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ミルボンが取り組むサロン業界のDX 美容室の課題解決をサポートする【ネクストリーダー2021】

 美容室向けヘア化粧品メーカーのミルボンは2020年6月にBtoBtoC型のECプラットフォーム「milbon:iD」を開設した。「オージュア」や「ヴィラロドラ」など4ブランドを扱う美容室が出店し、消費者は利用している美容室の専用コードを入力してヘアケア商品を購入することができ、美容室の負担になるサイト運営・受注・物流作業は同社が担うというもの。美容室専売品のEC販売がご法度とされてきたヘアサロン業界で、最大手である同社が着手したことは大きな話題になった。美容室専売品を購入しやすい環境を整えることで、サロンも消費者もハッピーな関係を築く同プロジェクトのかじを取ったのが「WWD NEXT LEADERS 2021」に選出された坂下秀憲部長だ。

WWD:美容室専売品のEC販売に着手したきっかけは。

坂下秀憲ミルボン経営戦略部部長(以下、坂下):発端は2003年までさかのぼる。現社長である佐藤(龍二)が店販(美容室でヘアケア商品などを利用客に販売すること)の継続購入に課題を感じ、当社から消費者にヘアケア商品を発送する“ホームデリバリーサービス”を検討したことだ。当時はECもなく、システム投資をしたものの採算が合わず実現することができなかったが、店販の継続購入という課題意識は社内で脈々と受け継がれていた。

WWD:店販の継続購入における課題とはどんなことがあげられるか。

坂下:美容室でヘアケア商品を購入した人が、1年後も継続購入しているのは約40%というデータがある。裏を返せば約60%の人が離脱しているということで、離脱要因の約30%は「シャンプーがなくなったタイミングが美容室に行くタイミングではなかったから」という理由だった。一方で当社独自のサロン経営指数調査を15年前まで振り返ったところ、店販購入比率は常に15%前後で停滞していることが分かった。つまり新規購入客は毎年いるが、約60%が離脱しているということ。これでは穴の開いたバケツにずっと水を注いでいるようなものだと、課題意識が加速した。

WWD:実際にプロジェクトを進める中で困難だったことは。

坂下:ECビジネスを進める上で、佐藤から「美容室の売り上げになること」を条件として出された。われわれがECを立ち上げて後から利益を還元するのではなく、美容室の経営に寄り添い生産性を上げるためには、美容室の売り上げになることが重要だった。この仕組みづくりにとても苦労した。また、それまで“対面カウンセリング販売”と“EC販売”はトレードオフでありご法度とされていた。そこで“美容室専売品”とはそもそも何かというところに立ち返った。対面カウンセリング販売の目的は、消費者が適切な商品の選択をできるように情報を提供することであるから、紹介の仕方さえ対面カウンセリング販売であれば、購入方法はネットでも良いのではないかと考えた。販売方法と購入方法を分けて考えることで、美容室専売品かつネットで購入という世界が作れた。当社がネットビジネスを始めることへのざわつきは感じたが、「なんだか大義が通っているぞ」とこのビジネスモデルに反対する人はいなかった。

美容室をとりまくメーカーや代理店が
サポートして課題解決へと導く

WWD:ヘアサロン業界には慣習が多く、なかなかDXが進みにくいともいわれている。

坂下:美容師はリアルなサービスで鏡に向き合うことに集中している。美容室1店1店が環境を整えるために投資するのは非常に難しいことだ。美容室の課題というよりも、周囲にいるメーカーや代理店が、美容室がデジタルを活用できるようにどこまで寄り添えるかだと考えている。

WWD:今後ヘアサロン業界の課題をどう乗り越えていくべきだと考えているか。

坂下:1.リアルサービス2.顧客担当制3.定期的な来店という3つの条件がそろっている美容室は特別なチャネルだと考えている。顧客層も老若男女幅広い。この3つの特徴を最大限に生かしたビジネスモデルであれば美容室は勝てる。髪の毛を切ることがきっかけかもしれないが、もっといろいろなことが提供できるようになるだろう。そうすると今まで課題だったことが違うアプローチによって解決されるはずだ。われわれの目標は美容室のビジネス領域を広げること。「milbon:iD」は単なるプラットフォームではなく、名前の通り“美容室と顧客をIDでつなげる”ものとして、サービスを増やし顧客体験のプラットフォームへと進化させる。

【推薦理由】
 ヘアサロン業界ではメーカーは商品をディーラーに卸し、そこから美容室が仕入れて消費者に販売するという仕組みがある。その関係性ゆえにEC化が進みづらいと言われてきたが「milbon:iD」の設立で美容室、ディーラー、メーカー全員がウィンウィンなECソリューションを実現した。今後さらに「milbon:iD」をECだけでなくサービスを追加し顧客体験のプラットフォームとして進化させていく計画で、ヘアサロン業界全体のDXを推進する存在として注目だ。

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