ファッション

お気に入りの民藝に囲まれる幸せ 書籍「暮らしの民藝」に見る哲学者や編集者、作家など14組の暮らし

 「WWDJAPAN(以下、WWD)」で2016年4月から約1年にわたって連載されたコラム「名作椅子をめぐる旅」の著者であるデザインジャーナリストの萩原健太郎氏による新著「暮らしの民藝 選び方・愉しみ方(以下、暮らしの民藝)」(エクスナレッジ刊)が届いた。「WWD」で連載したコラムは「ストーリーのある50の名作椅子案内」(スペースシャワーネットワーク刊)としてまとめられている。萩原氏は、日本文藝家協会会員で、インテリア企業アクタスで勤務後、デンマークへの留学を経て2007年に独立。東京と大阪を拠点に北欧や民藝に関する書籍を多数執筆している。「暮らしの民藝」では、お気に入りのものに囲まれた日本全国14組のライフスタイルを紹介。日々の営みにおけるこだわり、さりげない喜びが美しい写真と文章で綴られている。

 思想家の柳宗悦が仲間とともに生み出した美の視点である民藝という言葉は1925年に誕生。実用性、無銘性、複数性、廉価性、地方性、分業性、伝統性、他力性という8つの定義がベースにある。ただ、現代において、それ全てを網羅するには難しい。柳の長男の柳宗理は、機械で作られたモノでも素晴らしいものは民藝として認めているという。

 この書籍に登場するのは、哲学者の鞍田崇氏をはじめ、料理家の竹中紘子氏、編集者の松崎薫子氏、graf代表兼クリエイティブディレクタ―の服部滋樹・服部智香夫妻など。インテリア雑誌などに登場する一般的に“おしゃれ”と言われるインテリアとは一線を引く、住人のこだわりと美意識が反映された味わい深いものだ。それぞれの日々の生活を彩る家具、器、インテリア雑貨などがセンスよく紹介されている。これらを見ると、民藝とは日々の営みに自然に溶け込みささやかな“満足感”や“幸せ”を与えてくれるモノだと感じる。

 この書籍には、民藝にまつわる飲食店やそれらを販売する道具店も紹介されている。その中に、私の大のお気に入りの店舗「西洋民芸の店 グランピエ」を見つけた。東京・外苑前と京都・寺町にある世界中の生活雑貨を集めた店内は、何に出合うか分からないワクワク空間。コロナ禍で海外渡航が難しく、非日常を味わう機会がグッと減るなかで、都内で異国気分を味わうには最高の場所。そこで出合ったウズベキスタンのタペストリーやインドのテキスタイル、イランやトルコなどからの雑貨類は、その土地で日常的に使用されているものもあるし、一つ一つに作り手や歴史などのストーリーが宿り、私の日常に彩りや喜びを与えてくれている。東京・谷中にある暮らしの道具店「松野屋」も大好きな店舗。あらゆる素材で編まれたカゴや荒物などの生活用品がそろい、プロダクトデザイナーであるジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)もお気に入りだとか。このような店舗で触れるモノには、手仕事の温もりや自然素材の美しさを直接に感じる力強さがある。

 コロナが長引き、“おうち時間”が長くなり、自宅での生活を見直す人が増えている。日本の住宅は狭く、海外のように人を招く文化はなかったが、コロナにより変化しつつある。このような状況で改めて、日々の生活に喜びを与えてくれる民藝に注目してみてはいかがだろうか。

 完璧でなくてもいい。住人の美意識と心地よさが反映された住居ほど魅力的なものはないと思う。

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