ファッション
連載 編集長のパリコレ真剣レビュー

見た目と実際が違うって、どういうこと? アンスリウムで「ロエベ」が哲学的に語る 編集長のパリコレ真剣レビュー Vol.4

有料会員限定記事

 「ロエベ(LOEWE)」のファッションショーの招待状は、植物のアンスリウムと一緒に送られてきた。印象的な赤の部分(仏炎苞という)は独特の見た目と触感で、まるでプラスチックのようだが立派な植物だ。

 見た目はプラスチックなのに、実際は植物。こうした見た目と実際の乖離と、自然とデジタルの調和を探求すべく2023年春夏メンズで融合を試みた植物と洋服の関係性が、ウィメンズ・コレクションでも大きなテーマとなった。

 ファーストルックは、前から見るとクリノリンが入ったベルベットのミニドレスだ。しかしボリュームシルエットを形作るワイヤーは体の前面にしか存在せず、後ろはむしろスリムなシルエット。前からの姿が「見た目」で、後ろからの姿が「実際」だとしたら、このドレスも「見た目と実際」が乖離している。その後は金属製のアンスリウムで作ったベストや、片胸を同素材の小さなアンスリウムで覆ったレザーのミニドレスが続く。そもそもアンスリウム自体「見た目と実際」が乖離しており、そのアンスリウムをメタルで作った造形物もまた「見た目と実際」が乖離しており、そんなものを洋服に使うこと自体もアンスリウムという「見た目」と洋服として用いられた「実際」の乖離だ。「本物」って、なんだろう?メタルで作ったアンスリウムは、見た目も触感も本物そっくりなのに偽物なのだろうか?それでも洋服として用いるのなら、本物ではないのだろうか?そんな揺さぶりをかける、ミニマルながら示唆に富んだ洋服だ。

 アンスリウムの仏炎苞は、さまざまなアイデアで洋服のシルエットにもなった。例えばポロ襟のミニドレスは、カシミヤ素材でもテクニカル素材でも高密度に編んで、裾は柔らかなペプラムを形成。モダールのような素材で作るドレスのジャージーは、アンスリウムの花弁のように屹立(きつりつ:いきり立つ、という意味)した突起から下に垂れ下がり、優しいドレープを描く。前面にウレタンを入れたニットは、胸の前で仏炎苞のように巨大な曲線を描いた。極め付けは、ハンティングジャケットだ。普通ならオイルドコットン製のハンティングジャケットはちょっぴり野暮なところが可愛らしいくらいだが、こちらも裾に向かって末広がりのカーブを描く。こんなに美しいハンティングジャケットは見たことがない。イギリス出身のジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)らしくもある。

この続きを読むには…
残り635⽂字, 画像5枚
この記事は、有料会員限定記事です。
紙版を定期購読中の方も閲覧することができます。
定期購読についてはこちらからご確認ください。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

Timeless, Yet New 変わらない吉田、世界を変える【WWDBEAUTY付録:今こそ立ち上がれ、日本化粧品】

「WWDJAPAN」12月22日&29日合併号は、創業90周年を迎えた吉田カバン総力特集です。「ポーター(PORTER)」「ラゲッジレーベル(LUGGAGE LABEL)」「POTR」の3ブランドを擁し、日本を代表するカバンメーカー・吉田のモノ作りに迫ります。日本が誇る伝統技術を持つカバン職人たちと深い関係を築きながら、最先端の技術・素材を使い名だたるデザイナーズブランドとコラボレーションする相反…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。