ファッション

“セクシーロボット”の創造主・空山基にロングインタビュー 半世紀近く筆を走らせ続けた創造の源泉

  空山基、75歳。1970年代から女性が放つ官能的な美しさとロボットのような金属的な質感を併せ持つ“セクシーロボット”を描き続け、今なお日本や世界のアートシーンの最前線で活躍するリビングレジェンドだ。同氏はアートの枠を飛び越えた活躍を見せており、近年ファッションブランドからも引く手あまた。「ディオール(DIOR)」のキム・ジョーンズ(Kim Jones)やステラ・マッカートニー(Stella McCartney)からは直々にラブコールが届き、コラボを実現させている。

 それでも同氏は、「自分のことをアーティストだと思ったことは一度もない」と語る。では、なぜ半世紀近くも筆を走ら続けてきたのか。創造の源泉を生い立ちから探り、作品に対するルールやコラボの魅力、そして表に出ることのなかった数々の秘話まで、何でも検索できる今の時代だからこそ、膝を突き合わせて語ってもらった。

「いつだって現実はどうってことないんだよ」

――どのような幼少期を過ごし、絵を描いていたのでしょうか?

空山基(以下、空山):生まれは四国の愛媛県今治市だね。当時の四国は文化が果つるところだったから、芸術系の人は一切いなくて、貧乏で産業もない閉鎖された城下町。若い頃は文化の話が誰にも通じないことが嫌で嫌で、なんとか脱出したかった。話し相手を見つけたかったけど、東京に出ても、外国に行っても、同じ空気が吸えて波長の合う人はそうそういなかったね。

小さい頃から絵を描いてはいたけど、大人っぽかったから評価されなかったし、学校には親が代わりに描いていると思われていたよ。例えば運動会がテーマだったとき、ほかの子たちは走ってる人を描くのに、私は人間の頭越しの運動場の絵を描いた。周りには不思議がられたけど、ほかの子たちが描いたのは運動会のイメージで、私は自分の目で捉えた現実を描いただけ。こうやってひねくれていたから、絵がうまくてもコンクールでは評価されなかった。そんな時、自分でも絵を描く小学校の担任の先生が初めて褒めてくれて、教室の壁に貼り出してくれたんだ。人生で初めての展示だけど、絵で食べていけると勘違いした元凶だね(笑)。

――今治で文化的情報をキャッチする手段とは?

空山:映画と印刷媒体だけ。自分で求めないといけない飢餓状態で、常に渇望していたね。でも、20歳で上京してメディアに載っていた本物たちに会ったら自分のイマジネーションの方がはるかに上で、「こんなものを針小棒大に取り扱っていたのか」とビックリした。数年ぶりに再会した初恋の人にショックを受けたり、妄想のセックスが一番楽しかったりするのと一緒。いつだって現実はどうってことないんだよ。

――なぜ上京を?

空山:学校でグラフィックデザインを学ぶため。ありとあらゆる勉強がダメだったけど、小さい頃に絵を褒められたことが何度かあったし、無試験で入学できたのが理由だね。

――当時、グラフィックデザイナーやイラストレーターといった職業は、今ほど世間に知られてはいなかったように思います。

空山:イラストレーターという言葉すらないような時代だったから、現実主義のお袋には「豚と絵描きは死んでから芽が出る」って反対されたよ。その前に別の学校にも通っていたし、「あんたにいくら使ったと思っているんだ」って学費換算の責め方もされたね。グラフィックデザインの学校は中退したかったけど、お袋が面倒くさいからちゃんと卒業した。

「自分をアーティストだと思ったことはない」

――卒業後はなにを?

空山:すでにフリーランスとして食べていけるくらい稼いではいた。でも学生結婚したときの義父が広告業界のお偉いさんで、当時は今よりも“フリーランス=プータロー”のイメージが強かったから「娘婿がフリーランスなんて恥ずかしい」ってことでADKを紹介してもらった。義父の顔を潰せないから入社して、1週間で胃潰瘍になるほど辛い日々だったけど、社会のシステムや生きていくすべは勉強できたね。それでも会社という組織には慣れず、2年後に再びフリーランスに転身したんだ。

――フリーランスでは具体的にどのような仕事をされていましたか?

空山:いろいろなところにイラストを提供していて、その一つが「月刊プレイボーイ」だね。その頃は田名網敬一さんがアートディレクターで、“困った時の空山頼み”って言葉が生まれるくらい一緒に仕事をしていた。「月刊プレイボーイ」で小さなイラストを2つ描けば、それだけでADKの月収を超える恵まれた時代だったよ。

――その後、アーティストとして活躍するようになった転機は?

空山:自分のことをアーティストだと思ったことは一度もないし、気恥ずかしくて名乗るなんて無理だよ。照れ隠しでエンターテイナーなんて言うこともあるけど、肩書きには何の意味もない。呼びたいように呼べばいいし、自分がしたいことがあったらそれになる。というか、私は自分のために好きな絵を描いているだけで、人のために描いているつもりはないんだ。生活習慣病みたいなもので、描き出したら止まらないのよ。嫌な仕事も楽しくなっちゃう、悲しい人間なのさ(笑)。

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