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「マスクギャップ」の解消にニッチな“人中短縮メイク”はトレンドとなるか?

 マスク着用習慣がすでに1年半以上に及び、人によっては「マスクをつけた顔のほうが、なじみがある(素の顔をよく知らない)」という相手が存在するのではないだろうか。長期に渡るマスク生活が生んだ「印象のギャップ」とは?そして、だからこそ今後注目すべきメイクトレンドとは?アイスタイルの西原羽衣子リサーチプランナーに聞いた。

「マスクギャップ」というコロナ禍特有の顔印象問題

 コロナ禍以降に知り合い、この1年何度も直接会っている仕事相手が、たまたまマスクを外した際「あれっ、思っていた顔の印象と違う!?」と、驚いたことがある。多かれ少なかれ、同じような経験を持つ方は、一定数いるのではないか。

 「マスクギャップとは“マスクをつけた時と、外した時の顔立ちの印象ギャップ”を指します。もう少し狭義では“マスクを外した時に発生する、上下の顔の印象ギャップ”を意味することもあります」と語るのは、アットコスメのデータ分析を手がける、アイスタイルの西原羽衣子リサーチプランナーだ。

 「顔立ち」はコミュニケーションにおいて、印象を左右する重要な存在である。当たり前の話しだが、顔の印象は上半分(目元)と下半分(口元)のバランスで成り立っており、下半分が隠れていると、脳内で印象の補正が行われて、実際の顔印象とはギャップが生じるように思う。このような「他者の視点から見たマスクギャップ」の一方で、マスク着用で自身の顔を見る機会も減少したことにより、「自分自身の顔印象に対するマスクギャップ」も生じているという。

 「そもそもマスクで覆われているうえに、現在はマスクにも“顔を引き締めて見せる小顔マスク”が存在するほどです。改めて自身の素顔と向き合った際に『私の顔ってこんなに大きかった?』『こんなにたるんでいた?』という思いを抱く人は増えるのではないかと思います。今後生活者の間では“小顔に見せたい”というニーズが高まると予想しています」(西原リサーチプランナー)

小顔ニーズに応える効果的な手法「人中短縮メイク」

 小顔をかなえるメイクとしては、チークやコントゥアリングメイクが思い浮かぶ。しかし西原リサーチプランナーは、もう一歩踏み込んだ予測をする。「マスク着用時のメイクは、目元を強調する傾向にありました。今後マスクを外す際は“目元と口元、顔の上下のバランスをどう取っていくか”も、1つのテーマになります。そういう意味も含め、我々が次のトレンドとなり得るのでは?と注目しているのが“人中短縮メイク”なのです」

 「人中」とは、鼻の下から上唇までのエリアを指す。この部分の距離が長いと、顔が間延びして見えるが、短いとすっきり小顔に見える効果がある。「人中短縮メイク」は、アイシャドウを鼻の下にぼかし、リップライン及びハイライトで唇山の立体感を高めることで、鼻と唇の距離を短く見せるメイク法のことだ。

 「現時点では、まだ口コミ数に表れるような大きな流行ではなく、次のトレンドを予感させる“小さな兆し”に過ぎません。このワードに注目したタイミングは、2021年4月頃です。緊急事態宣言やGotoキャンペーンのタイミングと、ワードの出現率を照らし合わせると、相関性がありそうなことに気づきました」(西原リサーチプランナー)。

 外出のタイミングが増える(もしくは増えそうな)状況に応じて、「人中短縮メイク」というワードの出現も増加傾向にあるという。つまり人々が「外出して人と会う」そしてその先にある「マスクを外した自分の顔」を意識した際に、出現が増えるわけだ。

専用アイテムまで登場!? コロナ禍で人中短縮メイクが注目される理由

 そもそも人中短縮メイク自体は今に始まったことではなく、ヘアメイクアーティストが行うテクニックの1つだった。17年にタレントの指原莉乃がメディアの取材で言及したことから、一般的に知られるようになり、その後SNSを通じて認知度を拡大するが「大ブーム」には至らなかったように思う。「なのになんで今更?」と調べてみたところ、確かにコロナ禍以降人中短縮メイクに関する情報が目立ち、21年に至っては、なんと専用アイテムまで登場してしまった。その背景をメーカーに取材してみた。

資生堂が人中短縮メイクのテクニックを提案

 大手メーカーでいち早く、20年の11月に自社サイト「ワタシプラス」の美容情報で、人中短縮メイクのテクニックを提案したのが資生堂だ。「この記事のテーマは、顔の印象を左右するのが“実は鼻と口の距離感”であり、距離を短縮することで顔立ちをスッキリと見せるということです」(小出茉那・資生堂グローバル広報部 広報担当)。

 手持ちのフェイスカラーやハイライト、リップライナーをどのように使うか、具体的なテクニックが紹介されており、メイク前とメイク後の印象変化も分かりやすい。「もともと18年に掲載した記事ですが、アクセス数が多かったこともあり、20年の11月に再度掲載しました。コロナ禍の再掲は偶然ではありますが、“マスクを外した際の顔の印象”に対して、関心が高まっていた時期かもしれません」(小出広報担当)

コージー本舗から3in1の専用アイテムが発売

 21年3月には、コージー本舗の「カバーファクトリー(COVERFACTORY)」から、専用アイテムの“人中短縮スティック”が登場。これまで人中短縮メイクには、ハイライト、リップライナーが必要だったが、複数のアイテムを1品に集約したユニークな製品である。

 「コロナ禍以降“マスクの下の顔が、たるんでいる感じがする”というお客様のお声が目立つようになりました。それ以前から、顔立ちを引き締めるメイクとして人中短縮のテクニックに注目していましたが、複数のアイテムを揃えなくても、手軽に挑戦して頂きたいという思いで開発した製品です。メイク後の効果が分かりやすく、SNS映えすることが若年層に評価されており、大人の方にはたるみの気になる口元を引き締めるアンチエイジングメイクとして、ご支持いただいています」(玉置未来コージー本舗広報担当)。

常盤薬品工業の新ブランドからも人中短縮用アイテムが登場

 さらに常盤薬品工業も新メイクアップブランド「プロフェイカー(PROFAKER)」からも、人中短縮にフォーカスした“リップバランスチェンジ”を8月24日に発売した。

 「『プロフェイカー』のターゲット層は20代前半、YouTubeなどのメイク動画により、人中短縮メイクの認知度が高い世代です。簡単な2ステップでメイクが完了し、メイクアップ効果が分かりやすい点が、SNSで支持されるのではないかと予想しています。またコロナ禍以降、オンライン会議等で、自分の顔を客観視する機会が増えており、モニター上で間延びして見える鼻と口の間を、メイクで短く見せるアイテムとしてもご注目頂けたらと思います」(佐治千裕・常盤薬品工業商品開発担当)。

ニッチな「人中短縮メイク」は、果たしてトレンドとなるか?

 正直いって最初に「人中短縮メイク」の話しを聞いた時、「さすがに次のトレンドというには、あまりにニッチでは……」と思ってしまった。がしかし、近年の社会状況を鑑み、メーカーの開発意図を取材してみると、確かに「今の時代に合っているのかもしれない」と納得する。何より「鼻の下」にするメイクだから、マスクにつきにくく、今すぐ取り入れられる点もメリットといえるだろう。

 「人中短縮メイクが注目された理由の1つは動画コンテンツです。アットコスメ内の直近の口コミでも、メイク動画への言及が目立ちました。“人中短縮”という言葉は知っていても、実はどの部位に何を使うか分からない人が多い中、具体的なメイク法や仕上がりが分かる動画の影響力は大きい。家にいる時間が増え、動画を見ながら“このテクニックを試してみよう”と思う状況であったことも、関心を高めたと考えています」(西原リサーチプランナー)

 動画やSNSを通してじわじわと認知され、ついには専用アイテムまで登場してしまった人中短縮メイク。果たして次のトレンドとなるだろうか?

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