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“女性に寄り添う”売り場「ミチカケ」担当者が語る百貨店の未来 “モノを売るだけ”の売り場から脱却【ネクストリーダー2021】

 大丸梅田店5階に2019年11月にオープンした売り場「ミチカケ」は、“月のみちかけのように、あなたのリズムに寄り添う”ことをコンセプトに、コスメや洋服に加え、女性のデリケートな悩みや不安に向き合うための雑貨やサプリなどを集積。これまで百貨店で売られることが少なかったセクシャルトイや生理関連アイテムなどをそろえ、オープン当時から大きな話題を集めた。そんな「ミチカケ」を率いるのは、若手社員2人だ。女性に寄り添う売り場を目指し、コロナでさらなる追い討ちを受けて苦境に立つ百貨店に新しい息吹をもたらしており、今回業界をけん引する「WWD NEXT LEADERS 2021」に選ばれた。

WWD:ミチカケを立ち上げた理由は?

髙橋知世・大丸松坂屋百貨店 大丸 大阪・梅田店 営業1部 ブロックリーダー ミチカケ担当(以下、髙橋):ミチカケがある5階の売り場は、もともとトラフィックが少ないことが課題だった。「うふふガールズ」という売り場名でヤングレディーズファッションを扱っていたが、近年の婦人服の低迷の影響が大きく、新たな売り場を作る必要性を感じていた。「消費者は何を求めているのだろう?」と改めてプロジェクトチームで考えたときに、(市場が)モノであふれていることに対する疲弊感や、何を買ったらいいのか分からないという迷いに着目した。そんなネガティブな感情を解決できる売り場だったらいいね、と話していた。

澤井裕之・大丸松坂屋百貨店 大丸大阪・梅田店 営業推進部スタッフ販売促進担当(以下、澤井):2018年の夏にプロジェクトチームが発足したのだが、ちょうどときを同じくしてアダルトグッズのテンガと商談する機会があり、セルフプレジャーグッズブランド「イロハ」のポップアップをすることに。最初社内からは「アダルトグッズを百貨店で売るの?」という(戸惑いの)声を多く上がったが、社長は前向きに受け入れてくれて、いざやってみることに。そうしたらそのポップアップが2週間で400万円を売り上げ、大きな手応えを感じた。われわれのような百貨店で取り扱うことにより、これまで一般の人が手に取りにくかったセクシャルグッズをより身近にできたのかと。この成功をみて、目に見えない・口に出せない悩みや課題を解決したり、寄り添う売り場があったらいいのでは、という思いが強くなり、「ミチカケ」のコンセプトのベースが出来上がった。

最初はテナント誘致も苦労 ブランドと一緒に作り上げた売り場

WWD:売り場のコンセプトが決まった後、テナントの誘致や商談は順調に進んだのか。

澤井:全く順調ではなく、最初は本当に苦労した(笑)。そもそも「ミチカケ」のコンセプトに沿ったブランドがそこまでなかったので、商談相手を探すのも大変だった。「ムーンド」は「ミチカケ」のための業態を作ってくれたり、「デイリリー」や「イロハ」は初めて常設店舗を作ることになったり、一緒にゼロから新しい売り場を作った、という感じだった。

WWD:オープンしてから約1年強経って、どのように成長してきたか。

高橋:売り上げでいうと、前身の「うふふガールズ」は婦人服の方が単価が高く、さらに新型コロナウイルスの影響もありどうしても落ちることは想定の範囲内だった。ただ20〜30代の若い方や親子、カップルでの来店が増えたり、新たな客層を取り込むこと、さらに課題だったトラフィックを呼び戻すことには成功したと感じる。

WWD:売れ筋は?
高橋:特徴がしっかり分かりやすい物が売れる傾向にあり、オープン当初からだとメディアからの取り上げも多かった「ムーンド」や「イロハ」は人気。「ムーンド」は“初めてのサニタリーショーツ”セットが初潮を迎えた娘のために購入する女性が多くて、好評だ。また最近は膣トレーニングアイテムの問い合わせが来たり、更年期グッズを求めて来店するお客さまも増えている。

澤井:フェムテックは日本だと性・生理くらいまでしかカバーされていないが、海外だともっと広く人生全部を網羅して、さまざまなサービスやソリューションがある。今後はもっと幅広い意味で女性に寄り添える売り場にしたい。

「全てをオープンにすることが是ではない」

WWD:世の中の「生理」「性」に関する意識は変わったと感じるか?

高橋:生理に関しては、2019年は“生理元年”と言われたりして、大手企業も色々取り組んでいるし、結構オープンになってきていると感じる。一方で性はそこまでなっていないと思う。ただ、「何もかもオープンにするのが是」とは思わない。オープンにしたい人はそうすればいいし、したくない人はしなくていいと思う。「ミチカケ」はそういうあらゆる意見を含め、女性に“寄り添う”ことがコンセプト。それは今後も貫きたい。

WWD:社内の意識は変わった?

高橋:正直、今でもいろいろ言われることはある。「アダルトグッズを取り扱っている」といった意見より、「ミチカケってそもそも何を売っている売り場?」と疑問に思われることが多い。なんとなくフェムテックだったり女性のリズムに寄り添った提案だったり、そういうのは分かっていても、具体的にどういう活動や取り組みをしているのか、その認識はまだ浸透しきっていないと感じる。ただ、私自身もそうだが、「ミチカケ」のオープンでいろいろと考えさせられることが増えた。それはいい変化だったと思う。

WWD:「ミチカケ」のオープンは大きな話題となり、その後他社もフェムテック関連のイベントやポップアップを行ったり、全国規模に広まった。

高橋:大丸松坂屋百貨店以外でポップアップを出店するブランドからも、逆に相談を受けたりするようになった。「ミチカケ」はコンセプトや目的がはっきりしているため、商談時は具体的に話すことが多いが、ほかの売り場だとポップアップの内容や方針を全て任されることもあるみたいで。百貨店に初めて出店するブランドも多く、ポップアップの運営方法だったり、細かな薬事法・景表法に関するアドバイスをしている。

モノ売りだけにとらわれないことで百貨店の未来を切り開く

WWD:最近はオンラインセミナーなども積極的に行っている。

澤井:初回は予約枠を増やさなければいけないほど好評だった。今は百貨店もライブコマースに挑戦しているが、われわれの配信コンテンツはモノを売ることにはフォーカスしていない。産婦人科の先生とフェムテックベンチャーの担当者、髙橋でトークショーを行ったが、性や女性特有の悩みに対してディスカッションをしたもので、正直1円も収益にはなっていない。ただ、多くの方が視聴してくれたというのは、それだけニーズが高いということ。物売りだけに執着すると、百貨店の未来が限られてしまう。これだけリアルな売り場の存在意義が問われる中で、われわれはモノを売る以外のことでリアルの場を生かしていきたいと考えている。百貨店は「百貨を売る店」ではなく、「百貨を取り扱う場」であってもいいと思う。

WWD:今後どう業界をけん引したいか。

澤井:売り場自体はメディアにも取り上げられて注目を浴びたが、「ミチカケ」が寄り添うトピックスは、世の中一般にはまだ浸透しているわけではない。だから「ミチカケ」では、これからも性や生理、更年期などに関する悩みが特殊なことではない、ということを発信し続ける。またフェムテック周りは小さなプレイヤーが多く台頭しているが、社会的に大きな変化をもたらすには、大手企業が変わることも必要。今後は大手企業とタッグを組んだりして、社会にもっと大きなうねりを起こしたい。

髙橋:「ミチカケ」の存在自体、特別なものではない。「ミチカケ」はお客さまに寄り添うもので、日常生活の一部である。そう考えると、洋服だって女性に寄り添うもの。今は5階の一部ゾーンに限られているが、いずれは、館全体を「ミチカケ」と呼べるようにしたい。

【推薦理由】
大手百貨店がフェムテック関連市場に参入したことで、性や生理に関するトピックスのタブーやイメージを払拭することに一役を買った。実際、「ミチカケ」オープン後には他社が次々とフェムテック関係の売り場やポップアップを開催するようになり、市場や認知を広げた。また、2人は古くから百貨店に残る考えや習慣を覆し、新たな視点で百貨店ビジネスを進化させている。社内外の反発に負けず、お客さまに寄り添うことを一番に考えた結果に生まれた新たな売り場は、百貨店に新たな可能性をもたらしているだろう。

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