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死者多数の事故「ラナ・プラザの悲劇」から6年 バングラデシュの労働環境は改善されたのか

 2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で複数の縫製工場が入った複合ビルが崩落し、死者1138人、負傷者2500人以上を出す大惨事が起きた。ビルの名称から「ラナ・プラザ(RANA PLAZA)の悲劇」と呼ばれる事故から6年が経つが、同国の労働環境は改善されたのだろうか。

 事故から1カ月後の5月には、安全監視機関として「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定(The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh以下、アコード)」が設置され、「H&M」や、「ザラ(ZARA)」の親会社であるインディテックス(INDITEX)など欧州を中心とするアパレル企業222社が署名した。なお、「ユニクロ(UNIQLO)」も13年8月に署名している。アコードには法的拘束力があり、参加企業はバングラデシュにある縫製工場などの安全検査を実施し、問題があると判明した場合にはその改修費用を負担する仕組みとなっている。

 同様に、主に米国の企業が参加する「バングラデシュ労働者安全連合(Alliance for Bangladesh Worker Safety以下、アライアンス)」も同時期に設置され、1000カ所近い工場の安全を監視していた。しかしこれは法的拘束力がない上に、もともと5年間でバングラデシュの政府関連機関などに業務を引き継ぐという期限付きだったため、18年12月末で活動が停止された。

 実はアコードも同様に5年間の期限付きだったため、活動停止を命じる判決をバングラデシュの下級裁判所が出していたが、現在でも縫製工場などで火災が頻発する状況に危機感を覚えたアコード側が19年5月に上訴し、281日間の活動継続および後継組織への活動引き継ぎが承認された。

 縫製産業従事者の労働環境の改善を訴える非政府組織「クリーン・クローズ・キャンペーン(Clean Clothes Campaign以下、CCC)」のイネケ・ゼルデンラスト(Ineke Zeldenrust)=インターナショナル・コーディネーターは、「バングラデシュではいまだに火災が後を絶たず、いつ第二の『ラナ・プラザの悲劇』が起きてもおかしくない。19年2月にはダッカのチョークバザール地区にある集合住宅や倉庫で、3月にはアパレルブランドのバイヤーなどが入居する高層ビルで大規模な火災が発生して大勢の人が死亡した。建築基準法が守られていないし、非常口に鍵がかけられているなど安全基準法に違反しているケースも多いのに、政府当局がそれを摘発しないからだ」と語った。

 バングラデシュの縫製品輸出産業の規模はおよそ300億ドル(約3兆2100億円)で、中国に次いで世界第2位だ。大勢の労働者が従事する業種だが、労働環境の改善を要求することが難しいだけではなく、場合によっては命の危険すらあるという。19年1月には最低賃金の引き上げを求めるストライキが行われたが、平和的な抗議行動だったにもかかわらず、警察が催涙弾や放水銃などの強硬手段を用いて群衆を散らしたために1人が死亡し、少なくとも65人が逮捕された。またストライキに参加した労働者のうち1万1600人が職を失い、その多くは再就職できずにいる。縫製工場などが作成している“ブラックリスト”に載せられたためだ。

 米非営利団体「国際労働権フォーラム(International Labor Rights Forum)」のジュディ・ギアハート(Judy Gearhart)=エグゼクティブ・ディレクターは、「労働者に銃を向ける国の政府が、彼らの権利を守るとは思えない。バングラデシュ政府は労働者の安全より、世界で最も安い労働力を提供することを優先している」と話した。

 こうした状況を踏まえると、同国政府にアコードの業務を引き継ぐのは時期尚早であり、この段階で活動を停止することはさまざまな意味でリスクを伴うと多くの人権活動家が口をそろえる。アコードに調印している企業が、労働者の安全を脅かす国での生産は大きなリスクだとみなして撤退すれば、バングラデシュの縫製品輸出産業自体が立ち行かなくなるかもしれないからだ。結果として、縫製工場と労働者のいずれもが仕事を失ってしまう。アコードはこれまで、欠陥建築や火災警報器の未設置、非常口がふさがれているなど9万7000件以上に及ぶ危険性を発見して解決してきた。政府の監視機関にそうした能力や意思がない以上、アコードはいわば労働者の安全を確保する“最後のとりで”だ。

 労働者の人権問題に取り組む「マキラ・ソリダリティー・ネットワーク(Maquila Solidarity Network)」のリンダ・ヤンツ(Lynda Yanz)=コーディネーターは、「アコードほど透明性が高くなく、法的拘束力のない監視機関でもいいと考えるアパレル企業は、サプライヤーの工場で『ラナ・プラザの悲劇』が再び起きるリスクを冒すことになる。それはブランドの評判を危険にさらすことでもある」とコメントした。

 CCCの調査によれば、アライアンスの業務を一部引き継いでいるバングラデシュの自主規制団体「ニラポン(Nirapon)」は安全基準を満たしていない工場を公表していない上に、そうした工場の操業停止や危険性の排除を命令する権限もないため、「恐ろしく不十分な能力しかなく、アライアンスの代替として不適当」だと指摘している。

 ゼルデンラストCCCインターナショナル・コーディネーターは、「信用のおける代替組織がないままにアコードを解散することは、バングラデシュにおける労働者の安全を大幅に後退させることになる」と警告する。「縫製産業従事者の安全を守るためには、バングラデシュ政府と工場の経営者たちがアコードと協働し、政府による監視機関の準備が整っていることを条件に業務を引き継ぐといった“責任ある移行”をする必要がある」。

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