PROFILE: 福村豪さん/伊勢丹新宿店メンズ館6階 メンズクリエーターズ スタイリスト

伊勢丹メンズ館の6階売り場(メンズクリエーターズ)で個人売り上げ、顧客数、セット率がそれぞれ1位。福村豪さんは凄腕販売員が集まる伊勢丹の中でも若手注目株の1人である。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月23日号からの抜粋です)
本人いわくオタク気質でデザイナーやブランドに精通するだけでなく、顧客の求めに応じて担当外のラグジュアリーブランド、食品、家電、ペット用品までアテンドする。服はもちろん、それ以外の商品も福村さんの審美眼を通じて選んでほしいという人が多いからだ。「百貨店はライフスタイル全てのお手伝いができる業態。お客さまと長く深くお付き合いできることが、私の一番のやりがいです」と話す。
試行錯誤の中で編み出した接客手法だった。入社2年目の2020年、コロナの緊急事態宣言で百貨店は長期休業を強いられた。なすすべもない無力感にさいなまれた。そんなとき「WWDJAPAN」に掲載された有名セレクトショップの記事を読んだ。その店は顧客との結びつきが強く、SNSも駆使して、満足に営業できないにもかかわらず売り上げは善戦しているという。「外的要因が厳しくてもロイヤルティーの強いお客さまがたくさんいれば戦える。目の前のお客さまに売ることだけで頭がいっぱいだったけど、顧客作りを強く意識して売り場に立つようになりました」。
一見いかつい風貌の福村さんだが、「笑わせる」「楽しませる」がモットーで、初めての客はそのギャップが新鮮な驚きとなる。一度打ち解ければ、仕事やプライベートの会話が弾む。顧客が何気なく話した内容を忘れず、再来店のときに顧客の顔を見ればすぐに引っ張りだせるのが福村さんの特技だ。そこから会話を膨らませる。覚えていたことに顧客は感激し、ますます会話が弾む。購買履歴などと違って世間話は店舗の顧客データになかなか残らないが、福村さんの頭の中にはしっかりインプットされている。
ある顧客と引っ越しの話になった際は「福村さんに掃除機を選んでほしい」と頼まれ、アテンドしたらとても喜ばれた。仮にどこでも売られている商品でも、福村さんから買いたいというファンが多いのだ。幅広い世代がさまざまな目的で来店する百貨店が性に合っているという。「領域をまたいでご案内できるのが本当に楽しい。自分のスタンスとしては『何でも私にお申し付けください』なんです」。時には百貨店で扱っていない商品も紹介することもある。
本業のメンズファッションでも熱量の高い顧客を多く持つ。パリ、ミラノ、東京などのコレクションのランウエイショーが終わると、「この商品は(半年後に)扱うの?」「福村さんはこの服をどう思う?」といった問い合わせが、インスタグラムのDMを通じてたくさん届く。まめに返信することで顧客との信頼感が深まり、来店や販売に結びつく。顧客が喜んでくれることが、福村さんの何よりのモチベーションになる。