ファッション

ITベンチャーからファッション業界へ 「OAO」が提示する新たなシューズの選択肢

 「OAO」は、“Experience for Humanity - 人間らしい体験を。- ”をコンセプトに、都市生活で求められる機能性と、アートや建築などに着想した未来的なデザインを特徴とするシューズブランドだ。同ブランドは板垣孝明と高橋悠介が直営ECをメインに2020年3月に立ち上げ、フォトグラファーやスタイリストといったクリエイターを中心にファンを徐々に増やしている。昨年から卸売も始め、東京・渋谷の「キス トウキョウ(KITH TOKYO)」や中目黒の「ベスト パッキング ストア(Best Packing Store)」、エディションなど5アカウントで扱われている。

 板垣と高橋は、かつて大手IT企業でウェブサービスなどの新規事業を担っており、事業責任者や関連会社の取締役を務めた経歴もある。そんな二人がなぜ、ファッションの世界に入ったのか?ブランド立ち上げの経緯と今後の展望を聞いた。

WWD:二人の出会いは?

板垣:僕らは元々ITベンチャーで働いていました。17年に新卒で入社した同期です。共通の趣味も多く、自然と仲良くなりました。互いに部署は別でしたが、どちらも新しいサービスや事業を作ることが主なミッションで、今の社会にはこういうことが求められているから、こんなサービスが必要なのでは?という視点で業務に取り組んでいました。

高橋:実際にコードを書くということはなかったものの、こういうデザインや機能性を持たせたいとか、どんなマーケティングを行うかなどを考え、チームとして実行していました。

WWD:デジタルではあるが、“何かを作る”という点ではファッションとも通ずるものがある。

高橋:そうなんです。エンジニアやデザイナー、グラフィックなどさまざまなクリエイターと一緒に仕事していて、サービスを作り、それを活用してもらう喜びはいつも感じていました。

板垣:ただ、ずっとデジタルの領域で、「いつかリアルに関わるものを作りたいよね」と話していて。それと、toBではなくtoCで、自分たちの作ったものがどこまで広がるか試してみたい気持ちもありました。そして、二人で会社をやろうと、入社して2年弱で退社し、19年3月に自分たちの会社を始めました。

WWD:スニーカーを事業に選んだ理由は?

板垣:前職でさまざまな職種のクリエイターと関わる中で、「しっくりくるスニーカーがない」という話がたびたび上がっていたんです。例えばバッグはPCが入るサイズで耐久性があるものを使い、服はシンプルだけど気心地が良くて、イージーケアなものを選ぶ。身に着けるものにはこだわりがあるけど、靴は選択肢が少ないから、無難にスポーツブランドを買う、という人が多かった。これはチャンスというか、そのニーズに応えるプロダクトを作なくてはと思い、シューズブランドを構想しました。

高橋:ランニングシューズを日常で履かない人も多いし、ラグジュアリーブランドのシューズは耐久性や履き心地などで納得がいかないこともある。デザインから履き心地、機能性まで、100%満足のいく唯一無二のシューズを自分たちで作ろうと、“ONE and ONLY”の意味を込めて「OAO」を始めました。

WWD:会社登記は19年3月で、ブランド立ち上げは20年3月。ローンチまで1年近くかけている。

高橋:プロダクト開発にかなり時間がかかりました。ファッションが好きだったとはいえ、ものづくりは素人。最初は、さまざまなクリエイターにヒアリングしまくって、どんなデザインと機能性が求められているかをリサーチするところから始めました。

板垣:その後、友人に手伝ってもらいながらデザイン案を考えていくのですが、納得のいくものがなかなか作れなかった。そこで、途中からアーティストやデザイナーとして活動する串野真也さんにプロダクトデザインをお願いしました。

高橋:串野さんは僕らよりも10歳以上年上で、プロダクトのデザイン経験も豊富。僕らのやりたいことを汲みつつ、素材や色、パーツ、設計などを細かく調整しながら仕上げていきました。プロトタイプだけでも20足は作ったかな?そうして完成したのが1作目の“ザ・カーブ ワン(THE CURVE 1)”です。

WWD:生産も国内で行っている?

高橋:はい、革靴やブーツを手掛けている老舗工場で作っています。革靴とスニーカーは勝手が全然違うため、一から相談しています。どんな素材がコンクリートで快適に歩けるか、靴擦れなどのストレスを避けられるのか。木型、ソール、中底、インソールと何千通りもあるパーツの組み合わせから、最適なものを一緒に考えています。

WWD:その機能性は具体的にどんな点に表れている?

板垣:例えば1作目の“ザ・カーブ ワン”は、前足部のソールの傾斜を強くして、スムーズな蹴り出しを目指しています。ほかにも、中敷の土踏まずの膨らみを絶妙に出して足当たりをよくし、通常厚紙を使う底の部分にコルクを使って吸湿性を高めています。

高橋:コルクの方が柔らかいから、履き心地も良くなるんです。あと、スポーツメーカーは履き口と内側で別々のライニングを組み合わせることが多いのですが、踏み込む力が外に逃げて疲れの原因になるため、僕らはライニングを一体化させています。

板垣:大手メーカーの靴はかなりコストを切り詰めて作っているんですよね。質が低いわけじゃないけど、価格帯を大きく動かせない。僕たちはコストや価格帯を意識しすぎず、こだわりを徹底的に詰め込めるのは、インディペンデントなブランドの強みです。

WWD:ビジネスは好調?

高橋:最初はECだけでしたが、ポップアップや予約制のショールームなど、直営ビジネスを多角化しているほか、昨年から卸も本格的に始めました。個人的にも好きな高感度なショップに評価されているのがうれしいですね。

WWD:今年2月にはロゴやサイトデザインを一新したが、その意図は?

板垣:より多くのユーザーに届けることが一番の狙いです。ローンチ時の抽象的で直感的なサイトデザインは、ブランドに興味を持って流入してきたユーザーにはウケても、フラッと立ち寄った人には優しくない。プロダクトを気に入ってもらえるかもしれないポテンシャル層を、サイトデザインやUXで損失しているのはもったいないなと思いました。今は「高い推進力」「強いグリップ「厚いソール」など、分かりやすい特徴から検索できるようにし、どんな人でも回遊しやすい設計を目指しています。

高橋:プロダクトもストイックなデザインがメインでしたが、オフホワイトを基調とした柔らかなカラーリングや曲線的なステッチワークなど、優しいテイストを取り入れたモデルも積極的に開発しています。“オース(AUTH)”や“サンライト(SUNLIGHT)”はその一つで、これまでのモード好きなファンに加えて、主婦などの女性ユーザーの反響もあり、間口の広がりを感じています。

WWD:既存ファンの反応は?

板垣:ポジティブな反響がほとんどです。ブランドの軸はブラさず、見せ方をアップデートできた証拠だと思います。リピート率は3割を占め、数足を所有する人も多い。

高橋:定番モデルも素材やサイジングを絶妙にアップデートしているので、新しくなるたびに買ってくれる熱心なファンもいますね。

WWD:現在の課題は?

板垣:ブランドの世界観を体験できる場所がまだまだ少ないこと。試着はもちろん、プロダクトのクオリティーやこだわりをワンバイワンで伝えていきたい。今はポップアップが中心ですが、フラックシップのようにブランドのコアを伝える空間が必要だと思います。

高橋:物販だけでなく、ブランドの姿勢を伝える新しい企画にも挑戦したいよね。少し前に、ポップアップと連動したウオーキング企画を行いました。街の歴史を知りながら「OAO」を履いてもらう内容で、少数の参加者ながらユーザーと深くつながることができ、手応えを感じました。建築やグラフィック、アートなど、ブランドと親和性のある物を組み合わせながら、世界観を総合的に訴求する企画を実施していきます。

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