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「#KuToo」の署名活動を行う石川優実が語る “ファッションからの提案も必要”

 職場でのパンプス・ヒール靴着用の強制に異議を唱えるハッシュタグ「#KuToo(クートゥー)」はこの半年間に、SNS上で広がったムーブメントだ。セクハラを告発する「#MeToo(ミートゥー)」に“靴”と“苦痛”を掛け合わせたこの言葉が発信され始めたのは今年の1月。グラビア女優でライターの石川優実が、当時務めていたアルバイト先でパンプス着用を義務付けられていたことについて、ツイッターでつぶやいたことがきっかけだった。

 マナーやルールとして、これまで当たり前になっていたことに疑問を呈して賛否両論を呼んでいるが、「私も」と賛同する人たちの署名をオンライン上で集めて、6月3日には1万8000人の署名を厚生労働省に提出した。そのインパクトは大きく、今もSNS上で議論が続いている。現在も署名活動を行い「#KuToo」を発信し続ける石川に話を聞いた。

WWD:最初に「#KuToo」を発信することになったきっかけは?

石川優実(以下、石川):今年の1月、葬儀場でアルバイトとして、連勤でいそがしく働いていたときでした。私は社内規定のパンプスを履いていたんですが、畳に上がる際に靴をそろえていたときに、男性社員の靴がスニーカー仕様の革靴でとても軽く、私もこれを履いて働くことができたら、負担も減り、動きやすくなると感じたんです。その日の夜、足の小指が少し出血していて、グチみたいな感じでそのことについてつぶやきました。そうしたらリツイートで広がっていきました。その時はハッシュダグ「#KuToo」は付けていなかったんですが、リツイートしてくださった方が作ってくれました。

WWD:そのツイートには共感してくれる人が多かった?

石川:本当にたくさんいました。「私も痛かったけど、当たり前だと思っていました」や「パンプスを履けないので、着用を義務付けている仕事は選択肢から外していました」「確かに仕事でパンプスを履かなければならない理由って何だろう」などコメントが上がってきたんです。

WWD:どんな職業が深刻に感じましたか?

石川: ホテルや航空会社、外回りの営業職、病院の受付、携帯ショップ、サービス業などではヒール靴が制服として指定されていることが多いです。私自身もホテルの専門学校に通っていたときに研修授業で1カ月間泊り込みのバイトを経験したのですが、パンプスで8時間立ちっぱなしは足が痛くて、つらかった。なぜ仕事ではないことで悩まなければならないんだろうと、辞めてしまいました。

WWD:署名活動をしようと思った経緯は?

石川:職場でのパンプスを強制されていることで困ってる人がいるということが可視化されたので、何か行動が起こせないかと考えました。その時に「週刊SPA!」の特集記事「ヤレる女子大学生RANKING」に対して抗議した山本和奈さんが、ウェブ上で署名を集めてオープンミーティングを行っていて、今はオンラインで署名を集められることを知りました。そこで署名を集めてどこに提出したらいいのだろう?とつぶやいたら、署名サイトの方が連絡くださり、相談しました。

自分の判断でいいと思わずに当事者の意見をちゃんと聞き入れてほしい

WWD:6月3日に厚生労働省に1万8000人の署名を提出しましたが、根本匠・大臣からは「ハイヒール、パンプスの強制を禁止することまでは現状考えておりません」という回答を得ました。これをどう受け止めていますか?

石川:根本大臣はハイヒールとパンプスについて、あまりよく理解されていないと思いました。実際どれぐらい負担が足にかかるのか、どういう人が履かされているかも把握してなかったのであの回答になったのだろうと思います。もう少しこちらの説明を聞いていただいてから今一度、どうお考えか聞きたいです。「社会通念」と話されていましたが、そもそもその社会通念について考えてほしいという要望だったので、噛み合っていない感じもありました。あと、「パワハラになりうる」という言葉も聞けましたが、もう実際にけがをしている人は多いので、現状でも十分パワハラになっていると思います。

WWD:内容を理解されていないと感じられた。

石川:根本大臣には悪気はないと思うんです。でも、自分の基準だけで語らずに当事者の意見をちゃんと聞き入れてほしい。これは男女限らずですが、自分の感覚や基準で判断してしまうとズレが出てきてしまいます。なので、いろんな他人の本心を聞き入れてほしい。今回、女性からも「合う靴を探せばいいじゃん」とか「オーダーメードにすれば解決する」などの意見が出てきましたが、オーダーメードでもダメだった人はいますし、使えるお金や、買いに行ける環境も人それぞれ異なります。他人と自分は一緒だと考えないでほしいと思います。

WWD:現在は3万人以上の署名が集まっていますが、次はどうアプローチする?

石川:これからは世の中の空気を変えていかないといけないと感じています。現在、スーツが並ぶ売り場の女性用の靴コーナーには、パンプスしか置いていないことが多い。パンプスを履かなくてもいい企業もあると聞いていますが、売り場にはフラットな革靴が置いてない。カタログや着用モデルのビジュアルも、スカートのスーツにフラットの革靴を合わせているコーディネートはあまり見たことがありません。雑誌やファッション関係者から新しい提案があれば、そのイメージは変わるはず。初めは違和感があっても、見慣れればかわいいと思います。

WWD:売り場や雑誌からのスタイル提案が変われば、市場も変わる。

石川:そうですね。フォーマルのスーツ売り場にもフラットシューズのコーナーを作ってほしいですね。簡単ではないと思いますが、フォーマルな行事に履いていけるおしゃれなフラットシューズがあったらうれしい。それと同時にストッキングをはく習慣も変わってほしいですね。ストッキングをはくとパンプスの中で滑るので痛いですし、消耗も激しいからお金もかかります。

WWD:職場でも就職活動でも“皆がハイヒールを履いているから、自分も履かなければならない”と思い込みがちだ。

石川:はい。私の職場でも、先輩たちが規定のパンプスを履いていたので自分だけ守らないということはできませんでした。葬儀場は畳に上がったりと脱ぎ履きが多い仕事で、確かにパンプスは効率はよかったです。そういう意味ではローファーもよいと思いました。私が欲しかったのは、「アシックス(ASICS)」のスニーカー仕様の革靴。職場の男性が履いているのを見て、靴屋さんに探しに行ったけれど女性サイズは見つかりませんでした。ウェブで調べれば購入できるのかもしれませんが……。

WWD:日本の文化には、フォーマルな場では“楽をしない”という美学がある。

石川:ありますね。日本人の美学として、苦労や我慢は美しいという価値観があると思います。だから、「葬儀に失礼な格好で行くつもりなのか?」と誤解されがちなのですが、スニーカーを推奨している訳でも、ハイヒールを否定している訳でもありません。足元はフラットでも、髪の毛をまとめるなど、身だしなみ次第で相手を不快にさせないことは可能だと思います。

WWD:中には “「#KuToo」=パンプス反対運動”のように捉えている人もいますね。

石川:はい、そういう人もいます。嗜好としてのヒールシューズは全く否定していません。職場が指定する足元の選択肢にフラットシューズも入れてほしいというだけなんです。また“ヒールシューズを履いてはいけない”という風に受け取ってしまっている人もいました。皆と一緒じゃないと不安に思う人もいるから、同調圧力が生まれているのかもしれません。

WWD:「#KuToo」は労働環境の改善の一つ。

石川:そうです。それと同時に、男女で異なる履物が義務付けていること知ってほしい。「男性だって革靴を義務付けられている」と反論されることがありますが、革靴とパンプスは明らかに違うものです。説明をしても全然わかってもらえないから、論文も引用しました。パンプスの方がフラットな革靴よりも足への負担と労災リスクが高いという内容です。それでも、わかろうとしない人はいます。受け取りたいようにしか受け取れない、話を聞く気もないと感じます。

WWD:ちなみに石川さんが個人的に好きなシューズは?

石川:最近はスニーカーばかりで、「ニューバランス(NEW BALANCE)」をよく履いています。軽くて初めて履いたときとても感動しました。

フェミニズムは“かっこいい”ものになっていってほしい

WWD:自身の思いをツイッターで発信するのようになったのはいつから?

石川:私は2017年末に「#MeToo」のムーブメントが日本にも来たときに、自分のグラビアや女優の仕事での性接待について告発したんです。そこから、世の中には性差別が多いことに気がついて、フェミニズムを勉強し始めました。そうしてジェンダーや男女の差についての問題を考えることになり、ツイッターでもつぶやくようになりました。それはもうグチのように。

WWD:石川さんはツイッターでの批判的なコメントにも返事をしていて、一人で戦っている感じがあります。

石川:今もグラビアの仕事をやっていますが、すごくバカにされて、下に見られることが多いです。10年間ぐらい、掲示板や「アマゾン(AMAZON)」のレビュー、ツイッターにひどいことを書かれてきました。こういう仕事柄、言われてもしょうがないと思ってずっと黙っていましたが、すごくストレスがたまるし、自分自身がみっともないなって感じていました。ツイッター上では言い返せるから、言い返した方がまだましなんです。すごいムカつくこと言われたら、黙ってなんていられないと。それにやりとりをパフォーマンス的に見せているところもあります。きっと、そういう人たちもストレスがたまっているんだなって思うんですよね。

WWD:今後の目標はありますか?

石川:「#KuToo」の活動を通して厚労省に署名を提出したことで、政治っぽいイメージが付いたと言われることがあります。周りの人から「出馬するんですか?」と聞かれることがありますが、まさかそのような考えはありませんし、そう思われたことにびっくりしました。私はフェミニズムをもっとファッションの方からもアピールできたらと思っています。活動することと声を上げることが“かっこいい”こととして扱われるような社会になったらと。日本では、政治の話をしない人が多いけれど、日常的に気軽に話ができたら世の中は変わっていくはず。エンターテインメントの世界でも、フェミニズムについてもっと扱ってほしいです。

WWD:エンターテインメントでも、フェミニズムがテーマになることは少ない。

石川: 日本の映画でもフェミニズムがテーマになった作品がもっと増えたらいいと思います。アメリカの最高齢女性最高裁判事のドキュメンタリー映画「RBG 最強の85才」を見たのですが、彼女が国民的アイコンで、アイドル的な扱いを受けていることを知って、日本ではこういう人いないなと感じました。例えば、社会学者の上野千鶴子さんも日本でそのような存在であってもいいと思いました。