「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDジャパン2022年8月29日号からの抜粋です)
岸田政権が掲げているスタートアップの徹底支援。ビューティの世界にとっては、極めて頼もしくタイムリーな政策だ。実際に、AIを駆使した肌診断やバーチャルトライアルによるコスメ提案はもちろんのこと、DNA検査をベースにした個肌対応など、今まさに未来のテクノロジー・ビューティの扉が一気に開こうとするタイミングだからである。
一方、そうした派手さはないものの、確固たる影響力を持ち始めたのが、“医療系ベンチャー”というカテゴリーなのだ。 医療系といっても、従来のドクターコスメやメディカルコスメとは一線を画すもの。明らかに目的もフィールドも異なる開発により、革命的な処方やテクノロジーを完成させ、結果として化粧品という形でそれを世に提供していくという、 医療レベルのテクノロジーありきの化粧品を生み出すベンチャーが、このところがぜん存在感を増しているのだ。
まず、医療現場の課題と本気で取り組みたいとの志を一つにした95人の医師が投資して起業したドクターチョイス(商品の販売元はマーベセラー)は、研究開発から製造、販売まで行う企業。最大の偉業はやはり皮膚科医にとっての最強成分にして永遠の課題ともいえるビタミンCの革命だろう。成分発見から100年近くかなえられなかった、ネガティブ要素のない驚くべきビタミンCの理想形=MIRA VC。いうまでもなくビタミンCは、最強の全方位効果を持ちながら不安定で刺激が強いことが最大のネックとなってきた。それをほぼ完璧な形でクリアする快挙。じつに、35%という驚異の高濃度配合の美容液を完成させた(クリニックのみで販売、市販の美容液は28%)。加えてここは、何と「ヒアルロン酸を生成する天然UVカット成分」も開発している。本当に求められるもの、効くものを、自分たちの手で作り、世に送り出し、悩める人を癒やしたいとの医者の良心が結実した、見事なケースである。
そして、医療現場で使われる光学機器や無痛注射針などを開発する技術系メーカー、シンクランド。じつはここが、既存のニードルパッチとは根本的に違う、世界初の中空型ホローマイクロニードルを内蔵した“ロック式の注射型集中ケア”を生み出したのだ。指先大の先端を肌に当ててワンプッシュするだけで、数10本のニードルの穴から吐出された美容成分が肌の奥に瞬時に注入される構造。しかも角層の奥に美容成分が注入された瞬間、角層は自ら穴を閉じて成分を取り込む仕組みなのだ。いうなればニードルパッチでは一晩かかる注入が一瞬で済むという理屈だが、安全性の高い超微小針(先端の直径100μm以下)そのものに特殊レーザーで貫通穴を開けることに成功した結果、どんな成分でも注入できるようになったというわけ。“美白注射”なども可能になるわけで、明らかに化粧品よりも美容医療に近い。医療現場で使われる痛みのないインスリン注射器なども確実に進化しており、それが美容にも反映された形。
こうした実力と実績ある医療系ベンチャーの仕事を知るほどに、まさに医療と美容のはざまにあるこのカテゴリーこそが、美容の未来を切り開いていくのだという確信を深めているのである。