2025-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイーク2日目の目玉は、100周年を迎えた「フェンディ(FENDI)」など。「ジル サンダー(JIL SANDER)」はこれがルーシー&ルーク・メイヤー(Lucie and Luke Meier)のラストショーとなりました。
「ジル サンダー」は、闇から光へ
ルーシー&ルーク夫妻の集大成
村上要「WWDJAPAN」編集長:その「ジル サンダー」は、ショーの時間を例年通りの夕方から朝イチに変更。「ピュアネスを大事にする『ジル サンダー』は、朝イチのショーがピッタリだなぁ」なんて思いながら、散歩ついでにホテルから片道30分を歩いて移動しました。ところが会場は真っ暗。いつもアート作品のように巨大なスピーカーを置いたり、天井から無数の短冊を垂れ流したりとムード作りにも余念がないブランドなのに、今回の会場は至ってシンプルです。きっと、それにも意味があるのでしょう。
そこに現れたのは、会場同様に真っ黒のドレスでした。ベアトップのドレスからは、カセットテープのような装飾が無数に“生えており”、スポットライトの光を浴びて瞬きます。メンズのチェスターコートからも、今度はプラスチックで作った毛束のような装飾がやっぱり“生えて”います。そしてベルトにはメタルフックをあしらい、シューズには無数のスタッズ。ベルトからは時々、勲章のようなアクセサリーが垂れ下がっています。いずれも放つのは、硬質的で、冷たい光です。
2人は今回、希望を見出しづらい時代、それでもきっと前を向いて歩みを力強く進めなければならない時代を思い、闇夜から光の世界へと繋がるストーリーを思い描いたと言います。会場や、序盤の漆黒のパートは、まさに闇夜。時々明滅する装飾や、メタルパーツをたくさん取り付けたアクセサリーは、そんな世界に差し込む一縷の光なのでしょう。
大好きな日本産のハリのあるウールと柔らかなシルクサテンなど真逆のものを組み合わせながら、佇まいから美しく、歩くとさらに美しい服を作るのはいつも通り。考えてみればプラスチックのような装飾も、天然のウールと相対する存在です。一方、メンズとウィメンズの境界線は曖昧。さらにウエアとアクセサリーの境界線も、シーズンを追うごとに曖昧になって一体化しています。装飾を“生えている”ようにあしらったのも、飾りを洋服と一体化させるための工夫なのでしょう。今シーズンは、シルバーのように冷たく光るスパンコールをシャツやプリーツスカートに隙間なく敷き詰めたり、メンズではそれをハトメに変換したりもしています。中盤以降はビンテージムード漂うレザーブルゾンが出てきたかと思えば、シルクサテンを切り裂きリボン状にして編み込んだプルオーバーも現れるなど、ハードとエレガンスを行ったり来たり。いつの間にか色が現れたかと思ったら、終盤はディップダイのように白から黒へとグラデーションする小花プリントのシルクドレスやトレンチコートへと続きます。そして最後は光が差し込む、白一色のピュアな世界で終演です。
ミニマルだった「ジル サンダー」に、構築と流麗で描くコントラスト、クラフツマンシップ、ウエアとアクセサリーの融合という発想、触感から生まれるエモーション、ピュアなクリエイティビティなどのアイデンティティを付与しつつ、“カンノーロ”やジュエリーなどを生み出してビジネスを拡大、何よりドラマチックなファッションショーを提供してくれた2人がブランドを離れるのは本当に、本当に残念です。
優雅の境地、「ブリオーニ」で目の保養
木村和花記者(以下、木村):「ブリオーニ(BRIONI)」はここ最近、ウィメンズのコレクションを強化しています。今季は1960年代のメンズのアーカイブから採用した、“Hライン”と呼ばれる直線的なシルエットが印象的でした。ピーコートやミリタリーコート、スカートの裾は潔く直線を描き、縦のラインもすとんと落ちる。生地は2枚の生地を手作業で接合するダブルスプリッタブルと呼ばれる技法によって、驚くほど軽くてしなやかです。これぞまさに洗練の境地。新作のバッグは、ハンマーで叩いて細かな凹凸をつけた留め具がアクセントのレザーのサッチェルバッグと、ソフトなショルダーが登場しました。イブニングドレスのコーナーは圧巻でしたね。
村上:「メンズのサルトリア技術を使って、ウィメンズウエアを」という発想からスタートしたので、当初は「マニッシュ」というイメージでしたが、シーズンを追うごとにスカートなどのバリエーションが増えて、「凛とした」とか、木村さんが言うように「洗練の」というニュアンスが強くなっていますよね。ダッチェスサテンのTシャツドレスとか、普通はもっと粗野な素材で作るサファリジャケットさえ、本当に美しい。イブニングも圧巻でした。縫製がほとんどない、パターンの妙で仕上げたドレスは、静謐で、まさに完璧な仕上がり。素材選びとパターンワーク、クラフツマンシップが見事に融合しています。
「ディーゼル」は、らしいフォーマルスタイル
村上:「ディーゼル(DIESEL)」は、“らしさ”を保ちながら、大人の階段を1歩登ったというか、「ディーゼル」がフォーマルをやるとこうなるのか⁉︎というコレクションでしたね。詳しくは、木村さんのレビューをどうぞ!
木村:グレンは空間演出も上手だなぁといつも思いますが、グラフィティアートで覆われた今回の会場も足を踏み入れた瞬間に、「わお」と思わず声が出ました。私たちが座っていたシートの後ろはちょうど、日本の学生達が描いたグラフィティだったようです。
「ヘルノ」はアウターブランドから脱却、次の課題は販売かも
木村:「ヘルノ(HERNO)」はここ数シーズントータルブランドになるべく、アイテムのバリエーションを拡充しています。アウターもダウンジャケットのほか、異素材を組み合わせたポンチョやオーバーサイズのミリタリーパーカなど、バリエーション豊か。通常直線のステッチを斜めに入れてデザイン性を高めたダウンや、今季よく見かけるジョッパーズパンツなどもありました。これだけアイテムが広がると、店頭でのスタイリング提案や「ヘルノ」で買う理由の伝え方といった、販売の腕がカギになってきますね。
玉森裕太さん来場の「ブルネロ クチネリ」 乗馬の世界で調和について考える
木村:今回の「ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)」の展示会場には、Kis-My-Ft2の玉森裕太さんが来場していて、いつもと違った雰囲気でしたね。玉森さんのおっしゃる通り、私も同ブランドの経営哲学からは「人としてどう生きるべきか」を教えられている気がします。玉森さんを通して、より多くの人にこの素晴らしい経営哲学が広まるといいなと思いました。
肝心のコレクションは、「直感と理性」がテーマ。このテーマを、人=理性、馬=直感と解釈し、乗馬の世界観で表現しました。細身の乗馬パンツは、スパンコールを縫い付けたラグジュアリーなニットと組み合わせたり、乗馬ブーツにはエレガントなミニワンピースを合わせたり、スタイリングはあくまで自由。着る人の直感で楽しむファッションを提案します。伝統、つまり理性を象徴するものとしてヘリンボーンやチェックなど、英国調のパターンも目立ちます。「ブルネロ クチネリ」のテーマはいつも壮大で、プレスがおっしゃる「哲学をファッションするブランドなんです」という説明がしっくりきます。
アーティストと20日に渡り協業
「マルニ」は芸術家的アプローチ
村上:正直商品を見るだけではわからないので、皆さんはご存知ないかもしれないけれど、「マルニ(MARNI)」を手掛けるフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)は、コレクションへのアプローチが普通じゃないんです。デザイナーというよりは、アーティスト。正直時々、「ウソでしょ!?」って思うこともあるし、「命を削っているのでは?」と心配しちゃう時もあります。
例えば1年前は、全ての「外的刺激」を遮断。アトリエでは、デザインチームに一切のイメージ検索を禁じ、多くのデザイナーが当たり前のように作るムードボードも作りませんでした。代わりに週末は仲間を誘い、郊外で、服を着ずに全裸で過ごして本能を研ぎ澄ませたと言います(笑)。何もかもを脱ぎ捨てて生まれたのは、装飾はもちろん、色も、ボタンなどの副資材も存在しない洋服。フェイクファーをキャンバスに色をのせたり、スプレーで突起を作ったりという洋服もありました。
今シーズン、フランチェスコは、ナイジェリアのアーティストのスローン(Slawn)とソルジャー(Soldier)とコラボ。フランチェスコが、イギリスのバーで2人に出会ったのは2年前。協業という念願が叶った彼は、「Tシャツを送って、プリントしてもらっておしまい」というコラボはせず、なんと20日間寝食を共にしたと言います。相変わらずフツーじゃないですね(笑)。
ゆえにコレクション作りは、ストーリー作りから始まったようです。生まれたのは、黄金ではなく、ピンクに輝く太陽の下、ナイジェリアのような(?)荒野で暮らす狼のストーリー。随所に現れるのは、狼の尻尾のようなフェイクファーの極太ストールです。ミニドレスの下にはフェイクファー、ニットはシャギーなモヘア、パンツはハラコなど、毛足の長い素材を多用し、合間に相反するサテンを差し込みます。キーカラーは、もちろんピンク。随所に、きっとピンクの太陽が輝くハッピーな世界に咲く花柄をのせました。そして狼や花など、さまざまなイラストがセットアップからドレスまで、全てのアイテムを彩ります。終盤は、手描きや総刺繍など、ほとんどアートですね。
フランチェスコは、「コレクションをアートでいっぱいにしたかった。みんなが、洋服で酔っ払えるくらいにね(笑)」と笑ったと言います。もちろんスローン&ソルジャーと、バーで出会ったからの発言です。カッコ良くないですか?
正直、(いつもに比べれば随分多いけれど)ウエアラブルな洋服は少数派です。でも、フランチェスコのコレクションは、いつも拍手喝采。ミラノでは数少ない、想像力を掻き立ててくれるブランドだからでしょう。
さらに軽く、熱く進化する
「オニツカタイガー」
村上:上の記事の通り、躍進続くアシックスの中でも牽引役を担っている「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」のショー会場は、だんだんアジア版の「ディーゼル」みたいな熱気を帯びるようになっています。TWICEのMOMOをはじめとするセレブの影響もあるけれど、どんどん若い世代が、もっともっと夢中になっている雰囲気がショー会場にも漂っています。
今回のコレクションは、「アーバン・デュアリティ」がテーマ。伝統と現代、渋谷や新宿、原宿のような喧騒と周辺都市の落ち着きなどの対比からイメージを膨らませました。なんでもミックスしちゃう東京のファッションシーンらしく、ガンクラブチェックのショーツやパンツ、オイルドコットン風のハンティングジャケットなど、ブリティッシュトラッドを「オニツカタイガー」らしく軽やかな素材で表現。特にハンティングジャケットは、“ゴープコア”なスタイルに仕上げました。ローゲージのノルディック・カーディガンを除き、ピーコートやアランニット、ジャケットはコンパクト丈。こちらは「伝統」とか「落ち着き」ってことなのかな?一方の「現代」や「喧騒」は、“メキシコ 66”やボウリングバッグに打ち込んだクリスタル入りのスタッズがシンボリック。竹を思わせるブラックビーズをカウボーイジャケットに縫い付け、レザーのニーハイブーツを合わせます。木村さんには、どう映りましたか?
木村:「オニツカタイガー」はスニーカーのイメージが強かった分、ウエアの世界観が掴みづらかったんです。「『オニツカタイガー』で、なんでランジェリードレスなの?」と思うこともありました。一方、今回は都市の日常にマッチする“ゴープコア”スタイルが冴えていましたね。オリジナリティーがあった。会場にもウエアを着こなしている人たちがたくさんいて、コレクションブランドとしてのポジションが確立されてきています。座席にはオリジナル香水のギフトがありました。発売を検討しているそうです。楽しみですね。
「アルマーニ」とミラノの名物セレクトが3度目のコラボ
木村:「オニツカ」後は、「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のポップアップオープンのパーティーに顔を出し、その後ミラノのセレクトショップ「ディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)」と「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」のカプセルコレクションのローンチパーティーに駆け込みました。両者のコラボは3回目。今回は「アルマーニ」のシルエットを象徴する、バレリーナやサボ、ローファー、スリッパといった初のシューズコレクションです。ラインストーンで飾ったバレエシューズやスリッパのように華やかなものもあれば、スムースレザーのプレーンなローファーも。日本では表参道店と公式ECサイトで順次販売予定だそうです。
「フェンディ」はファーをふんだんに用いて100周年を祝う
村上:本日のラストは、「フェンディ」。まずは、この時代にファーを贅沢に使った勇気に敬意を表します。そんな勇気が象徴するよう、今シーズンはパワフルに、時にはグラマラスに、そして楽しく、創業時からカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が手掛けた時代、そして現代に続くまでの100年のストーリーを描きました。ジェンダーの既成概念は曖昧に、ファーの加工などに代表されるクラフツマンシップの進化で未来を指し示しました。詳しくは、私のレビューでどうぞ!