米国やアジア圏を中心に日本でも着実に拡大しているゲーム市場は、プレーヤー人口の増加により、新たなユースカルチャーとして大小さまざまなコミュニティーを生み出しつつある。中でも東京発の招待制ゲームルーム「ボルトルーム(VAULTROOM)」はツイッターを中心に話題で、コミュニティーには芸能人や有名ストリーマー(ゲーム配信者)、プロゲーマーが名を連ねる。現在は100人以上が出入りしており、フォロワーは2020年の始動からわずか1年で3万を超え、東京・渋谷に2拠点、福岡に1拠点を構える日本最大級のゲームコミュニティーに拡大。オーナーとして運営するのはアパレル製造業の土井郁輝ら4人で、コンクリート張りの空間を照らすネオン管のライトや壁面のアート、オブジェなどは、一般的なゲームルームのイメージを覆すスタイリッシュな“秘密基地”だ。さらにオリジナルのキャラクターやグラフィックをあしらったグッズも製作し、夏頃の一般販売に向けてEC開設の準備を進めている。ファッション関係者からも注目を集め、それらのグッズはセレクトショップのグレイト(GR8)での販売も決まっている。オンラインで誰とでも簡単につながれる時代に、土井オーナーらはなぜリアルの場にこだわるのだろうか。
「ボルトルーム」を立ち上げたのは、「趣味の延長線上です」と土井オーナーは笑う。「10年前は、プレイステーション・ポータブル(PSP)の『モンスターハンター(MONSTER HUNTER)』に没頭していました。友人と一緒にプレーするのが楽しくて、横並びでオンラインゲームができる場所を作りたかったんです」。部屋の独特なインテリアにもこだわりがある。「日本には海外のようにカッコいい背景で配信しているストリーマーがいなかった。だから渋谷の部屋は現代アートが映るようなレイアウトにして、配信環境も整えました」。
転機は、アメリカのエレクトロニック・アーツの有名ゲーム「エーペックスレジェンズ(APEX LEGENDS)」のコミュニティー内の大会を開催する権利を得たこと。しかし大規模なものにはせず、あくまでコミュニティー内での対戦にこだわり、土井オーナーがチーム戦のメンバーを選んでいる。影響力の強いゲーマーが多数参加することで、徐々にゲーム好きから話題を集め、認知度は飛躍的に拡大していった。
裏原全盛期のアナログなコミュニティー
普段は有名ブランドのアパレルを製造する土井オーナーの知見を生かした、オリジナルグッズも注目を集めている。しかしここでも「ビジネスとしてではなく、趣味の延長」を貫き、プレゼントしたい人に配布するのみ。「どうやって有名になるかを考えた結果、コスト度外視で自分がかっこいいと思えるグッズを作り始めたんです。それをインフルエンサーや『ボルトルーム』に参加してくれた人にプレゼントし、その人たちが拡散してくれたことで問い合わせが急増しました。でもグッズ販売で収益を得たいわけではなく、彼らがリアルで着てくれることに価値がありました。複数のアパレル企業から協業のオファーが届きましたが、販売はしなかったんです」。土井オーナーは裏原全盛期のアナログなコミュニティーに影響を受けた世代のため、プロダクトの製作や直接的なコミュニケーションもブランディングの一環として続けていた。しかしSNSでフーディーのプレゼントを告知したところ、応募数は1万超え。「いつかビジネスになるかもぐらいの気持ちでしたが、夏頃に向けてEC開設の準備を進めています」。
ゲームはカルチャーとして今後さらに浸透していくのか。土井オーナーは世間のゲームの印象はコロナ禍で一変し、より拡大していくと予想する。「もうゲームに対してネガティブなイメージはないんじゃないですか。『フォートナイト』がきっかけで、小学生がトラヴィス・スコット(Travis Scott)を知っている時代です。僕もこの1年はゲームのおかげで人生で一番友達が増えたし、もう“ゲーマー=友達がいない”という時代じゃない。地方に住んでいても、世界中の人とつながれます。その中で、アパレルやイベントなどで『ボルトルーム』の価値をどこまで高められるか、挑戦ですね」。