朝、服を着替えて仕事に出かけ、夜はパジャマでベッドに入る。私たちは1日の中でシーンによって装いを変え、そのたびに別の顔を持つ。「プラダ(PRADA)」2026-27年秋冬は、着替えという日常的かつ知的な動作に着目。たった15人のモデルが60ルックに次々と着替え、ひとりの人間に内在する複数の側面をレイヤリングで表現し、人生の複雑さや多面性をコレクションに映し出した。
ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は、「私たちは生きていくために、人格も、瞬間も、感情も、セクシュアリティも、絶えず変わり続ける必要がある。そうした変化を一日の中で、あるいは人生の中で、同時に生きている。そこが核にあるアイデアだった」と説明する。
古いお屋敷のような会場セットに、D-Shakeの激しいテクノが鳴り響く。 序盤は、メンズコレクションとも呼応するナロウなチェスターコート。テック素材のケープをレイヤードし、「スポーツ」と「クラシック」のリミックスを仕掛ける。ここまでは相反する要素を掛け合わせ、観客の価値観を揺さぶる、ある意味「プラダ」の十八番的手法だ。
コート姿だったモデルは再びランウエイに現れ、バイカラーのジップアップニットに。そしてブラックドレス、最後はプライベートな時間を思わせるシアー素材のスリップドレスへと姿を変えた。同じモデルだと気づけないほど、表情が切り替わっていく。
ベラ・ハディット(Bella Hadid)も同様に、装いを替えながら複数の顔を見せた。裾や袖にダメージ加工を施したスイングトップから始まり、シアー素材のドレス、絵画や彫刻を思わせるイメージをプリントしたワンピース、そして最後はショーツ姿に切り替わった。ラフ・シモンズは、「ミニマルなドレスの下に華かなドレスを重ねたり、その逆もしかり。ハイ&ローの服のヒエラルキーを無くしたかった」と語る。
レイヤーの存在は、一着の中でも強調する。裂けたドレスの穴からはフローラル柄がのぞく。生地のレイヤーを、人や時間の奥行きと重ねているようだ。
1月に発表したメンズ・コレクションでは、アイロンの焦げ跡やシミといった生活の痕跡を残すことで、時間の流れを表現した。ウィメンズでも、ビジュー刺しゅうのフレアスカートにあえてほつれを残したり、色を意図的に褪せさせたりすることで、時間の痕跡を刻んだ。「プラダ」流に解釈すれば、劣化は服が”生きてきた”証であり、愛着の印だ。
「私は今、歴史に取り憑かれている。自分たちがどこから来たのか、歴史の中で何が起きたのかを知ることは不可欠だ。知らなければ、本当に迷子になってしまう」とミウッチャ。「世界は複雑で、難しい。だからこそ知性こそが私たちにとって唯一の助けになり得る」と続けた。ミウッチャとラフ、2人の視座は、複雑なものを複雑なまま受け取る度胸を思い出させる。