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リップモンスターのヒットに見るメイク意識の変化 女性の視点は“マスク後の未来”へ

 緊急事態宣言の発出地域が拡大し、都市圏では自粛生活が1年半以上続く2021年秋。ワクチンの接種が粛々と進む中で、人々の美容意識はどのように変化したのだろうか?次なるトレンドの可能性を、アイスタイルの原田彩子リサーチプランナーに聞く第1弾。今回はメイクシーンについて検証したい。

コロナ禍2年目、人々の意識は着実に「内向き」から「外向き」へ

 「2020年と現在を比較すると、実は生活様式そのものはそれほど変わっていません。自由に外出することが叶わず、直接人と会えない状態が続きますが、人々の“意識がどこに向いているか”には、明らかな変化が見られます」と語るのは、アットコスメのデータ分析を手がけるアイスタイルの原田彩子リサーチプランナーだ。「20年は、初の緊急事態宣言発出や未知のウィルスに対する不安もあり、心理的にも“内向き”の傾向が高まりました。外出の機会が急激に減り、家の中で行うスキンケアにかける時間や費用が増加。“お家美容”というワードが浸透しました」。

 一方で、メイクアップにかける費用は著しく減少することに。20年5月時点では、53.0%と過半数を越える人が「メイクアップにかける費用が減った」と回答。同年10月時点でも53.7%と、やはり過半数を超える人が「費用が減った」と回答している。

 外出の減少やマスク着用という、コロナ禍特有の事情は変わらないが、21年上半期に入ると変化の兆しが現れる。21年5月の同調査において「メイクアップにかける金額が減った」と回答した人は、前年10月より14.7%減少しており、回復傾向であることが見てとれる。「実際はまだ自由に外出できないものの『外に出て人と会うこと』『いつかマスクを外す日』を視野に入れたマインドの変化といえます。その象徴ともいえるのが、5月1日に発売された『ケイト(KATE)』の“リップモンスター”の大ヒットでしょう」。

今の気分を巧みにとらえた「リップモンスター」の大ヒット

 マスク着用が習慣になってから、リップメイクをする人が減ったのは周知の通り。コスメ好きな人が集まるアットコスメにおいてすら、注目を集めるのは穏やかな発色の(マスクに付きにくい)ティントリップが多かった。「“リップモンスター”は、コロナ禍以降の流れとは明らかに違う形で注目された製品でした。『もっと積極的にメイクを楽しみたい』という人たちから、火がついた印象です」。“リップモンスター”には、発売当初から8月10日までの約3カ月で、1712件もの口コミが寄せられている。「今までリップはお休みしていたけど、久しぶりに塗りたくなった」など、メイクに対するポジティブな発言もあり、同日発売の他の製品の口コミ平均件数が36件であることからも、いかにこの製品への関心が高いかが伺える。

 「人気の理由は、色展開の巧みさにもありました。鮮やかな発色のカラーが充実する中、特に04のパンプキンワインは、ブラウンでもオレンジでもない絶妙なカラーで、メイク好きな人たちから注目を集めています。一方、03の陽炎はほとんど発色しないニュアンスカラー。マスクの下にも付けやすく、今すぐ使える点が支持されました」。

 さまざまな女性の「今の気分」をジャストに捉えた“リップモンスター”は、発売以降セルフメイク口紅市場において、シェア50%を越えるヒットを記録(インテージSRI 2021年5月10日~17日調べ)。発売以降の累計出荷数は、8月末時点で100万本に迫る勢いという。リップメイク熱の復活を予感させる出来事だが、果たして今後メイクアップシーンにおいて、どのようなことが注目されるのだろうか?

ベースメイクは、依然「ナチュラル傾向」が続く

 マスク着用はしばらく続く気配だが、社会活動が活発化して「外に出て人と会う」さらにその先にある「いつかマスクを外す日」を意識する段階になったら……?最も気になるのは「ベースメイク」であると思う。

 「マスク着用が定着して以降、薄づきのトーンアップ下地やトーンアップ UVが広く浸透しました。若年層においては、引き続きこれらが支持されると思います」と、原田リサーチプランナー。その理由は、「周囲から浮きたくない」から。特に20代は、会社などそれほど親しくない人間関係において、目立ちたくないという意識が強く働くという。「いつかマスクを外す日が来たとして、突然ベースメイクを“盛る”ようなことはせず、ナチュラルな肌作りが続くと予想しています」。

 その一方で、40代のいち働く社会人としては「素の顔で他者とコミュニケーションするなら、大人の女性はもう少しカバー力が欲しいのでは?」と思ったりもする。年単位で肌がすっぽり覆われていた状態から、素の顔で人と向き合うわけで、トーンアップ下地だけでは心許ない気がするからだ。

 そういう意味で、資生堂「マキアージュ(MAQUILLAGE)」の“ドラマティックカバージェリーBB”は、実にバランス感が絶妙な1品だと思う。マスクに付くにくい薄付きの設計と、ツヤのある仕上がりはそのままに、適度なカバー効果が進化。リップモンスターと同じく「今すぐ使える」ニーズと、自然な仕上がりを両立している。

 大人の女性には、高機能ファンデーションとして「ポーラ(POLA)」の“B.A ハイドレイティング カラークリーム”にも注目して欲しい。空気中の水分を取り込んで肌の上に潤いのベールを形成し、さらに紫外線を自然なツヤ感に変換するというスマートな設計。ファンデーションとは思えないほど、軽やかでツヤのある仕上がりは、対人コミュニケーションの頼もしい味方になってくれるはずだ。

メイクアップは「小顔」&「ヘルシー感」がキーワード

 メイクアップに関しては、前回「人中短縮メイク」のコラムで記した通り「小顔ニーズ」が高まると原田リサーチプランナーは予想している。「マスク着用が長期化する中で、改めて、自分の顔全体を目にした時に『私の顔ってこんなに大きかった?』『たるんでいた?』というマスクギャップを感じる人が増えるからです」。

 チークやハイライトなど、顔立ちの立体感を際立てるアイテムへのニーズは高まるはず。さらに「新型コロナウィルスの流行を経て、世界的に“健康であること”の意識が高まっています。今後ますますヘルスケアとビューティの境目が曖昧になっていくでしょう。チークで演出する血色感、ハイライトで演出するツヤ感も、これまで以上に重視されるのではないでしょうか」。

 個人的に注目しているのは、「シャネル(CHANEL)」の“レ ベージュ オー ドゥ ブラッシュ”だ。80%がウォーターベースのジェルにマイクロバブルが浮かぶチークで、肌にみずみずしく広がり、ポッと上気したような血色感を叶えてくれる。フィット感に優れ、マスクをしても崩れにくいのも魅力だ。

 9月17日に登場する「ディオール(DIOR)」の “ディオールスキン フォーエヴァー クチュール ルミナイザー”は、95%自然由来のピグメントを配合したフェイスカラー。パウダーでありながらしっとり肌になじみ、偏光パールの働きでフレッシュなツヤ感を再現してくれる。双方ともに、パッケージも美しく、メイクに対する高揚感を抱ける点も見逃せない。

 トレンドは常に世の中の動きとリンクしている。これまでも、景気が良い時には太眉や赤のリップが流行し、大きな社会変化の後には、ナチュラルメイクが流行する傾向にあった。

 「コロナ禍後の経済状況にもよりますが、ファッションシーンにおいて、目下リラックス感のあるスタイルが流行していることを考えると、メイクもしばらくはナチュラル傾向が続くのではないでしょうか。そんな中でも『自分だけが分かる微妙な色合い』『自分だけにハマる微妙な質感』など、今後はディテールへのこだわりが、より細分化していくように思います」。

 “リップモンスター”の04パンプキンワインのように、「他にはない絶妙な発色」をいかに表現するか。はたまた、前回の「人中短縮メイク」のように、ニッチなニーズにいかに応えていくかが、今後メイクアイテムのヒットを左右するカギとなりそうだ。

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