーズ)の売却先が米ブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(以下、ABG)に決定した。売却額は2億7100万ドル(約292億円)。1982年にバーニー・プレスマンが創業したアメリカを代表するスペシャリティーストアは2度目の破綻を経て、大きく変化する。なぜバーニーズは破綻したのか?そして今後どうなるのか?さらに新たな親会社ABGについて解説する。(この記事はWWDジャパン2019年11月11日号からの抜粋です)

Q.1 破綻の原因は?
 バーニーズは米国に22店を運営し、売上高はおよそ8億ドル(約864億円)、従業員2300人を抱えていたが、売り上げ不振が深刻だった。情報筋によれば、バーニーズのマンハッタン旗艦店の業績はピーク時で2億ドル(約216億円)程度だったが、ここ何年も売り上げが伸びていないという。シカゴ店は一時期5000万~6000万ドル(約54億~64億円)の売り上げがあったが、現在はその半分ほどと見られている。

 今回の破綻はマディソンアベニュー旗艦店の家賃が3000万ドル(32億円)にまで高騰したことが大きな要因とされていたが、同店とロサンゼルス店の家主である不動産投資会社アシュケナージ・アクイジションは、店舗は賃料の値上げ後もそれぞれ2000万~3000万ドル(約21億~32億円)の利益を上げていたと反論している。また、ボストン店も少ないながらも黒字だったという。とはいえ、家賃の上昇はバーニーズの利益を圧迫したことは間違いない。

 売り上げ不振の大きな原因はECが普及し、「ネッタポルテ」や「ファーフェッチ」などが台頭してファッション業界のデジタル化が進む中、その波に乗り遅れてしまったところにある。バーニーズの元社員は、「バーニーズにもECを強化しようという気運はあった。しかし本格的に取り組むには多額の費用がかかる上に、インターネットがここまで成長するとは誰も予測できなかったので、それほど多くの投資をしなくてもいいのではという消極的な方向に動いてしまった」と語った。

 また、品ぞろえでの独自性も保てていなかった。「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」などのヨーロッパのビッグメゾンへの需要に対応できず、得意としてきた新進ブランドや個性的なブランドの集積も振るわなかった。ジュエリーブランド「スピネリ キルコリン」のイヴ・スピネリ=デザイナーは「バーニーズは創造性に優れた小さなブランドを発見することに定評があり、われわれもバーニーズに見出された。しかし、ある程度の規模になると、“事業拡大か、バーニーズか”という二者択一を迫られてしまう。われわれのブランドも苦渋の決断の末、今年初めにバーニーズから離れることにした。ラグジュアリーを取り扱う小売りは、こうした古臭い考え方を改める時期ではないだろうか。この多様性の時代においては、“限定”を売りにするのではなく、素晴らしいサービスやユニークな買い物体験を顧客に幅広く提供することが大切だし、そのためにはブランドも多様であるべきだと思う」と語った。

Q.2 今後どうなるの?
 ABGの興味は主にバーニーズのオンラインビジネスと知的財産権にある。同社はまず小売大手ハドソンズ・ベイと米国とカナダにおけるECを含む小売りとアウトレットのライセンス契約を締結。ハドソンズ・ベイ傘下にあるサックス・フィフス・アヴェニュー(以下、サックス)の店舗に「バーニーズ ニューヨーク」のインショップを構えていく。これはつまり、バーニーズのビジネスがライセンスに切り替わり、サックスがバーニーズの名を冠した店舗とECを米国とカナダで運営することを意味する。

 まず2019年2月にリニューアルオープンしたサックスの五番街旗艦店の5階におよそ4600平方メートルの売り場を設け、来年以降にロサンゼルス、ラスベガス、トロントなどに広げていきたいとしている。また将来的には、ロンドン、韓国、ロシアなどの百貨店にも「バーニーズ ニューヨーク」のインショップを展開する可能性があるという。

 ABGのジェイミー・ソルター会長兼最高経営責任者(CEO)は、「バーニーズにはさまざまなカテゴリーとカルチャーにおいて可能性がある。世界中に知られているため、米国外にも広げていける」と語った。

 マディソンアヴェニュー旗艦店については、売り場を4層に縮小してポップアップをコンセプトに営業する。その際、名称を「バーニーズ ニューヨーク」とするかどうかは決定していないという。サックスの五番街の店舗が10ブロックしか離れておらず、マディソンアヴェニュー旗艦店はサックス内のインショップとは異なるコンセプトで運営される計画だからだ。また、上層階のレストラン「フレッズ」は営業を続けるという。

 ほかにはボストン店を存続させる意向だが、その他の店舗については検討中のようだ。また再建策の一環として、ニューヨークとロサンゼルスの旗艦店を含む全5店およびアウトレット2店で在庫一掃セールを開始した。

 このほか、例えばシューズやアスレジャー、フレグランスなど、プレミアムグッズでのライセンス展開もありえそうだ。

 ダニエラ・ヴィターレ=バーニーズCEOはABGへの売却決定に伴い、退社した。

 なお、日本で「バーニーズ ニューヨーク」を運営するバーニーズ ジャパンはセブン&アイ・ホールディングスの完全子会社で本国との資本関係はなく、直接的な影響は受けない。ABGによる買収後も、米バーニーズとセブン&アイ・ホールディングス間のライセンス契約は維持されており、今後も変わりなく営業する。

Q.3 親会社となったオーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)とは?

 ABGについては、今回のバーニーズ買収騒動で初めて耳にした方も多いだろう。ABGは、2010年にアメリカでジェイミー・ソルターが創業した、ブランド開発、マーケティング、およびエンターテインメント事業を担うブランド管理会社だ。現在ニューヨークを本拠地に、トロント、上海、台湾、ロサンゼルス、メキシコにオフィスを構える。

 ABGは4つのビジネスモデルを擁しており、ライセンシング以外に、小売業者と直接提携して、エクスクルーシブな製品を開発する「ダイレクト・リテイリング」、収益性の向上を目的としたデザイン&ソーシング・ソリューションを提供するビジネスプラットフォーム「ABG ダイレクト」、研究開発の専門チームによるブランドポートフォリオにフォーカスした「R&D」を展開している。それらを使い、ブランドやカテゴリー、地域ごとにカスタマイズされたソリューションを提供し、成長してきた。

 これまでに「ノーティカ」「ナインウエスト」「ジューシー クチュール」などを買収しており、50以上のブランドを所有している。この中にはエルヴィス・プレスリーやマリリン・モンローなど、セレブリティーの知的財産権も含まれている。これら50以上のブランドを約900社のライセンスパートナーとの提携で70カ国以上で展開。その小売売上高は100億ドル(約1兆800億円)に手が届く規模になっている。ソルター会長兼CEOは「他社との違いはブランディングや販売網の構築、店舗デザイン、マーケティングに注力しているところだ。マーケティングと一口に言っても、当社ではそれをソーシャルメディア、インフルエンサー、屋外、インストア、デジタル広告などに細分化し、さまざまなデータ分析を行っている」と話す。

 ABGの事業の内訳は7月時点で、アパレル41%、フットウエア15%、エンターテインメント25〜30%、メディア13%。ソルターCEOはさらに「ABGの事業は国内60%、海外40%だが、将来的には国内50%、海外50%のビジネス展開を視野に入れている」とし、「カテゴリー別には、メディア&エンターテインメントで50%、ライフスタイルで50%の売上高を目指す。また、オンラインゲームやAIといったデジタル分野にも引き続き注力していく」と付け加えた。

 その言葉通り、5月にはメレディス・コープから米スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」を1億1000万ドル(約118億円)で買収。デジタルやライブイベント事業、テレビネットワーク事業を強化し、いずれはウォルト・ディズニー・カンパニー傘下のESPNのようなスポーツ専門チャンネルを作りたいと考えている。プレスリーやモンローのビジネスは稼ぎ頭で、現在はプレスリーの伝記映画の制作が進行中だ。主演はオースティン・バトラーで、監督はバズ・ラーマンが務める。予算1億2000万ドル(約129億円)の大作となる予定だ。

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