ファッション

草生えた「ロエベ」ワールドにぼう然 色彩豊かな「エルメス」「オーラリー」も登場の2023年春夏メンズコレ取材24時Vol.8

 2023年春夏コレクションサーキットの皮切りとして、各都市のメンズ・ファッション・ウイークが開催しています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回はキレキレの「ロエベ(LOEWE)」や「エルメス(HERMES)」、メンズのファッション・ウイーク初参加の「マリーン セル(MARINE SERRE)」などが登場します。

9:30「コム デ ギャルソン・シャツ」

 今日はいつもよりも少し早めのスタート。朝9時30分から、「コム デ ギャルソン・シャツ(COMME DES GARCONS SHIRT)」のフロアショーに向かいました。ショーでは、今朝の爽やかな気候と同様、和やかな気持ちになるウエアが登場します。イチゴやキノコといったモチーフや、“FRESH”というメッセージ、縦や横にランダムに付くフリルが無邪気で、ホワイト、ピンク、ブルーのシンプルなカラーパレットに映えます。ネクタイをゆるく巻くスタイリングやモコモコのハットも遊び心たっぷりで、ファッションを楽しもうというシンプルなメッセージを受け取りました。

10:00「アーネスト W ベーカー」

 次はポルトガル発の「アーネスト W ベーカー(ERNEST W BAKER)」のプレゼンテーションです。同ブランドは、2016年に創立。アメリカ人のリード・ベーカー(Reid Baker)とポルトガル人のイネス・アモリム(Ines Amorim)のデュオによるメンズウエアブランドです。2018年度の「LVMHプライズ」では、ショートリストに選ばれました。バラのモチーフがシグネチャーで、ツイードジャケットを筆頭に両性具有的なフェミニンなアプローチを得意としています。今季は1970年代のバイカーに触発されて、真っ赤なライダースジャケットやグローブ、映画から着想を得たショーツと合わせるタキシードなど、若い世代に向けてウエラブルなクラシックウエアと、ロッカースタイルを提案します。生産は全て地元ポルトガル・ポルトで行なっており、クオリティは上々。ただシューズは素材と縫製に改善すべき点があるかなという印象です。彼らにとって日本と韓国が最大のマーケットで、Kポップアイドルが着用したアイテムは爆発的に売れるそう。日本では東京のゴッファ エックス(Goffa X)やベービーズ・オールライト(Baby’s all right)で取り扱っています。

10:30「オーラリー」

 「オーラリー(AURALEE)」のプレゼンテーションは、ピカソ美術館(Musee Picasso Paris)の敷地で開催。きれいなカラーが強みの一つなので、屋外で見るのも気持ちいいものです。この日3回実施するミニショーの初回だったためか、人の入りはやや少なめ。ただコレクションにはいつも通りの安定感があり、パステルカラーの中に差し込むターコイズやオレンジ、パープルといった発色のバランスはさすが。イージーフィットのテーラリングにスポーツやアウトドアの要素を盛り込み、快活なリアルクローズを披露します。個人的には、ブルーのザクザクしたツイードセットアップが気になりました。「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボシューズは今回も登場。深いグリーンのカラーリングが絶妙で、毎回欲しくなってしまいます。ブレないメンズに対し、ウィメンズは肌見せが多く、これまでよりも女性性の主張がやや強くなった感じがしました。無地の上質カジュアルはどうしても派手なコレクションに比べて埋もれてしまいがちですが、海外クリエイターと組んだり、趣向を凝らしたプレゼンテーションだったり、戦い方によってはパリコレでも存在感を十分発揮できます。「オーラリー」はそれができるはずです。

12:00「ロエベ」

 「ロエベ(LOEWE)」の会場は、中心地から離れたテニスクラブ。中には真っ白な傾斜のある床が用意されていました。招待状がまさかの土付きカイワレだったので畑のようなセットを予想してましたが、想像とは真逆の無機質な空間でした。ゲストは階段状になった座席に座り、スクリーンのようにショーを正面から見る仕組みです。

 地平線上のスクリーンの最も高いところからモデルが登場し、白い土から芽が出てきたような演出でした。モデルが傾斜を降下して歩くと、まるでこちらに迫ってくるような不思議な視覚効果です。そしてコレクションで驚いたのは、スニーカーやコート、ジーンズに生えた草です。自然と服が融合していくアイデアのもと、実際に生地に種をまき、水を与え、20日間かけて栽培した本物の植物なんです。ショー後のバックステージでジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=クリエイティブ・ディレクターは、購入者には種が付くことを明かしていました。“自然とテクノロジーの共存”をテーマに、コートに取り付けたスクリーンに自然の映像を流し、レギンスには野原や海をプリントで描きます。明るい色彩の、パフ入りのボンバージャケットやフーディー、スニーカーといったボリュームのあるアイテムに対して、レギンスやトランクスのタイトなアイテムとのコントラストでシルエットに焦点を当てます。バーチャル空間に似せた会場と、植物が生えた異様なピース、軸となるのはスポーティーな日常着。後半にかけて盛り上がっていく音楽が後押しして、未知なる惑星の中で浮遊してるようなインタラクティブな演出に没入し、ショーが終わった後も当分は頭の中が真っ白な状態……。

 手仕事によるクラフトを大切にする「ロエベ」なので、テクノロジーとは縁遠いイメージだった分、今季のクリエイションは驚きでした。ジョナサンはショー後のバックステージで今回のアイデアについて「ファッションを進化させるため」と説明します。「自然が自然を拡張させるのではなく、自然がテクノロジーを、もしくはテクノロジーが自然を先導するというアイデアが出発点。私たちが試行錯誤を続け、異なるメソッドを見つければ、ファッションは進歩することができるかもしれない」と続けます。つまり、自然とテクノロジーは対立構造ではなく、高め合う関係を構築することで、ファッションないしは人間も進歩できるのだという大きなスケールのテーマなのだと解釈しました。バーチャルだけでなく、現実を直視すべきという意味も込められていたのでしょう。サステナビリティやメタバースといった最近の話題をすでに超越しています。未来を予見する彼の言葉は、いつも学びを与えてくれます。

15:00「エルメス」

 「エルメス」のショーは、パリ13区に18世紀に建てられた国立ゴブラン織工房の中庭で開かれました。ショーの直前にタイミング悪く雨が降り出してきたものの、来場者には「レインズ(RAINS)」のレインウエアが配られるというホスピタリティ。さすがです。ショーは、ここ最近協業を続けているフランス人アーティストのシリル・テスト(Cyril Teste)とのコラボレーション。今シーズンは、“ホリデイ”を意識したコレクションで、明るい色使いや快活なムードがたっぷりです。

 例えば、ビーチやサンセットの柄を織りで表現したニットウエアや、インパクトのあるビッグなタツノオトシゴ柄といったモチーフ使いをはじめ、水を意識したディテールも取り入れます。ネオプレンのサンダルは軽やかなスタイルを後押しし、チェック柄は水の中でゆらめくように波打つ“ウォーターエフェクト”にアレンジ。オールインワンはリネンとシルクをミックスした上質な肌触りで、紙のように軽いコットンポプリンやコットンサージがあれば、きれいな発色の重厚なクロコダイルブルゾンが登場するなど、素材のバリエーションも豊富です。また、“ホリデイ”に合わせてボタニカルのモチーフをレザーのブルゾンにあしらっているのですが、プリントでもなく、ステッチでもなく、まさかのパンチング。美しいクラフツマンシップにびっくりです。多くのルックにアクセントとして取り入れた、バブルガムカラーの機能素材のブルゾンが印象的でした。真似したいスタイリングです。

16:30「カラー」

 阿部潤一デザイナーによる「カラー(KOLOR)」が、ひさしぶりとなるパリでのショーを開催。ショー前は、ブランドのキーカラーであるブルーのライトが空間を染めます。「カラー」のショーを見たのが私は初めてでしたが、各ルックの色のコントラストが緻密に計算されていて美しいという第一印象で、全体を通して流れていくような配色の魅力に引き込まれました。そしてテクニカルな素材を使ったスポーツウエアは、襟と裾、ポケットがねじれ、さらに異なるアイテムをドッキング。じっくり見ないと構造をつかめないほど複雑ですが、日常に根ざしたデザインになっていて、コンセプチュアルでありながら行き過ぎた印象は受けません。個人的には、ねじれたシューレースのランニングスニーカーを履きたくなりました。お買い物気分でランウエイを見ているとリポートは務まりませんが、単純に“着たい”と思わせるピースを作るのってデザイナーとしてすごいなと感嘆します。

18:00「カサブランカ」

 「カサブランカ(CASABLANCA)」のショー会場となった旧証券取引所でゲストを迎えたのは、なんと4頭の馬。着想源がメキシコにあったのは明確で、シグネチャーであるシルク素材のシャツは、刺しゅうやビーズの装飾を施してメキシコの伝統馬術競技チャレアーダの騎士のような仕上がり。ハイウエストのタイトなレザージャケットはメキシコの現代建築を思わせるカラーブロッキングで飾り、多用したフリンジの装飾と、夕陽カラーのグラデーションに染まったシフォンのドレスで、躍動感あるドラマチックなコレクションを披露しました。サボテンが生えた砂漠の夜景や幾何学柄を、全面ビーズで装飾した豪華なピースはブランドの成長を物語り、テーマである“楽観的な未来(Futuro Optimisto)”を示していたようです。フィナーレでは馬が指示に従ってクルクル回ったり整列したりと、ほっこりするパフォーマンスに癒されました。

20:00「マリーン セル」

 最後は、メンズ・ファッション・ウイークでは初の発表となる「マリーン セル(MARINE SERRE)」です。会場はパリから離れた陸上トラック。会場には、先着順でチケット獲得した一般顧客1000人も来場しており、同ブランドのモチーフである“三日月ロゴ”を着た若者を多数見かけました。日本人席はスピーカーの真ん前だったため、爆音を正面から受け止める過酷な状況でショーがスタートしました。

 ショーのテーマは“STATE OF SOUL”。同ブランドが目指す包括性をスポーツに例え、“三日月マーク”のスポーツウエア軍団を筆頭に、デザイナーの友人やミューズ、アスリート、アーティストらがオリンピックの開会式のように複数のチームに分かれて登場します。登場するモデルは性別や年代、人種、またスタイルもストリートウエアやスポーツウエアなど多種多様。スポーツとビンテージウエアからの引用が多く見られ、リサイクル繊維を使ったスイムウエアや、デニムをアップサイクルしたコート、パンツ、グランジライクなドレスといった、ブランドらしいアプローチも披露します。中でも、ポーチが山ほどくっ付いたターコイズのコートと、アンティークのジュエリーを元ネタにした一点物のアクセサリーはインパクトがありました。登場するメンズのモデルは確かに多いのですが、メンズウエアに寄せた内容という感じではなかったため、今回のパリメンズ参加は、メンズやウィメンズといった枠に囚われないブランドであるということをアピールしたい意図があったのでしょうか。バリエーション豊富なスポーツウエアは個人的にもほしいです。

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