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日中韓からセルビアまで “越境カワイイ”を創造する「萌妹子」とは何か

 日韓台カナダなど世界のクリエイターをキュレーションするプロジェクト「萌妹子(メンメイズ)」が8月5〜11日、阪急うめだ本店3階でポップアップストアを開催した。先月には東京・ラフォーレ原宿で2度目のポップアップストアを開いたばかりで、過去にはビームス(BEAMS)やウィゴー(WEGO)、渋谷ツタヤ(SHIBUYA TSUTAYA)でもポップアップを開催した経験を持つ。

 「萌妹子」は中国語で“カワイイ女の子”を意味するスラングで、これまでの“カワイイ”をアップデートし、国境や性別、世代間も超える“越境カワイイカルチャー”を創造するプロジェクトだ。そのネオファンシーな雰囲気から、女子高生や女子大生などの若者を中心に話題を呼んでいる。現在はアパレルや雑貨を扱っているが、物を売るのはプロジェクトの一部分でしかないという。「萌妹子」が目指すプロジェクトの最終地点とはどのようなものなのか。

「若者は日本にネガティブ」逆輸入カワイイをキュレーション

 「萌妹子」はもともとカルチャー畑で育ち、長らくアイドルや可愛い女の子が好きだったという前田沙穂氏が立ち上げた。「キラキラ輝く女の子が好きで、その人を引き立たてるような、その人が考えるカワイイを表現できるようになれればいいなと思っていた。人を通じたプロジェクトの一つとして、先にアパレルや雑貨を扱うブランドをスタートさせた」という。

 このプロジェクトの中心にあるのが、日本が誇るカワイイカルチャーだ。原宿系ファッションに代表される文化で、日本から輸出されるカルチャーとしてはアニメに並ぶ大きな存在だ。アリアナ・グランデ(Ariana Grande)が猫耳をつけたり、レディ・ガガ(Lady Gaga)がカワイイカルチャーに影響を受けたと語ったりと、トップスターにも波及するものでありながら、一方で日本の若者たちは日本のカルチャーに悲観的だという。「日本の若者はK-POPや韓国ドラマ、欧米の音楽と比べて、日本のカルチャーはレベルが高くないとネガティブに捉えている。カワイイカルチャーを海外から逆輸入することで、日本の文化にもっと自信を持ってほしいという気持ちもある」と前田は語る。クリエイターはインスタグラムで探すといい、国内から韓国、台湾、カナダ、セルビアまで幅広い地域の人に呼びかけ、雑貨やイラストを集めている。またファッションやコンセプトには中国の要素が散りばめられており、日本的なカワイイカルチャーと世界のトレンドがクロスオーバーしている。

 プロジェクトがスタートしたのは2018年頃で、最初に行ったイベントがビームスジャパンでのポップアップだった。「その際はビジュアルのファンシーな雰囲気がSNSを通じて拡散され、学生など若い人が多く集まった。一方で、Night Tempoのアートワークを行っている日本の80年代レトロを取り入れたクリエイターが参加していたこともあって、40代やそれ以上の人も興味を持ってくれた」という。Night Tempoは韓国出身のアーティストで、日本の昭和歌謡をダンスミュージックにアップデートした“昭和グルーヴ”で人気を博している。若者には新鮮に映る文化だが、おじさま世代には懐かしい、そんな世代の越境も「萌妹子」が目指すところと通ずるものがある。ポップアップストアは女の子の部屋をイメージした内装が施され、ラフォーレと阪急うめだ本店では“CHILLHOP ROOM”をテーマにピンク色の空間を作り上げる。その空間の中にも国内外のクリエイターの作品にレトロな要素や中国っぽさが加わり、不思議な“ネオファンシー”の世界観を醸し出す。

令和の“カワイイ”とは何か 若者がアニメに惹かれる理由

 中国語をプロジェクト名にするなど、中国も「萌妹子」の一つの要素だ。プロジェクトがスタートした2018年は、TWICEやBTS、「スタイルナンダ(STYLENANDA)」や韓国コスメに代表される第3次韓国ブームが日本で広がった年だった。

 前田は「その頃、これまでは日本や韓国を追いかけていた中国カルチャーが一気にあか抜けした印象になった。また中国のトレンドが日本の1990年代に近く、日本の若者の中でも90年代をレトロだと憧れる層が出てきた。日本の若者にも、中国カルチャーは刺さるのではないかと考えたのも要素を取り入れたきっかけ」だという。実際、昨年から「チャイボーグ」と呼ばれる言葉が日本の若者の中で流行。赤リップにはっきりとしたアイライン、意志の強そうな「中華メイク」も新鮮だと注目を浴びたが、上の世代から見るとバブル期のメイクに見えるとの声もある。前田が語る通り、中国でも日本の90年代を取り入れたレトロブームがあり、通ずるところは多い。

 しかし日本の若者たちはなぜ、90年代に憧れを抱くのだろう。前田によると「若者たちには生まれる前の数十年のカルチャーが等しく同じに見えていて、親世代が見てきた90年代の『新世紀エヴァンゲリオン』も、2000年代の『池袋ウエストゲートパーク』も同じようにレトロ。若者にとって、SNS登場以前の作品はとても新鮮に映る」のだという。

 今の若者たちはデジタル世代であり、SNSと共に学生時代を暮らしてきたため、SNSがある故の生きづらさを抱えている。だからこそ、SNS以前に憧れを抱く。またバブル期や高度経済成長を知らず、その崩壊後に生きてきた世代でもあり、今の中国のバブルのような華やかさを物珍しく感じるようだ。またSNSをのぞくと、多くの若者がアニメをアカウントのアイコンにしている。そのアニメも「セーラームーン」「おジャ魔女どれみ」といった“SNS以前”のものが多く、「らんま1/2」「カードキャプターさくら」など中国の要素を持ったアニメも人気だ。「トレンドは20年周期というけれど、今がちょうど中国トレンドが回ってくる時期としては当てはまる」と前田は語る。だからこそ、アニメやレトロ、中国的な要素を持つ「萌妹子」は若者に刺さり、上の世代にも懐かしい存在なのだ。

音楽と人を通じてカワイイを発信 人々のサードプレイスに

 前述の通り、「萌妹子」にとって物を売るのは一つの側面でしかない。「プロジェクトは、“自分が思うカワイイになる”という世界観や価値観を共有するためのもの。たまたまオフラインのイベントからスタートしたが、今後はオンラインでもっと広げていきたい」という。

 世界観を広げる活動の一つが、パルコとPsychic VR Lab、ロフトワークの共同プロジェクト「ニュービュー(NEWVIEW)」のxRコンテンツアワード「ニュービューアワード2020」への参加だ。応募者へのインスピレーションとなるAR作品としてイラストレーターのジェニーカオリと作り上げた「東京女子絵巻-TOKYO GIRL STORY-」は、ロリータやギャル、キャバ嬢、カラス族などは80〜00年代を代表する女子の姿を表現している。

 こういったクリエイティブワークのほか、音楽も「萌妹子」の一つの要素だ。「萌妹子」のユーチューブアカウントではLo-Fiと呼ばれるジャンルの音楽を延々と流し続けるライブ配信を続けている。「こういった配信が海外で流行していて、はやっているライブ配信ではコメント欄がチャットのように使用されている」という。そういった配信は動画配信でありながら、一つの拠り所として国も性別も世代も超えたさまざまな人が会話する場となっており、「萌妹子」も今後は動画や配信を通じて世界観を発信するという。

 「私は島根に生まれて、東京と鳥取で育った。地方と都会の両極端を経験した中で、共通言語だったのはマンガや映画、音楽といったエンタメだった。このプロジェクトではカワイイという共通言語を作りたいので、ゆくゆくは音楽や人というエンタメを通じてカワイイを伝えて輸出していくようなことも考えている」。

 バブル崩壊後、日本ではいわゆるギャルが生まれた。渋谷の街に同じ思いを抱えた人が集まり、暗い時代の裏返しとも言えるほど輝く存在となった。新型コロナや不景気、SNSに渦巻く暗いニュースにさらされる今、若者たちがオンラインの中で集まり、新たなトレンドを起こすとすればそれは自然な流れに思える。「萌妹子」も若者が集まる場として、世界観や価値観を発信する存在なのだ。

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