ファッション

10人の日本人アーティストが手掛けたアルバム・アートワーク

 こんにちは。東京とロンドンを拠点に活動するエディターやライター、スタイリスト、フォトグラファー、グラフィックデザイナーが所属するクリエイティブコレクティブ“インターネット・ボーイフレンズ(Internet BoyFriends)”です。「WWDJAPAN」でのコラム第2回目は “日本人アーティストが手掛けたアルバム・アートワーク”です。

 アートワークは、ミュージシャンの音楽性の視覚的なアピールのためにデザインすると同時に、アーティストのファンであれば憧憬の作品を手軽に得ることができるものでもあります。誰もが一度は見たことのある名作から、意外と知られていない大作、そしてUSヒップホップシーンで引く手あまたの19歳が手掛けた最新作まで、ファッションと遠いようで近いアートとミュージックシーンの関係を日本人アーティストという視点で掘りたいと思います。

村上隆

 1人目は、現代芸術家で“スーパーフラット”の発案者である村上隆。“スーパーフラット”とは、日本美術の伝統的な絵画から漫画までに共通して用いられる、平面的で二次元的な絵画空間および、美術と大衆芸術の曖昧な境界線などを示す芸術運動・概念だ。彼は同名の展示「SUPER FLAT」を2000年に渋谷パルコで、01年にアメリカ・ロサンゼルスで開催したことで話題となり、02年にはフォークデュオ ゆずの4thアルバム「ユズモア」のアートワークを手掛けることになった。これ以降、村上氏とゆずは蜜月関係を続けており、6th「1~ONE~」や初のベストアルバム「HOME」、11th「LAND」なども担当している。

 だが村上といえばやはりカニエ・ウェスト(Kanye West)ことイェ(Ye)との関係性だろう。イェは大の現代芸術&日本のアニメ好きで、「SUPER FLAT」で村上の存在を知り(故ヴァージル ・アブローの影響とも言われている)、3rd「Graduation」および、シングルカットした5曲のアートワークで協業した。同アルバムは全米・全英1位を獲得し、アメリカ国内だけで500万枚以上を売り上げる大ヒットとなったため、村上の名がミュージックシーンにも知れ渡るきっかけになった。18年にはイェとラッパーのキッド・カディ(Kid Cudi)によるコラボアルバム「Kids See Ghosts」のアートワークで再びコラボレーション。村上らしいポップな色味の日本画を披露した。またイェはファッションアイコンでもあることから、彼との協業以降は村上とファッションブランドのコラボは急増。ストリートからモードまで、ファッションにおけるシンボルの一つとなった。

 村上はほかにも、レゲトン歌手のJ.バルヴィン(J Balvin)の7thアルバム「Colores」や、AKB48の「涙サプライズ!」、“プレイステーション”用ゲームソフト「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」のサウンドトラック「Ghost In The Shell - Megatech Body」など、幅広いジャンルでアートワークを手掛けている。さらに、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の「you should see me in a crown」のミュージックビデオを製作するなど、多岐にわたって活動を続けている。

奈良美智

 日本の現代美術の第2世代を代表する奈良美智は、作品の製作時には必ずBGMをかけるほどの音楽好き。ミュージシャンにアートワークを数多く提供しているアーティストの一人だろう。ドイツ・デュッセルドルフで学生時代を過ごしていたころ、インディーロックバンドのバーディー・ナム・ナムズ(The Birdy Num Nums)が1991年にリリースした3rdアルバム「Mannaka Over The World」のアートワークを制作した。さらに1998年には少年ナイフの1stアルバム「HAPPY HOUR」のアートワークを担当した際は、日本盤とアメリカ盤の2種類を制作する力の入れようだった。

 パンクやロック好きの奈良は、バンドのアートワークを手掛けたり、使用されたりすることが多い。世界的ロックバンドのR.E.M.による楽曲「I’ll Take the Rain」や、日本のパンク・ロックバンドのザ・スター・クラブ(THE STAR CLUB)の17thアルバム「PYROMANIAC」とベストアルバム「KITTY MISSILES」、ハワード・ハミルトン(Howard Hamilton)のソロプロジェクトであるビジー・シグナルズ(The Busy Signals)の2ndアルバム「Pretend Hits」、シンガーソングライターのマシュー・スウィート(Matthew Sweet)の日本企画アルバム「キミがスキ・ライフ」、ジャズドラマーのジム・ブラック(Jim Black)の2ndアルバム「Splay」や5thアルバム「Houseplant」、日本のロックバンドのブラッドサースティ・ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)の9thアルバム「banging the drum」と10thアルバム「ギタリストを殺さないで」、日本のガールズバンド ヌードルス(noodles)のアルバム「I'm not chic」、オルタナティヴ・ロックバンド ヨ・ラ・テンゴ(Yo La Tengo)のEP「Sleepless Night」など、作品は枚挙にいとまがない。その多くを彼らしい柔らかな色とタッチで描いており、アート作品としてコレクションするのもいいだろう。

田名網敬一

 独特な色彩のサイケデリックな作風で、半世紀以上も活動するグラフィックデザイナーでありイラストレーターの田名網敬一は、古くからミュージシャンと協業していた稀有な人物だ。1967年にサイケデリック文化を象徴するロックバンドのジェファーソン・エアプレイン(Jefferson Airplane)がリリースした3rdアルバム「After Bathing at Baxter’s」(日本盤)、1967年にポップバンドのモンキーズ(The Monkees)がリリースした4th「Pisces,Aquarius, Capricorn & Jones Ltd」(日本盤)、1968年にロックバンドのザ・モップスがリリースした1st「サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン」を担当している。最も有名な作品は、ロックバンドのスーパーカー(SUPERCAR)が2004年にリリースした5th『ANSWER』だろう。

 田名網はさらに1997年にロシアのエレクトロミュージックの先駆者ソーラー・X(Solar X)がリリースしたアルバム「Xrated」の2018年の再発盤を、19年にGENERATIONS from EXILE TRIBEがリリースした5th「SHONEN CHRONICLE」を、21年に八代亜紀がリリースしたベストアルバム『八代亜紀ベストヒット』を彩っている。また同氏はここ数年「ユニクロ(UNIQLO)」「アディダス オリジナルス(ADIDAS ORIGINALS)」「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」「ステューシー(STUSSY)」とのコラボなどアートの領域を越えて活動している。

横尾忠則

 現代美術の巨匠である横尾忠則は、細野晴臣が1978年にリリースした5thアルバム「COCHIN MOON」のアートワークを制作した。アジアの異国情緒が漂う同作は、両氏が1カ月近くを共にしたインドの旅に着想しているそうで、収録曲からもインドを感じさせるシンセサウンドが盛り込まれている。またイエロー・マジック・オーケストラ(Yellow Magic Orchestra)は当初、横尾を加えた4人組の構想があったという逸話があり、細野のアーティスト写真を横尾が描いたこともある。ほかにもジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)の1975年の大阪公演を収録した「Agharta」、ラテンバンドのサンタナ(Santana)の1973年の大阪公演を収録した「Lotus」(22面という超巨大作品)、桃井かおりが1982年にリリースした9th「おもしろ遊戯」、日本のヘヴィメタルバンドのラウドネス(LOUDNESS)が1992年にリリースした10th「LOUDNESS」、立花ハジメが2002年にリリースした「The End」なども手掛けた。

長岡秀星

 故・長岡秀星が制作したのは、TikTokの影響で人気が再燃しているファンクミュージック・バンドのアース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)の8thアルバム「All 'N All」や9th「I Am」だ。同氏は1970年に渡米してから約35年間、ハリウッドを拠点にアートワークや映画広告などの分野で活躍した。ほかにも、カーペンターズ(Carpenters)が1973年にリリースした5th「Now & Then」や、ディープ・パープル(Deep Purple)が1978年にリリースしたコンピレーション「When We Rock, We Rock, and When We Roll, We Roll」など、多くの大物を顧客として抱えていた。

草間彌生

 現代芸術家の草間彌生も、実はCDのアートワークを手掛けた経験がある。その作品は、ダンスミュージック界のレジェンドであるテイ・トウワ(TOWA TEI)が2013年にリリースした7thアルバム「LUCKY」だ。草間がアートワークのために作品を描き下ろすのはこれが初めてで、同氏のアイコニックな水玉模様を引用した鮮やかな作品に仕上がっている。CDを購入しないとアートワークの全貌を見ることができない仕掛けになっていた。

空山基

 「ディオール(DIOR)」2019年プレ・フォール・メンズ・コレクションで披露した巨大な「セクシーロボット」を手掛けた空山基といえば、エアロスミス(Aerosmith)が2001年にリリースした13thアルバム「Just Push Play」のアートワークだろう。同作をはじめ、空山の作品は「セクシーロボット」がモチーフになることが多い。ヘヴィーメタルバンドのオートグラフ(AUTOGRAPH)が1985年にリリースした2nd「THAT'S THE STUFF」をはじめ、作曲家の冨田勲が2014年にリリースしたBlu-rayディスク「イーハトーヴ交響曲」、声優の上坂すみれが15年にリリースした6thシングル「Inner Urge」、大沢伸一とRHYMEによるRHYME SOが19年にリリースしたデビューシングル「Just Used Music Again」、ラッパーのタイガ(Tyga)が18年にリリースした6th「Kyoto」、R&Bシンガーのニキ(NIKI)が19年にリリースしたシングル「Indigo」、ニューヨークを拠点とする気鋭音楽レーベルの88ライジング(88RISING)が19年にリリースしたコンピレーション「HEAD IN THE CLOUDS II」などに登場している。「セクシーロボット」は特にストリートファッションとの親和性が高く、88ライジングはたびたびコラボコレクションをリリースしている。

VERDY

 「ガールズ ドント クライ(GIRLS DON'T CRY)」でおなじみのグラフィックアーティスト VERDYも数々のアートワークを手掛けている。同氏はこの記事で紹介してきたアーティストの中ではヒップホップ系に強く、ラッパーのメイドインTYO(MadeinTYO)が2018年にリリースしたデビューアルバム「Sincerely, Tokyo」、ヴィンス・ステイプルズ(Vince Staples)が18年にリリースした3rd「FM!」、韓国のアイドルグループ2PMの元メンバーでラッパーのパク・ジェボム(Jay Park)が19年にリリースした5th「The Road Less Traveled」、ジェイピー・ザ・ウェイビー(JP THE WAVY)が20年にリリースしたデビュー作「LIFE IS WAVY」などを担当。どれもVERDYらしいポップな仕上がりで、その特性からグッズにも採用されて商品化することも多い。

GUCCIMAZE

 鋭くスピード感を帯びた立体的なタイポグラフィや、どこかダークさが漂う色彩のグラフィックを得意とするのがグッチメイズ(GUCCIMAZE)だ。彼はラッパーのニッキー・ミナージュ(Nicki Minaj)が2018年にリリースした4thアルバム「Queen」のタイポグラフィを担当した。当時まだ無名だったグッチメイズにSNS経由で制作依頼が届き、フリーランスデビューを飾る仕事としてアメリカンドリームをつかみ取ったのだ。ほかにも音楽プロデューサーのフライング・ロータス(Flying Lotus)が19年にリリースした6th「Flamagra」にタイトルロゴを提供したり、ヒップホップクルーのイエンタウン(YENTOWN)のメンバーでラッパーのPETZが19年にリリースした1st「COSMOS」のディレクションを行ったりしている。

K2

 最後は新進気鋭のアーティストのK2だ。彼はiPadで描くSF風デジタルアートが特徴で、ツイッターに投稿していたファンアートをきっかけにUSラッパーから引っ張りだこの19歳だ。ここ1~2年だけでも数多くの作品を手掛けており、トリッピー・レッド(Trippie Redd)が2021年にリリースした3rdアルバム「Neon shark vs Pegasus」、イアン・ディオール(Iann Dior)が21年にリリースしたシングル「Still Here」、エヌジーワイエル(NGeeYL)とリル・ウージー・ヴァート(Lil Uzi Vert)が21年にリリースしたシングル「Off-White」、ヤング・サグ(Young Thug)が21年にリリースした2ndアルバム「PUNK」を担当している。日本のラッパーでは、空音が20年にリリースした3rd「Treasure Box」や、LEXが21年にリリースした4th「LOGIC」、百足(むかで)が21年にリリースした3rd「Episode Ⅲ」を制作している。

 これまで紹介した10人のほかにも、倉石一樹によるイアン・ブラウン(Ian Brown)の「MY WAY」、大竹伸朗によるEGO-WRAPPIN'の「On The Rocks!」、井上嗣也によるサカナクションの「多分、風。」、オートモアイ(AUTO MOAI)によるキキ ヴィヴィ リリー(kiki vivi lily)の「Tasty」など、アーティスト×ミュージシャンの協業は書ききれないほどあるので、お気に入りのアートワークを探ってみてはどうだろうか。

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