ファッション

パリコレで面白かった男、面白くなかった男 「コム デ ギャルソン」や「ディオール」登場の2023年春夏メンズコレ取材24時Vol.7

  2023年春夏コレクションサーキットの皮切りとして、各都市のメンズ・ファッション・ウイークが開催しています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回は好調「ディオール(DIOR)」から「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」など、注目ブランドが登場するパリメンズ4日目をリポートします。

10:00「ジュンヤ ワタナベ マン」

 本日の朝イチの「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」のショーは、ただただ楽しいコレクションでした。今回はポップアートを代表するアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)やロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)、ジャン・ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)、キース・へリング(Keith Haring)ら20世紀を代表するアーティストの作品や、コカ・コーラ(Coca-Cola)、ネットフリックス(NETFLIX)、「ホンダ(HONDA)」といったキャッチーなアイコンの企業と縦横無尽にコラボ。ファーストルックでリキテンスタインの作品を全面に配置したテーラードがジャケットが登場した瞬間「買ってしまう」と即座に反応してしまうほど、今回も大人の物欲を刺激する楽しいコレクションでした。ウエアは同ブランドらしい構成で、男性服のベーシックであるワークウエアやテーラリング、ミリタリー、アウトドアなどがベースで、ボトムはいつもよりややシャープ。シンプルだからこそ、作品やロゴを配置するセンスが際立ちます。ゲストの多くがトーキング・ヘッズ(Talking Heads)の楽曲に合わせてリズミカルに揺れ、目を輝かせながら、心の中では(どれを買おうかな)と考えていたことでしょう。

11:30「ポール スミス」

 次は、ひさしぶりにリアルのショーを開催した「ポール スミス(PAUL SMITH)」へ。廃倉庫のインダストリアルな雰囲気の会場で、淡いカラートーンのラフなルックが爽やかな春の訪れを感じさせるコレクションです。今季に限らず、「ポール スミス」のコレクションを見るといつも、やっぱりスーツってカッコいい!と思っちゃいます。歩くたびにテーラードジャケットの裏地の明るいカラーがチラリと見えるのは、軽量で柔らかな生地のおかげでしょう。今季は「ポール スミス」流のスリーピーススーツとして、ジレではなくプルオーバーのベストを提案します。深いVネックのベストは、単体でシャツやニットに重ねて着回すとストリート風のカジュアルなアイテムへと様変わり。スーツ自体にほかの要素を掛け合わせるのではなく、基本に忠実に。シルエットとモチーフ、そして新たなアイデアで日常着としてのスーツの可能性を広げているのが、デザイナーとしての手腕だと感じました。

12:30「アクネ ストゥディオス」

 パリコレ中盤でタイトなスケジュールのため、やや早足で「アクネ ストゥディオス」の展示会場へ向かいます。今季のテーマは“ウェディングパーティー”!会場にはテーマに沿った、4つの異なる世界観のインスタレーションが展示されています。コレクションのコンセプトとしては、パーティに参加するためワードローブからベストなものを選んだり、新しいものを買ったり、作ったりするDIY精神でドレスアップを楽しむというもの。パッチワークやレースアップ、ハートのアップリケを取り付けたり、パステルカラーでどこかロマンチックムードです。結婚初夜のシーツをアップサイクルした、シルクのシャツもあります。が、コンセプトなだけで本物ではないのでご安心あれ。ウェディングパーティーをテーマにしたインスタレーションスペースで写真を撮ると、“新婚さんいらっしゃい!”のワンシーンみたいになっちゃいました。

13:00「メゾン ミハラヤスヒロ」

 「メゾン ミハラヤスヒロ」は、コロナ禍で映像や商店街でのファッションショーなど、さまざまな方法でお笑い……ではなくファッションの表現にチャレンジしてきました。さらにパワーアップした三原康裕デザイナーは、帰ってきたパリコレでどんなショーを見せてくれるのでしょうか。期待を膨らませて会場に入ると紙吹雪が床に散乱しており、スタッフがそれを掃除しています。黄色いベストを着た清掃員の中に、見たことがあるシルバーヘアがいました。そう、三原デザイナー自身がほうきを手にそうじしているんです。「出てくるの早いよ」とベテランジャーナリストがつっこむと、「だってさ、間がもたないじゃん」というやりとり。ここはパリか、浅草か。

 コレクションは、三原デザイナーが好んできたデニムやミリタリーとったワークウエアに、ビンテージ加工のトロンプ・ルイユのユーモアを加えます。エイジング加工を“嘘”とし、だまし絵であるトロンプ・ルイユと結びつけることで、「軽薄な嘘よりも、表層的でいいじゃないか」というメッセージを込めました。ピースの多くに1950〜70年代のビンテージウエアのディテールを採用。異なる服をドッキングさせる得意技も健在です。ファッションはある意味ファンタジーの世界ですが、最近の「メゾン ミハラヤスヒロ」はとってもリアルで人間的。中盤からはシャボン玉が大量に放たれ、風船を手にしたモデルや来場者からは自然と笑みがこぼれます。フィナーレに登場した三原デザイナーは「オシャレでしょ?うちもオシャレができるって分かって!」とゲストに訴えていて爆笑。ここはパリか、浅草か。

14:30「ディオール」

 次は今日のメインイベントの一つ、今、乗りに乗っているキム・ジョーンズ(Kim Jones)率いる「ディオール(DIOR)」です。事前に届いたインビテーションには、きれいな花のイラストと、花の種が付属していました。会場内に入ると、ムッシュ・ディオールが愛した花々がランウエイ上に並ぶという空間演出。両サイドには家が建っており、一つはノルマンディー地方・グランヴィルのムッシュが幼少期を過ごした家、もう一つはイギリス・サセックス地方の、アーティストのダンカン・グラント(Duncan Grant)らのアトリエ「チャールストン」を再現したもの。バラ園で過ごしたムッシュの記憶と、キム自身のルーツ、アート、文学を結びつけたロマンチックなクリエイションを見せてくれました。

 コレクションは、テーラリングが中心。そこにグラントが好きだったというガーデニングの実用性を融合させ、軽快なスタイルに仕上げます。ダブルブレストジャケットはピンクやブルーのパステルカラーで、シルクのオーガンジーを素材に使ったり、ショーツとウオーキングシューズをスタイリングしたり。ジャケットの内側から袖が垂れ下がるユニークなディテールも、日常着としてのテーラリングに挑むキムの姿勢が感じられます。アーティストコラボは、アーティストへのリスペクトが強ければ強いほど“取って付けた”感になる傾向があるものの、グラントの作品をハンドニットや機能的ブルゾンとしてコレクションになじませるキムのバランス感はさすがでした。アウトドアブランド「ミステリーランチ(MYSTERY RANCH)」とコラボしたバッグや、リサイクルラバーを使った“カナージュ”のサンダル、刺しゅうを施したシューズなど、アクセサリーも充実。キャッチーなデザインと手仕事を生かしたディテールの合わせ方に唸りました。「ERL」とコラボレーションした前コレクションに比べて派手さはありませんが、キムの愛と繊細なセンスを感じさせるコレクションでした。

15:00「ジェイダブリュー アンダーソン」

 先日ミラノでショーを見た、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」の展示会へ。缶やグローブといったショーピースの立体装飾は、コマーシャルピースにはプリントで表現していました。ショーに登場したドアのヒンジがついたノースリーブフーディやニットウエアはそのまま商品化されるようです。プラットフォーム部分にラインストーンを散りばめたサンダルはショーピースですが、甲の部分にラインストーンを飾ったミュールが実際に店頭に並ぶとのこと。リンゴをかじる男の子が描かれたボーダーのTシャツは、リンゴ部分を刺しゅうで装飾。こういった細かなディテールを見られるので、展示会に足を運ぶのは大事だなと改めて実感します。

17:00「コム デ ギャルソン・オム プリュス」

 2年半の時を経て、「コム デ ギャルソン・オム プリュス」がパリに戻ってきました。前シーズンまでは日本でのフロアショーを実施していたものの、パリで見る同ブランドはやっぱり違います。まず、会場外の熱気がすごかった。そして決して広い会場ではありませんが、ちっ息しそうなほどの熱量と盛大な拍手でパリに堂々のカムバック。コレクションも、実に「コム デ ギャルソン・オム プリュス」らしいパンクな精神が生きた内容でした。こちらは別のリポートでお伝えしますね。

18:00「クレージュ」

 「クレージュ」のクリエイティブディレクター、ニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)がコレクションの説明を直接してくれるというので、展示会場へ行ってきました。私は取材で何度か会っていて、いつも気さくに笑顔で話してくれる超ナイスな人なんです。今季のコレクションは、1970年製作の映画「純愛日記(A Swedish Love Story)」が着想源。14歳の男女が恋に落ち、大人ぶってバイクにまたがるシーンに感化されたと言い、キーピースとしてライダースジャケットを制作しました。これは、「クレージュ」が81年に発表したアーカイブのネオプレンジャケットのカットとパターンを踏襲し、現代的に蘇らせたデザインです。「みんなが日常に着用できる、凡庸性の高いアイテムを届けたい。常に考えているのは、現代においてのユーティリティとは何かという点だ」とニコラスは言いました。

 シルエットはタイトフィットの過去数シーズンから、ボリュームをやや足して、全体的にシャープなジャストフィットか、オーバーサイズへと変化。アウターの胸元に取り付けたレザーのベルトは、スナップの留め方によって二通りのデザインへと変わるほか、アウターを脱いでベルト部分を肩に掛けられる仕組みです。テクノクラブ好きのニコラスが、踊っている時に邪魔にならない方法でアウターを持っておきたいという願望から思いついたと教えてくれました。メンズとウィメンズのコレクションでは、新たにドレープを生かしたデザインも登場。メンズ向けに、アーカイブのトライアングル型のバッグをアレンジした新作“シャーク”や、創設者アンドレ・クレージュ(Andre Courreges)が生み出したロゴを取り入れるなど、今後もメンズを拡販させたい意欲を感じます。年内にパリに3店舗目、ニューヨークにも旗艦店をオープン予定。メンズに関してはまだターゲットは狭いですが、マーケティングとプレスにも力を入れて、クリエイションを磨いていってくれるだろうと期待しています。

20:00「キッドスーパー」

 本日もたくさんのコレクションが見られていい日でした。そう思っていたんです、コルム・ディレイン(Colm Dillane)主宰の「キッドスーパー(KIDSUPER)」を見るまでは。これまで発表した映像などを見る限り、何かをやらかしそうな予感はしていました。会場外に着くと、人だかりですでに混乱気味。早速嫌な予感がしたものの、まだまだ序の口です。人混みをかき分けて何とかゲートをくぐると、タバコとは違う煙の匂いが漂います。おいおい。そして、煙の当事者ほど優先して入場していくアテンド下手な運営。ベテランのジャーナリストは、怒りのあまり会場を立ち去りました。こういうショーは、開始がほぼ100%大幅に遅れるんです。案の定、1時間遅れの21時にスタートするころには、すでにちょっと帰りたい気分でした。

 ただ、ショーの演出は今シーズンのメンズコレで最もユニークでした。壁に掛けられた絵画とコレクションが連動しており、オークション形式で一体一体の値段が付いていく、ゲスト参加型のショーなのです。もちろん架空なので実際に購入するわけではありませんが、入場時に渡された番号の札をゲストが掲げるたびに、価値が数字としてどんどん上がっていく仕掛け。ゲストがどのルックが好きかその場で分かるアイデアは上手い。そんなポジティブな気持ちで見続けて約10分が経つころには、すでに飽きてました。ルック一体を紹介する時間が長すぎて、コレクションが全然進みません。雰囲気的に途中で抜けられる感じでもなく、23体を紹介する苦痛に30分間耐え続けました。服は、作品をドンと乗っけていたことぐらいしか印象に残ってません。デジタルでハイライトをチェックする分にはいいのでしょう。ただ、これを現場で見るのは辛かった。しつこいと嫌われるのは、ファッションショーも同じでした。あれだけ盛り上がっていた客席も、途中から明らかにシラけています。才能はあるのだから、まずはしっかりしたPRエージェンシーと契約すればいいと思います。自分のアイデアとお笑いセンスに自信があったとしても、見る側の気持ちを忘れないでおこうと自戒を込めて帰路につきました。

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3月18日発売号の「WWDJAPAN」は、2024-25年秋冬パリコレクション特集です。2月末から3月にかけて約100ブランドが参加して開催されたパリコレを現地取材し、その中で捉えた次なる時代のムード、デザイナーの視点をまとめました。ファッションデザイナーたちから届いた大きなメッセージは「何気ない日常を特別に」。戦争、物価高騰、SNS疲れと私たちを取り巻くストレスはたくさんありますが、こんな時代だ…

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