PROFILE: ジェマ・アンドレウ/デシグアル 最高マーケティング責任者(CMO)

大胆な色使いと、花やハートなどのモチーフを取り入れたデザインで知られるスペイン・バルセロナ発の「デシグアル(DESIGUAL)」は2022年より、リブランディングに注力し、主要ターゲットを30代としたプレミアムライン“デシグアル ストゥディオ(Desigual Studio)”を立ち上げることや、「ヘド メイナー(HED MAYNER)」や蜷川実花などこれまで数々のコラボレーションを展開してきたことなど、若い世代の顧客獲得を進めている。日本国内では、24年の売り上げが前年比10.1%増だった。顧客層も20〜30代が13%増加し、確かな成果を上げている。こうした変革をけん引するのが、ジェマ・アンドレウ(Gemma Andreu)=デシグアル最高マーケティング責任者(CMO)だ。リブランディングの効果をはじめ、コラボレーション戦略、 “デシグアル スタジオ”立ち上げの背景、日本市場を含めた今後の展望を聞いた。
WWD:リブランディングに2022年から着手している。どのような手応えがあった?
ジェマ・アンドレウ=デシグアル最高マーケティング責任者(以下、アンドレウ): ブランドが年数を重ねるとともに年齢を重ねていき、顧客の中心は40〜50代だったが、この2〜3年で20〜30代の顧客が如実に増えてきている。社内で週に一度行うベストセラーミーティングでも、若年層による購買の割合が各カテゴリーで上位に上がってきている。特に日本では、若年層の獲得は先行しており、来店するお客さまがほとんど、スタイリッシュでファッショナブルな若い子たちだ。
WWD:「デシグアル」のDNAとは?
アンドレウ: “デシグアル”はスペイン語で“同じではない”を意味し、“違い”を受け入れ、“ノンコンフォーミズム(常識にとらわれない精神)”を体現している。1984年に誕生した「デシグアル」もこの精神を受け継ぎ、創業者のトーマス・メイヤー(Thomas Meyer)が古着のデニムを再利用してジャケットを制作し、アップサイクルという概念が浸透する以前から“新しい価値の創造”に挑戦していた。それが大ヒットし、「イノベーション」「クリエイティビティー」「サステナビリティ」といったブランドDNAの礎となった。また、「服は体が着るのではなく、人が着るものだ」という理念のもと、「ポジティブなエネルギー」と「楽観主義」を大切に、着る人を笑顔にし、自信を与える服づくりを目指している。
WWD:「デシグアル」とスペイン文化の関係をどう捉えている?
アンドレウ: スペインの太陽やバルセロナのエネルギーを象徴する黄色を、ブランドのコーポレートカラーとして採用した。本社はバルセロネータビーチ沿いにあり、オフィスの窓からは休暇を楽しむ人々の姿や、太陽と自然に包まれた光景が見える。太陽のようなポジティブなエネルギーが、私たちのインスピレーション源であり、クリエイションにつながる。
WWD:「コリーナ ストラーダ(COLLINA STRADA)」「ヘド メイナー」のほか、業界で名を馳せるクリスチャン・ラクロワ(Christian Lacroix)や、注目の若手であるアルフォンス・メトロピエール(Alphonse Maitrepierre)など、世界各地の才能とも積極的に取り組んでいる。日本では写真家・映画監督の蜷川実花とのコラボレーションも実現した。さまざまなアーティストやデザイナーとコラボレーションする理由は?
アンドレウ:共有し合うことを大切にしているからだ。「デシグアル」は、ショーには競合他社の人々の参加も歓迎するなど、開かれた姿勢を重視する。彼らから多くの感銘を受けると同時に、それぞれのデザインをより多くの人に届けられるのが有意義だと感じる。
WWD:コラボレーション相手を選ぶ際に重視している点は?
アンドレウ:「デシグアル」ならではの体験を提供するためには、同じ価値観を共有しないといけない。色、カジュアルさ、品質、サステナビリティなどのデザイン面はもちろん、着る人が前向きな感情やポジティブなエネルギーを感じられるかどうかも重要だ。
楽しみながら自分の違いを表現する「デシグアル」の魅力
WWD:競争の激しい市場の中で、ブランドを際立たせるために意識していることは?
アンドレウ:独自のコラボレーションを実施するのはもちろん、ありのままの姿で違いを強調することが大事だ。単に見た目だけではなく、どんなブランドなのか、どんな価値観を伝えたいのかなどブランドの“魂”を表現し、消費者と情緒的につながるのが不可欠だ。なぜなら、選択肢の多い今、消費者がブランドを選ぶ際に、自分の価値観と合致するものや、自分自身のアイデンティティーを表すものを選ぶから。「デシグアル」は“楽しさ(Fun)”と“大胆さ(Bold)”を軸に、ユーモアを忘れず、他ブランドが挑まないことに果敢に取り組む。例えば、バルセロナのビーチで人に「タトゥーを入れたいか」と尋ね、実際に腕に入れる様子を撮影したインスタグラム投稿が大きな話題を呼んだ。また、ハートや花柄を施したカラフルなドレスや、デニムとレザーを融合させたジャケットなど独自のデザインを通して“楽しみながら自分の違いを表現できる”のも「デシグアル」の魅力だ。
WWD:日本市場を含め、今後の展望は?
アンドレウ:日本では、「デシグアル」のような色や柄、カジュアルさの解釈に独自性を持つブランドは少ない。店舗の空間、商品のラインアップ、消費者向けのメッセージも全てが異なるという点を活かして、さらなる成長を見込んでいる。ブランド全体は、世界中の消費者、特に若い世代の獲得を狙う。新規出店やリニューアルを行い、年間約9200万以上のアクセスを持つ公式ECサイトの拡大を目指す。ブランドの価値観を大事にするのはもちろん、各地域の文化や消費者の嗜好に合わせたコミュニケーションの取り方や、商品のラインアップにも注力し続ける。