ファッション

「アパレル生産はテクノロジーで大きく変わる」 大手繊維商社ヤギとシタテルのトップ対談

 ファッション分野でも、テクノロジーを軸にしたスタートアップ企業であるファッションテック企業が次々と誕生している。その最右翼である存在が、クラウド型のアパレル生産プラットフォーム「sitateru CLOUD 生産支援」を展開し、アパレル生産のDXに取り組むシタテル(SITATERU)だ。2019年6月にそのシタテルとの資本提携を発表した繊維商社のヤギは、1893年創業の老舗企業であるとともに、日本のアパレルOEMを手掛ける企業としてはトップクラスの企業でもある。ファッションテックは、日本のファッションビジネスをどう変えるのか。ヤギの八木隆夫社長とシタテルの河野秀和社長、両トップの対談から探る。

「商社も仕事のやり方を
変える可能性がある」

WWDJAPAN(以下、WWD):二人が知り合った経緯は?

八木隆夫ヤギ社長(以下、八木):現場の営業や金融関係など、いくつかのルートでシタテルさんの話を同時期に聞いて興味を持っていた。機会があればぜひ経営者である河野さんとお会いしたいと思っていたタイミングで紹介があった。

河野秀和シタテル社長(以下、河野):最初は当社の製品である「シタテル」を導入いただけないか、という話だったが、それ以上にスタートアップ企業としての当社にも関心を持っていただいて、その場で出資の検討にまで至った。そのスピード感にこちらも驚いたことを覚えている。

WWD:出資を決めた理由は?

八木:何よりも経営者としての河野さんの発想がとても新鮮で、面白く感じた。しかもクラウドを使ってアパレル業務、特に生産領域を効率化したいというシタテルさんの事業内容も、ヤギが自前でやることは難しいが、とても意義のあるもの。当時はシタテルの「sitateru CLOUD 生産支援」が完成前ではあったが、だからこそ、お互いに協力して知見を増やせる、そのために出資もする、という結論だった。

「sitateru CLOUD 生産支援」の
導入でアパレル生産の業務は
どう変わったのか?

WWD:クラウドを使ったアパレル業務の効率化には、どのようなインパクトが?

八木:当社は主力事業の一つとしてアパレルOEM(相手先のブランド生産)を長年手掛けてきたが、2019年の時点で大きな曲がり角も迎えていた。競争も激しくなっていたし、市場自体も縮小していた。同じやり方ではいずれ立ち行かなくなる。中でも大きな問題だったのが、多数の取引先との電話やFAX、メールといったツールでのコミュニケーションや、属人化した仕事のやり方だった。「sitateru CLOUD 生産支援」を使えば、統一したフォーマットが使えるし、確認などの作業も容易になるので、無用なトラブルやミスが減る。作業にかかる時間を大きく短縮できるので、経費の削減にもつながる。加えて、これは今、さらに重要度が増しているが、リモートでの業務が可能になる。商社としての仕事のやり方自体を変えられる可能性を感じた。

WWD:実際の導入のフローをもっと詳しく

八木:シタテルさんと共同で試行錯誤しながら、といった感じだ。業務フローを変えるわけだから最初は一つの部署で導入し、少しずつ広げていった。現在は複数部署で使うまでになった。

河野:ヤギさんはまさにアーリーアダプターで、実際に試行錯誤の中でプロダクトの完成度を磨き上げていった。アパレル生産と一言で言っても業務内容は非常に多岐にわたり、取引先も多い。そうした細かい仕様を一つひとつ改善を重ねた。現在、「sitateru CLOUD 生産支援」がユーザ−や調査機関から高い評価を受けるまでになったのは、ヤギさんとの取り組みによるところが大きい。

八木:先ほども話したが、当社には主力である提案型のOEM事業が今後縮小するという強い危機感があった。OEM業務を効率化しながら、リソースを新規事業の開拓に活用する必要があった。この数年、新規分野への積極的なM&Aも行っているが、逆を言えば、ここを改善しているからこそ、新規事業を積極的に拡大できている。

「グローバルなサプライチェーンの
変革に向けて」

WWD:ヤギのような大手繊維商社が変わると、日本のアパレル産業全体にも影響が波及する。変化は感じている?

河野:これはDX全般に言えることだが、成果を出す前の“産みの苦しみ”と言える時期がある。導入直後は新しいシステムに慣れていないため、一時的に以前より生産性が落ちるケースが多くある。そのため、これまで多くのユーザーに「sitateru CLOUD 生産支援」を導入いただいてきたが、導入に際して一番重要なのは、トップの強い意思が欠かせない。業界全体としては産みの苦しみの時期が終わり、今まさに普及期に入ったところ。昨年のローンチ当初からすると、今年8月時点でサプライヤーを除くユーザー数は約5倍、流通総額は17倍になるなど驚異的なスピードで成長している。

八木:その点は全く同感だ。これは私個人の所感だが、当社でもこのスピードで広がっていけば、今後数年で年間当社のアパレルOEM業務の少なくない部分が「sitateru CLOUD 生産支援」に置き換わる可能性がある。

WWD:アパレル生産DXの今後をどう見る?

八木:「sitateru CLOUD 生産支援」の最大の特徴は、工場やOEM先との煩雑なやり取りを効率化し、ユーザーとシタテルが保有する独自のサプライヤーネットワークを活用できること。つまり、シタテルさんの登場で、アパレル産業への参入障壁が大きく下がる。極端に言えば素人でも参入できるようになり、われわれのような商社にとっては競合が増えるということでもある。ただ、産業全体では非常にポジティブな影響だと考えている。われわれがこれまで扱えなかったようなインディペンデントなブランドや、あるいは個人のクリエイターが製品を作って売れるようになって産業全体が活性化するからだ。われわれ商社も、そうした新しいビジネスへの対応を積極的に行っていく。

河野:今後は、グローバル展開がカギになる。すでに「sitateru CLOUD 生産支援」は多言語対応もしているが、ユーザーを海外に広げることで、多層的にグローバルなサプライチェーンの変革に取り組みたい。その点でもヤギさんとの協業が生きてくる。

「sitateru CLOUD 生産支援」が
変えるアパレル生産業務

 「sitateru CLOUD 生産支援」は、アパレル業務のDXを支援するクラウドサービス。主に衣服の生産業務を支援する機能を提供しており、衣服生産のワークフローにおける情報管理と工場とのコミュニケーションをデジタル化することで、 業務の効率化やコストの削減、新しい工場の開拓を可能にする。主なメリットは以下の通り。

1.業務の管理&見える化:シンプルな入力でアイテムの関連情報や生産情報、スケジュールをクラウド上で一元管理。簡単な入力でいつでもどこでも確認・共有ができる

2.取引の効率化:アイテムの情報をクラウド上で各取引先と簡単共有。その都度発生する確認や連絡の工数を削減し、スムーズなもの作りを推進

3.サプライチェーンの最適化:「シタテル」プラットフォームの豊富なサプライヤーネットワークに直接アクセスが可能。コストに合わせた背景工場の不足を解消する

4.トラブル発生率を削減:工場や取引先、社内でのコミュニケーショントラブルを削減。半年間で40%のトラブルを削減した実績も

5.いつどこでも確認・連絡可能:リモートワーク・スマホ・タブレットにも対応。いつ・どこからでもアクセスして状況確認、関係者・工場とコミュニケーションを取ることができる

6.初期費用0円で簡単導入:導入費用はゼロ。リスクとコストを抑え、業務のデジタル化をスモールスタート

TEXT:YOHEI YOSHIDA

問い合わせ先
シタテルマーケティング部
marketing@sitateru.com