ファッション

ゴールドウイン渡辺社長&スパイバー関山社長が語る「夢の繊維のネクストステージ」

 ゴールドウインとスパイバーは2023-24年秋冬物から、「ザ・ノースフェイス(THE NORTH FACE)」「ゴールドウイン(GOLDWIN)」「ウールリッチ(WOOLRICH)」「ナナミカ(NANAMICA)」の4ブランドで、スパイバーが開発する人工タンパク質素材「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN、以下BP)」を使ったアイテムの販売を開始する。これまでは数十着の数量限定販売にとどまっていたが、スパイバーは昨年夏にタイで、世界初の人工タンパク質原料の量産工場の稼働をスタートしており、数千着を売り出す、"世界初”の量産販売になる。

 2015年にゴールドウインがスパイバーに約30億円を出資して本格的にスタートした「夢の繊維」の開発は、いよいよ次のステージに移る。渡辺貴生ゴールドウイン社長は「14年夏に、初めて見せられた人工タンパク質素材は、小さなボビンに巻かれたとても短い青い糸だった。それから10年も経たずに、人工タンパク質素材『ブリュード・プロテイン』は量産にこぎつけ、当社の有力ブランドから製品を販売できるようになったのは感無量だ」と振り返りつつ、「ここからが本当のスタート。2030年までにはゴールドウインで生産する素材のうち、約10%をこの『ブリュード・プロテイン』に置き換えたい」という。
 
 ゴールドウインは15年9月、当時はまだほぼ無名だったスパイバーに30億円を出資すると発表。以来、ゴールドウインの渡辺社長(当時は副社長)とスパイバーの関山社長は、二人三脚で「ブリュード・プロテイン」素材を使った製品の開発に取り組んできた。19年6月にTシャツを、11月には高性能ウエア「ムーンパーカ(MOON PARKA)」を、数量限定ながら販売にこぎつけていた。

 今回「ノースフェイス」など4ブランドで販売するアイテムは、全部で15アイテム。価格は「ノースフェイス」の人気ダウンジャケット「ヌプシ ジャケット」が11万円(税込み)や、「ナナミカ」のバルマカーンコートが19万8000円など。いずれも表地のテキスタイル「ブリュード・プロテイン」を使っており、価格は通常のタイプに比べて2倍〜2.5倍ほど高くなる。9月には丸ビルに「ブリュード・プロテイン」を使用した全製品を販売する期間限定店をオープンする予定で、一部のアイテムについては米国や欧州、中国など海外でも販売する。

 ゴールドウインの渡辺社長&スパイバーの関山社長の2人と、メディアとの主なやり取りは以下の通り。

――2015年9月に提携を発表。多くの困難を乗り越えて、ようやくここまで来た。

渡辺貴生ゴールドウイン社長(以下、渡辺):3月上旬に私もタイ工場に行ってきたが、まさに感無量だ。2014年8月に、山形県鶴岡市にあるスパイバーのオフィスで初めて見せられた「ブリュード・プロテイン」糸のことはよく覚えている。小さなボビンに巻かれた、原着の短い青い糸だった。そのときに感じた「この小さな糸が世界を変える」、という確信はずっと変わらない。大変なことも多かったが、わずか10年足らずで、量産化がまさに始まるところまでこぎつけられた。

――現状は?

渡辺:タイの「ブリュード・プロテイン」の工場は、23年度には240トン、24年度には500トンのフル生産を計画している。それでも年7000万トンに達する、石油由来のポリエステルやナイロンといった合繊に比べると、遥かに小さく、すぐに価格を同水準にもっていくのは難しい。しかし、カシミヤやビキューナ、ファーなどの希少な獣毛素材とは競争できる。すでに最高グレードのカシミヤと同水準の素材はほぼ完成している。スポーツ分野以上に、ファッション分野ではかなりインパクトがあるはずだ。

――カシミヤの代替はファッション分野だと確かに大きいが、ゴールドウインはスパイバーとの間で素材の独占権などを設定していないのか。

渡辺:ゴールドウインはスポーツ分野にのみ独占権を設定しているが、それ以外の用途に関しては一切の制限をかけていない。今回販売するアイテムの中には入っていないが、妖艶なタッチと表情を持ったファー素材を筆頭に、実は「ブリュード・プロテイン」を使った素晴らしい素材開発はかなり進んでいる。むしろ色々なブランドに使ってほしいと思っている。

――未知の素材を使ったテキスタイルや製品開発には、それこそ膨大な試行錯誤が必要になる。つまり、大きな先行投資がかかっている。ファーにしろ、ニットウエアにしろ、そうした苦労をせず他社が使用することに抵抗はないのか?

渡辺:世の中を変えると言いながら、ゴールドウインが(「ブリュード・プロテイン」を)独占使用する。そこに大義はあるのか?もちろんノーだろう。世界を本当に変えるのなら当然スケール(規模)が必要になる。日本の有力な繊維企業や産地企業に私自身が声をかけコンソーシアムを設立して、一体となって開発に取り組んできた。それらの企業も含め、我々は「世界を変えたい」という強い思いの下に試行錯誤を繰り返してきた。最終製品として販売することにこだわってきたのも、糸や生地を見せるだけでは説得力がなく、製品販売に到達できれば、いろいろな企業が「ブリュード・プロテイン」を認知し、使用を後押しする強力な武器になると考えてきたからだ。「ブリュード・プロテイン」を広く使ってもらうことが最も重要であり、開発に成功した糸や生地を外部にも提供することなど、そう大したことではない。

――改めて「ブリュード・プロテイン」に取り組む理由は?

関山和秀スパイバー社長(以下、関山):振り返ってみれば、僕が2004年にタンパク質研究に着手したのは、ITとバイオ(テクノロジー)が融合する稀有なタイミングだった。今までの100年間は言ってみれば石油を原料とする「石油化学」の時代だった。ここから衣類で言えばポリエステル、世の中全体では多種多様なプラスチック製品が生み出され、「大量生産・大量消費・大量廃棄」社会を支えてきた。一方で、自然の生態系には一切のムダがなく、そもそも「ゴミ/不要物」自体が存在しないわけで。人類はまだまだ学ぶべきところがある。世界では、バイオがコンピューターサイエンスと結びついたことで非常に注目を集める分野になっている。

――米国では当局の金融引き締めに伴い、スタートアップ企業は資金調達や経営に大きな影響がでている。スパイバーへの影響は?

関山:すごく大変です。米国では穀物メジャーのアーチャー・ミッドランド・ダニエルズ(以下、ADM)と組んで、大掛かりな人工タンパク質の原料工場を建設する予定だが、インフレと円安で資材や建設費が高騰している。コストを削減するために設備設計の見直しを行っており、着工が遅れている。

――資金調達は?

関山:2021年夏にカーライルやクールジャパン機構などから340億円の大型資金調達を行っており、資金調達は一旦の区切りをつけていた。振り返ってみると、「運が良かった」の一言に尽きる。もう少しタイミングが遅ければ、資金調達ができず、とんでもないことになっていたはず。

 ただ、悪いことばかりではない。「ブリュード・プロテイン」が目指す地球環境をより良くするという本質的な価値に対して、むしろ関心が高まっており、特に欧州のラグジュアリー・ブランドからの引き合いが強まっている。詳細は控えるが、かなりの熱量で取り組みが進んでいる。

――それらが店頭に並ぶのはいつ?

関山:2015年から二人三脚で取り組んできたゴールドウインだから例外的に早いだけで、他のブランド・企業の製品が店頭に並ぶのは、早くても24年の春夏物以降だ。

――どういったブランドになる?

関山:タイの工場はフル操業でも年間数百トン程度で、まだ原料自体が高く、今後数年間は欧州の高級ブランドが中心になる。ただ「ブリュード・プロテイン」はスケール(規模)を目指しており、特定の販路だけをターゲットにはしていない。中長期的には幅広いブランド・カテゴリーに展開する。タイの工場は、世界最大規模の人工タンパク質の製造工場であると同時に、最新鋭の技術や設計思想を取り入れており、敷地は東京ドーム2個分ほどの大きさだが、かなり自動化が進んでおり、オペレーターは4人しかいない。

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