ファッション

ローラ、サステナブル・ブランド立ち上げから1年 「達成率は80%、今度は作っている人たちの労働環境をもっともっと大切にしたい」

 ローラが自身のブランド「ステュディオ アール スリーサーティー(STUDIO R330)」を始動して1年が経過した。ポリエステルのケミカルリサイクル技術を持つ日本環境設計やサステナブル経営で知られるベトナムのデニム工場サイテックス(SAITEX)などと連携し、ローラがブランド立ち上げ当初に語っていた「毎日のライフスタイルがわくわくするようなものをクリエイティブに、環境にやさしい形で作っていきたい」という思いを実践している。

 8月に発表した新作のユニセックスコレクションは“スローライフ”をテーマに掲げ、オーガニックコットン100%のスエットや環境負荷の少ないニットを取り入れたエッセンシャルなリラックスウエアだ。余剰在庫や廃棄を減らすため、今回からは受注生産も取り入れた。「みんなの幸せが地球の幸せ」をモットーに日々学びを深め、ポジティブな発信を続けるローラに、ブランド立ち上げからの変化や今後のビジョンについて聞いた。

WWD:ブランド立ち上げから1年をどう振り返る?

ローラ:まず、ブランド立ち上げまでにはすごく時間がかかったの。色々と地球環境について調べていたんだけど、自分の目でしっかり確かめたいなと思って、インドネシア、ベトナム、バングラデシュを訪れて、現状を見たり、聞いたりしていたから。そして自分の心の問題とも向き合った。去年ついにブランドが始まった時はとてもドキドキしたけど、たくさんの人が共感してくれてうれしかった。特にリサイクルポリエステルのワークウエアやオーガニックコットンの白シャツ、デニムのアイテムを気に入ってくれる人が多かったの。ブランドを通して、今まで出会えなかった人たちともつがることができて、すごく感謝している。環境について真剣に勉強している人たちから「こういうアイテムが欲しかった」って言ってもらえたのはもっとうれしかった。ただ、地球環境の問題はあまりにも複雑で、簡単には伝わらないという難しさも感じてる。だから伝わるためにはどうしたら良いんだろうと日々考えてチームのみんなと話し合っているんだ。

WWD:新作コレクションのこだわりは?

ローラ:日本の伝統的な企業を応援したいから、デニム生地は今回もカイハラさんにお願いしたの。生産は、「世界で最もエシカルなデニムを生産する」と言われるベトナムのサイテックスさん。スエットとTシャツは、オーガニックコットン100%で、漂白剤は使いたくなかったから、ありのままのコットンの素晴らしさを伝えたいと思って生成りカラーも取り入れたの。ユニセックスのエコファーのアイテムは、リサイクルペットボトル由来。ウールはどういう風に作られているか調べてみたら、羊さんにすごく負担がかかってしまっている事が多いと知って、悲しい気持ちになっちゃったの。だから全てのニットは環境に負荷が少なくて、正しい方法で育てられているウール素材を使用したよ。

WWD:今回のコレクションから受注生産を取り入れた理由は?

ローラ:私たちはコレクションで使用するサステナブルな素材の大半を一から作っているから、原価がすごく高いの。少しだけ作ろうと思っても、それを受け入れてくれる工場がなかなかなくて、少し多めに作らないといけない葛藤がずっとあった。これからは、商品ごとに売れるもの、そうでないものがあってもいいから、商品が余ることをなるべく避けようと決めて一般販売に加えて受注生産に切り替えたの。あとは希望のサイズやカラーが完売して、要望に100%答えられない商品が結構出てしまったから、それも今回から改善したいんだ。

WWD:100%サステナブルな商品開発は難しい。迷ったときに大事にしていることは?

ローラ:100%は本当に難しいの。この1年自分の中での葛藤に苦しんだり、チームとも言い合いになったりしたことが何度もあったから。でも、諦めないで100%に近づけるように最善の努力を続けて自分を信じれば、いつか花が咲くと思うんだ。ブランドもライフスタイルも段階的にバランスを取りながら変化することが大事。今はチームで話し合いながら少しずつでもできるところから進めているの。

WWD:今回のコレクションは何%達成できた?

ローラ:80%ぐらいかな。残りの20%は、フェアトレード。環境に配慮された素材は何とか調達できたけど、今度はそれを作っている人たちの労働環境をもっともっと大切にしたいんだ。例えば、サイテックスさんの工場では、オーガニックの食事を従業員に提供していたり、安全な通勤をサポートしていたり。今回のニットとスエットをお願いした中国の工場も、労働環境をきちんと管理しているけど、フェアトレードの認証までは取れていない。認証の取得はすごく難しいんだって。でも、やっぱり認証はこれからすごく大切になるから、一緒に話し合っているところ。日本でもどんどん工場の数が減少しているから、来年のコレクションは、そこもサポートできるような取り組みを考えているの。

一人一人の健康と幸せが地球を守ることにつながる

WWD:一つ一つの問題に丁寧に向き合い、学ぶ姿勢が印象的だ。1日で勉強やリサーチに費やす時間はどれくらい?

ローラ:大体5〜6時間くらいかな。毎日、たくさん本を読んだり、情報収集したりしているよ。今日もこの取材の後、地球環境に関係するドキュメンタリーを見るの。脳が何個もあったらいいのにって思う(笑)。でも、すごく楽しいの。あとは現地に足を運ぶことも大切。故郷のバングラデシュに行ったとき、昔自分が住んでいた田舎に行ったら、よく水遊びしていた池が、プラスチックごみで誰も入れない状態になっていてすごくショックだった。村の人たちに「ローラ助けて」って言われて、すごく心に響いたの。どれだけこの問題が深刻なのかを実際に肌で感じたことは大きかった。

WWD:“サステナビリティ”はさまざまな問題が含まれているが、今特に関心のあるトピックは?

ローラ:全てだけど、やっぱり気象変動と人間の心についてはすごく関心があるかな。最近、気象変動の原因は、一人一人の意識や心にひも付いているんだなって思うの。便利な生活を求めて楽をしようとか、誰かがやってくれるから大丈夫とか、何も考えずにお買い物をすることが環境問題の悪化につながっているから。まずは一人一人の行動、そして心と体の健康が大事で、心と体が健康だと、誰かを幸せにしてあげよう、地球環境を良くしようと思える気持ちが湧いてくると思うんだ。

WWD:勉強すればするほど、問題の深刻さに落ち込むことはない?モチベーションを保つ秘訣は?

ローラ:実は最初は環境問題について勉強するうちに、「私たち人間は、地球や動物になんてひどいことしているんだ」「どうすればいいんだろう」って思ってどんどん気分が落ち込んだんだ。学んだことを(SNSに)書いたら、否定的なコメントを受け取ることもあって。でも、今はそれを乗り越えることができた。どんな意見があっても全てを受け入れて自分の直感を信じて正しいと思う方向に突き進んでいく事が一番大事だと思ったから。自分の心が幸せになると、好奇心が広がって、周りへの感謝も大きくなることに気付いたら、自分=みんな、みんな=地球、全てがつながっていることが分かったの。だから、「セルフラブ」は、実はこの地球を愛すること。例えば、農薬をなるべく使わないオーガニックの食事をすれば、土地に負担をかけずに地球も一緒に健康でいられる。自分が健康で幸せでいることが、地球の健康と幸せにつながるって思うと、もっと人々が幸せになるべきだなって。

WWD:揺るがない強さを持てたのは拠点をLAに移したことも関係している?

ローラ:本当に大きかったわ。今住んでいるエリアは、自分の体と心を大切にする人が多いの。夢に向かって好きな事を仕事にしている人も多くて、そういう人たちと話す時間も楽しいんだ。日本にいるとき、実はお散歩にもあまり行けなかったの。外に出るときは、いつも帽子とマスクで顔を隠して、まるで私は悪いことしたみたいって思ってた。でもここは自然もたくさんあって、開放的な気分で歩ける。拠点を移したからこそ、改めて日本の素晴らしさや美しさにも気付いて、今はその伝統を世界に広げたいんだ。逆に今、心が落ち込んでいる人や自分の夢を見つけられない人の心のサポートもしたくて、勉強中なの。

ファッションの次は、食やアロマ、メディア立ち上げも

WWD:服作りを手掛けるようになってファッションを楽しむ視点に変化は?

ローラ:昔は、好きだった服でも何カ月かすると、「あれ?これって、もう古いのかな」「もっとトレンドのもの着た方がいいかな」とかをよく気にしていたけど、今は自分が本当に好きなスタイルが見えてきて、エッセンシャルなアイテムで満足するようになったの。何度も同じコーディネートをするし、古着を取り入れたりもする。「スタジオR330」も、トレンドに関係なく私が考える長く着られるエッセンシャルなアイテムを作っていて、アパレルラインはもう少しで完成するの。そしたらその後は、食やアロマを通して、健康的なライフスタイルを提案できるプロダクトに広げていきたいな。

WWD:ビジネス規模はどれくらいを目指す?

ローラ:あまり大きくし過ぎず、今のチームでできる規模がちょうどいいかなって思ってる。自分の直感を信じて動いているから、ゴールはあえて決めていないの。何を作るかは、実際にサステナブルで健康的なライフスタイルを過ごしたりながら見えてきたものを少しずつ形にしたいから。

WWD:チームはどのような体制?

ローラ:メンバーは6人。チームのみんなが同じ気持ちで一緒に勉強や運動をしていて、いろんなアイデアがどんどん出てくるの。規模はスモールチームだけど、今は木の根っこのような強いチームに進化しているんじゃないかな。

WWD:グローバル進出の進捗は?

ローラ:今年の冬ごろから始めたいな。将来的にはLAか日本に店舗をオープンしたいの。まだ誰も挑戦したことのないようなお店にしたいから、今は頭に浮かんでくる絵を整理中なの。

WWD:今後の目標は?

ローラ:常に学び続けてセルフラブを忘れないこと。感謝の気持ちを持って、チームのみんなと一緒に楽しみながら進んでいくこと。実は今新たに、新しい形のメディアを立ち上げようと考えているの。人の心や環境について、学ぶことの楽しさを伝えていきたいなって思って。その発信がきっかけで、ワクワクする気持ちが出てきたり、好奇心が湧いたりして、学ぶことを楽しむ輪が広がって自分を愛する事に繋がったらうれしいな。それが自然に地球を守ることにつながると思うから。

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