全世界を襲ったコロナの感染拡大は、例外なくロサンゼルスでも猛威をふるった。戸惑い恐怖を抱えながら生きる人々、次々にクローズしていくビジネス——。多くのプロジェクトがストップし、抜け道のない長いトンネルのように感じた人も少なくはない。2022年現在、ウイルスはまだそこに存在しているが、人々のマインドセットは恐れを抱いていただけの2年前とは違う。多くの人々の価値観とライフスタイルに変化が見られ、自身とコミュニティーを大事にし、将来を見据えたプロジェクトを開始した人々が多く見られるようになった。これは、企業もしかり。世界情勢と私たちの生活に明るい光を与えてくれるような、すてきなムーブメントがここロサンゼルスでは多く始まっている。
ビーチシティのマリブとサンタモニカには、100%地産地消サーフショップがオープンした。「ブラザーズ・マーシャル マリブ サーフ カルチャー ショップ(BROTHERS MARSHALL MALIBU SURF CULTURE SHOP)」は、マリブ出身の有名サーファーであるマーシャル兄弟がオーナーを務める。オープニングイベントにはレジェンドサーファーから有名アクターまで、多くのカルチュラルピープルが集った。
ほかにも、ライフスタイルを豊かにしてくれるアートやミュージック、ファッション関連商品がそろうサーフショップ「2-3 フェア(2 to 3 FAIR)」もオープン。人々が良いアイデアを交わしあえるコミュニケーションの場として、これから更に支持されそうだ。
ウエストサイドで人気のストリート、アボットキニーは、コロナの影響で撤退する店舗も続出して寂しくなっていた。しかし、毎週土曜日に開催されている屋外フリマ「アーティスツ アンドフリーズ(ARTISTS & FLEAS)」をはじめとする屋外イベントが多く開催され、活気を取り戻しつつある。
また21年には「クックマン(COOKMAN)」がオープン。「クックマン」といえば、アメリカ西海岸のシェフが考えた、ユニークで動きやすいカジュアルパンツが有名だ。ウエストがゴムでイージーに着こなせるから、コロナの影響もあり、ワンマイルスタイルやラウンジスタイルをはじめとするカジュアルウエアを求める人々から愛されている。男女共に着こなせる商品という点でも、ジェンダーレスな流れがさらに強まるロサンゼルスにはぴったりだ。オンラインでは、特にカーゴパンツが爆発的に売れ、ロサンゼルスをはじめ全米で売り上げは好調という。
「バーニーズ」閉店で閑散とした
ビバリーヒルズに活気が戻る
高級ブランド店が立ち並ぶビバリー・ヒルズは、百貨店「バーニーズ ニューヨーク(BARNEY’S NEW YORK)」の撤退後、多くのリテールスペースが空いたまま閑散としていたが、ロデオドライブ通りには「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ舘がオープン、他ブランドもポップアップやイベントを積極的に行い、街は再び華やいできた。老舗ショッピングモールのビバリー・センターは大幅にリニューアルし、再度注目されている。20年には、マイアミ発のセレクトショップ「ウェブスター(THE WEBSTER)」のロサンゼルス一号店も待望のオープンを果たした。
サンセット通りにあるランドマーク的存在のライフスタイルショップ「フレッド・シーガル(FRED SEGAL)」でマーチャンダイジング担当のシニア・ヴァイス・プレジデントを務めるアシュリー・ティスデイル(Ashley Tisdale)は、現在のリテールショップの状況をこう説明する。「ディスカバリーとイノベーションをコンセプトに、ワクワクするようなショッピング体験をさせてくれるのが『フレッド・シーガル・サンセット』。消費者はモノから得る満足感よりも経験そのものを欲しており、『フレッド・シーガル』はそれを提供できる場所と言えると思う。消費者は以前に比べ、クオリティーが高くユニークな商品を求めている。トレンドを重視したシーズン限定商品ではなく、長く使えるアイテムが人気。品質の点では、ラグジュアリーブランドのビンテージバッグや『ロレックス(ROLEX)』の価値も上がっている。これからのリテールビジネスは、パーソナル・エンゲージメントとコミュニティーがキーワード」。
「ラグシー」オーナーも
ゴルフウエアに注目
ロサンゼルスを代表する人気のライフスタイルショップ「アメリカンラグシー(AMERICAN RAG CIE)」のマーク・ワーツ(Mark Werts)=オーナーは、引き続きコロナの存在を感じながらもロサンゼルスのリテールシーンを先導している。「日本では『セレクトショップ』というカテゴリーに部類されるが、『アメリカンラグシー』は『ライフスタイルストア』。セレクトアイテムとビンテージ、そして家具から雑貨までそろう。現在はコロナの様子を見つつ再オープンを予定しているカフェスペースも存在し、ここに来れば、私たちのライフスタイルにインスピレーションを与えてくれる時間を過ごすことができる。これは1984年のストアオープンから新型コロナウイルスの感染拡大、そして現在に至るまで、変わらない」。コロナによる変化については、「消費者の価値観やニーズは変わった。ロサンゼルスで感染拡大予防のため隔離が命じられた時期は、やはりホームグッズやラウンジウエアの売り上げが伸びた。外出できなくなったため、特にウィメンズのフォーマルウエアの売り上げは著しく下がった。メンズの打撃は小さかったが、今は再びドレスやヒールなどウィメンズの売り上げが伸びており、将来は明るい。また、コロナ禍中でも楽しめるスポーツとしてゴルフが再注目された。米国ではアスリートが好むスポーツでもあることから、ゴルフウエアの人気も高まっている。ビンテージアイテムが好調なのは、サステナブルなマインドが更に強くなったロサンゼルスでは当然かもしれない。『ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)』の90年代ヴィンテージにオリジナルのリメイクを施したものはコレクターズに絶大な人気があり、日本のストアにも輸出したところ。消費者が個性を大切にしているのも感じる。この店の客は個性を大事にしていて、何を着たいか、何に投資したいか分かっているんだよ。靴というカテゴリーに関しても、同じトーンでありながら、客のスタイルによって多様に変化する商品をそろえている」。テクノロジーの発達で、直接人に会わずに、直接その場所を訪れずに買い物できるようになったが、やはりコミュニティー、人と直接触れ合うのが大事だとマーク・オーナーは言う。とはいえ、このコロナ禍で消費者の行動が変わったため、ECサイトでのセールスには今後も更に力を入れていく。オンラインリテールが強いとされる、イギリスの会社とタッグを組むそうだ。
「ファンダメンタル(FDMTL)」や「プロスペクティブ フロウ(PROSPECTIVE FLOW)」をはじめ、多くのジャパニーズ・デニム・ブランドは「アメリカンラグシー」で今も人気だ。「日本のブランドはサイズ感が小さい場合が多く、アメリカで販売するときは気をつけなくてはいけないけれど、クリエイティビティーという点では本当に素晴らしい。こうしたブランドは『ビンテージ・アメリカン』がどういうものか、その大切さをよく分かった上でモノ作りをしている」。日本とのつながりを大事にしているマーク・オーナーは、「日本の“ウエアハウス(倉庫)”跡に建設される複合施設に、リニューアルした『アメリカンラグシー』をオープン予定なんだ。観光地ではなく、カルチャーとコミュニティーに密接した場所にしたい」。
アメリカの古着は、私のルーツでもある。昔、故郷のビンテージショップで仕事をしていた際、古着の歴史と買い付けにおいて、カリフォルニアは欠かせない場所だと知り、多くを学んだ。その経験と知識が、現在のスタイリストとしての仕事にも多大に影響している。そんな私の原点であるロサンゼルスがもっと元気になるように、私も更にコミュニティーに還元していきたい。
サステナブル、ダイバーシティー、インクルーシビティー、コミュニティー。これらのワードがトレンドではなく元来、そして今はカルチャーのニュースタンダードとして存在するロサンゼルスは、やっぱり先進都市だ。私たちの理想とするライフスタイルを実現すべく、大きなムーブメントが起こりつつある、この都市の今後に注目していきたい。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界のファッションシティーはどう変化しているのだろうか?現地視察はまだ少しハードルが高いからこそ、今回はパリとニューヨーク、そしてロサンゼルスの3都市に住むジャーナリストやスタイリストに2年半のショップや購買行動、価値観の変化について寄稿してもらった。この3都市を選んだのは、春以降に出張を再開した関係者から、「変わった」との言葉を数多く聞いたから。LAの最新事情をリポートする。(この記事は「WWDJAPAN」2022年8月22日号からの抜粋です)