「ディーゼル(DIESEL)」2025-26年秋冬コレクションのショー会場は、壮大なグラフィティーアートで埋め尽された。びっしりとアートが描かれた全長3km以上の生地が壁を多い、中央には同じくアートが描かれた巨大な人形を設えた。これは世界各国約7000人のアーティストや学生らの協力を得て実現したものだという。日本からは、大阪文化服装学院、大阪府立港南造形高校、上田安子服飾専門学校、大阪モード学園、多摩美術大学の5校の学生が参加した。
グレン・マーティンス(Glenn Martens )=クリエイティブ・ディレクターは、「世界中の何千人もの人々が協力してこのセットデザインを作り上げたことに感動している。グローバル・ストリートアート・コレクティブたちには、それぞれのスタイルで自由にクリエイションを表現してもらった。これこそが『ディーゼル』の真の民主主義なのだ」と話す。
グレーが基調のツイードジャケットでスタート
ショーは、激しいグラフィティとは対照的なクラシック音楽でスタート。序盤は、グレートーンを基調にしたツイード風のジャケットやミニマルなロングコートといった、シックなフォーマルウエアだ。ボトムスには、ほぼエプロンのようなデニムのミニスカートに合わせたり、ウォッシュ加工を施したジーンズを合わせたり、ツイードの質感をオマージュしたようなピンクの編み込みシューズが登場したり、シックなムードの中にも「ディーゼル」らしさは失わない。モデルは白いコンタクトレンズとスプレーで描かれた笑顔で、不気味な雰囲気さえ漂う。
千鳥格子のジャカードは、ところどころほつれたように糸が飛び出しフリンジのような独特の動きを見せる。褪せたようなダメージ加工も含め、マーティンスが重きを置く「破壊」の要素が徐々に現れる。それに合わせて音楽も、クラシックのレコードがルーピングする。カラーはグレートーンにアシッドイエローのバンドウやラップドレスも加わり、激しさが増していく。
ボトムスは極端なローライズで、スタイルに新しさを出した。ラミネート加工されたような質感のデニムのビスチェやジーンズ、フロック加工をほどこしたチュールドレスなど実験的なアプローチも健在だ。最後は、シャツをただ体に貼り付けたようなトップにローライズデニムが登場した。
「シック」や「エレガント」といった語り尽くされたファッションのボキャブラリーを、「ディーゼル」らしい言語で全く新しいものに変えてしまうのが、マーティンスの才だろう。プレスリリースに記された言葉は、「『ディーゼル』である勇気」。破壊と自由を追求する「ディーゼル」のアイデンティティーは、今の時代に力強いステートメントのシンボルとして存在する。