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「賃金を払えない理由を、膝を突き合わせて話し合うことも必要」和田征樹ASSC代表理事【識者に聞く「技能実習制度」】

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 日本の縫製工場を支えてきた「技能実習制度」が大きな岐路を迎えている。法務省は昨年12月から、制度の見直しに向けた「有識者会議」を招集し、すでに3回を終えた。「技能実習制度」は、もともと1993年に始まった「外国人研修制度(以下、研修制度)」を、2010年に見直して「技能実習制度」としてスタートしたもの。政府は建前としては「技術移転」などを掲げているものの、実質的には人手不足に悩む日本の中小・零細企業の労働力になってきた一方で、不当労働や人権侵害などの多くの問題を抱えてきた。「メード・イン・ジャパン」を支える光と影とも言える「技能実習制度」の現状と今後を、3人の識者に聞いた。

 アシックス(ASICS)や豊島、帝人などが加盟する一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(以下、ASSC)では、日本企業の「ビジネスと人権」のコンサルティングや労働条件などを確認する実態調査を行ない、外国人技能実習生の人権保護なども行ってきた。和田征樹ASSC代表理事は、大手スポーツメーカーやラグジュアリーブランドでCSR調達に従事し、2000年代前半から外国人技能実習生問題の現場を見てきた。和田代表に問題の本質を聞いた。


和田征樹/一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン代表理事

和田征樹(わだ・まさき):南イリノイ州立大学経済学部卒業。広告代理店勤務後、グローバルスポーツブランドにてCSR調達を担当し、日本・東南アジアを中心にCSR活動を推進させた。2009年1月からは英国のアパレルブランドにてサプライチェーンにおける人権課題を中心に活動を行う。12年、財団法人 企業活力研究所の「ビジネスと人権」研究会に研究員として招聘、13年、公益財団法人国際研修機構(現在の国際人材協力機構)に入職。その後、独立しCSRに関する研究とコンサルティング、新興国でのサプライチェーンにおける人権・労働問題や外国人・移住労働者問題に取り組む PHOTO:YUTA KATO

WWD:これまで縫製工場などで見てきた外国人技能実習生の問題は?

和田征樹ASSC代表理事(以下、和田):私がこの問題に取り組み始めた2000年ごろの当時は「外国人研修制度」という名前で実習生を受け入れていた。大手スポーツメーカーで工場の労働環境を監査していたとき、まず疑問に思ったのは賃金が研修費として支払われていたことだ。実習生1年目の研修費は、1人につき月6万円ほどだった。賃金はあくまで労働の対価として支払われるべきというのがグローバルブランドの考え方だ。工場に「研修費とは何か」と問い合わせると、工場が監理団体に問い合わせ、私自身が監理団体から呼び出され説明を受けたこともある。

 2年目以降は最低賃金で、時間外の労働はピースレート(1枚の完成品に対しての出来高払い)で時間給以下の金額で働かされていた。あるところは、日勤用と夜勤用のタイムカードが分かれていて、22時に一度退勤した実習生が、夜中の2時から朝の5時まで続けて働いているケースもあった。24時間機械を稼働させる必要がある染工場や機織り工場などでは、長時間労働が明らかに外国人実習生に偏っていた。寮の設備を見ても、日本人であれば住まないような衛生管理状況であったり、就業中にトイレに行くにもノートに記録させられたりなど、人権侵害にあたる事例はさまざま見てきた。出勤管理台帳や給与台帳等をチェックすると、表台帳と裏台帳が当たり前に存在した。ほかにも帳簿上で雑収入がやけに多いところがあり、その内容を調べてみると実習生からの徴収する寮費等が多額の雑収入として計上されていて、前述した工場内の寮に住まわせられているケースなどもあった。そうしたことがアパレル製品の低コストの実現の裏側にあるわけだ。2000年初頭までは、こうした問題に注目しているブランドは少なかったように思う。

監査は現状を把握するためのテスト、透明性を持った情報交換を

WWD:2010年に入管法が改正され、「技能実習生用」在留資格が創出された。以降、状況は改善したのか?

和田:法改正に加え、ブランド側が社会労務監査を実施し問題点が指摘され出したのは確かだ。加えて、11年の大震災の時には東北にいた多くの実習生が帰国し、人手不足を痛感した縫製工場も多かったのだと思う。労働力として実習生を確保しなければ生産できなくなる危機感から、受入れ体制を整えようと努力する工場も出てきた。しかし、監査結果が良好であれば問題がないというわけではない。監査基準が厳しくなりつつある状況で、監査結果を良好にするために書類上は準備だけを行い、現実は違うというところが多くなりつつある。

WWD:問題がなくなったわけではないということ?

和田:問題が見えにくくなってきているのは事実だ。監査やアンケートはあくまで、スクリーニングを通っただけ。現状を把握するためのテストくらいに思い、問題の原因の追求と解消を目指した活動が必要である。

WWD:では、アパレル企業側ができることは?

和田:発注側が現地に行き、透明性を持って情報交換して改善点を共有することはとても大切だ。「技能実習制度は悪だ」という日本企業の多くは、状況を改善するための歩み寄りが足りていない気がする。悪だと思うなら、それを改善するためのアクションを起こすこともサステナビリティ活動の一環であり、ASSCとしては、そうしたキャパシティービルディングの提供に軸足を置いてほしいと思っている。たとえば、技能実習生に賃金が払えない理由を、膝を突き合わせて話し合うことも1つ。あと50円工賃を上げられないか、どこかで効率化ができないかと考えたりするなどノウハウの提供でも歩み寄れるはずだ。

WWD:和田さん自身は、この制度をどう見ている?

和田:法律を整えることも大事だが、まだまだ運用側が努力すべき点は多い。受け入れ企業が実習生を日本人と同じ労働者として捉えることが本質だと思う。技能実習生が100万円借金をさせられていると知ったら、自分の工場で働いている実習生にもきちんと内情をヒアリングするのが経営者のすべきことだろう。残念ながら、労働力として雇っているにもかかわらず、「日本語が話せないから安くていいんだ」と考える経営者も少なからずいる。実習生に選んでもらえるような待遇を企業側が率先して作る状況を目指してほしい。これは日本人の労働力を確保するにも「選ばれる企業になること」は必要な視点だと思っている。

WWD:現在の制度上では、「日本人と同等の待遇」が義務付けられているが、それでもなぜ問題が起こるのか?

和田:「日本人と同等」=「最低賃金」と理解されているところにも問題がある。制度上では、ある程度職務経験のある人に日本でより技術を磨いてもらうことが目的だ。それなのに経験のある実習生の給料が、日本人の未経験の高卒の社員の給料より少ない場合、「同等」とは言えないだろう。そのほかにもボーナスの支払額が違ったり、休日や夜勤が実習生中心になっていたり、外国人技能実習生用の就業規程が作られているところもある。

WWD:あらためて、この問題の本質はどこにあると考える?

和田:根底にあるのは、差別意識ではないかと思う。原因はあまりにも複合的で1つには絞れないが、企業努力がまだ足りていない。もちろん、監理団体側の改善も必要だが、それも企業側が信頼できる監理団体を見抜く目を持つことも大切だろう。労働搾取は日本全体で起こっている問題だと思っている。私自身は、特に脆弱な立場に置かれている外国人労働者の状況を改善したい。なぜならば、外国人労働者が私たちの生活や経済を支えているといっても過言ではない状況だと思うからだ。ASSCでは、問題点を指摘するだけでなく、企業と一緒に解決を目指している。

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