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「マツキヨ」音商標問題、知財高裁が特許庁の審決取り消し 氏名を含むブランド名の商標登録に新たな動き

 マツモトキヨシホールディングス(以下、マツモトキヨシHD)が2017年1月に出願した「マツモトキヨシ」という歌詞を含む音商標の登録が認められなかった件について、知財高裁は8月30日、これを認めなかった特許庁の審決を取り消した。

 マツモトキヨシHDは、テレビCMや店内BGMなどで使用しているメロディーと「マツモトキヨシ」という言葉を含む音商標を17年1月に出願したが、18年3月に特許庁が拒絶。同社はこれを不服として審判を申し立てたが20年9月に請求が退けられた。これを受けて同社はこの審決の取り消しを求める訴訟を知財高裁に提起していた。

 特許庁が一貫して「マツモトキヨシ」音商標の登録を認めなかった背景には、自分の氏名であっても他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得ないと商標登録できないという商標法の規定が大きく関係している。この規定は昔から存在していたものの、18年ごろまでは氏名を含んでいても登録が認められるケースも多かった。しかし19年ごろを境にこの規定が厳格に適用されるようになり、登録を認めないケースが増加。「マツモトキヨシ」音商標もこの厳格化の流れを受けて登録が認められず、結果、知財高裁に持ち込まれた。

 マツモトキヨシHDは、本件音商標がテレビCMや店内BGMとして使われていたことで広く知られており、「マツモトキヨシ」という音からは、一般的に「ドラッグストアやその運営会社の『マツモトキヨシ』を思い浮かべる」と主張。これに対して特許庁は、音商標であっても「マツモトキヨシ」という氏名を使用する場合は、前述の規定を厳格に当てはめるべきだと主張した。

 これを踏まえて知財高裁は、音商標を聞いた人が、そこから人の氏名を連想しない場合は「『他人の氏名』を含む商標にあたるものと認めることはできない」としたうえで、本件音商標は「『マツモトキヨシ』の広告宣伝(CMソングのフレーズ)として広く知られていた」と認定。「通常、容易に連想、想起するのはドラッグストアの店名としての『マツモトキヨシ』(中略)であって、普通は、『マツモトキヨシ』と読まれる(中略)人の氏名を連想、想起するものと認められない」として、本件音商標は「他人の氏名」を含む商標に該当しないと判断した。

 今回の判決で注目すべき点は、規定を適用すべきか否かの判断基準に「著名性」が挙げられた点だ。厳格に規定が適用されていた期間は、著名性を一切考慮せずに氏名が含まれているかどうか、またその使用について他人の承諾を得ているかどうかという点で審査され、拒絶されてきた。しかし知財高裁は今回、形式的には氏名が含まれていても、本件音商標を耳にした人が人名ではなくドラッグストア「マツモトキヨシ」を連想するのであれば、この規定は当てはまらないと認め、出願人側の著名性を考慮して判断するという新たな考え方を示した。

 「本判決は、『音商標に接した者が、普通は、音商標を構成する音から人の氏名を連想、想起するものと認められないとき』には、当該音と同じ読み方の氏名を有する他人が存在していても、『他人の氏名』を含む商標にはあたらないなどとして著名な音商標の登録を認めた。この判決に従えば、 今回のような“音商標+著名”という事案では、今後登録が認められることになるが、過去に音商標の事案ではなかったものの、理屈のうえでは本判決と異なる立場をとったといえる判決もあり、予断を許さない」と山本真祐子弁護士は解説する。「他方、音商標ではなく、氏名をブランド名として(文字やロゴで)商標登録する場合は今回のケースに当てはまらないので、登録可能性に関する裁判所の判断や、立法的解決も含め、引き続き今後の動向に注目していく必要があるだろう」。

 今回、知財高裁が審決を取り消したことで、本件は特許庁に差し戻され、再度登録の可否が審査される。特許庁は同じ理由で拒絶することはできないため、今後の同庁の判断に注目が集まる。

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