キャリア

センスと体形でブランドを体現するプラスサイズ販売員 プニュズ吉澤綾花

 2014年にタレントの渡辺直美がウィゴーとともに立ち上げたファッションブランド「プニュズ(PUNYUS)」。彼女の個性を打ち出しつつ、目玉焼きをモチーフにした総柄プリントは、多くのアパレル関係者に衝撃を与えた。当時、国内では大きなサイズを展開するメーカーはあっても、大きな売り場や専門的に打ち出す店はなく、いわゆるプラスサイズの服は通販での購入が多かった。デザインも通勤服のようなコンサバなものやフェミニンなものが主流だった。そうした中で「プニュズ」は、おしゃれをしたいプラスサイズ体形の女性にとって大きな驚きだった。ルミネエスト店の吉澤綾花店長も「プ
ニュズ」との出合いで仕事を変え、今では太っていることをコンプレックスに思う人たちの気持ちを前に向かせようと奮闘している。

―もともとはフリーでヘアメイクの仕事をしていたそうですが、どんな働き方でした?

吉澤綾花さん(以下、吉澤): 例えば、午前中は写真館などで七五三とかの記念撮影のヘアメイクに入り、お昼ごろからはバンドのヘアメイクでライブ会場に行き、夜は出勤前のホストのヘアメイクという感じで、1日中働いていました。ただ、フリーランスなので働く時間も自分でコントロールでき、メリハリをつけて仕事をしていた感じです。ですが、あるときケガで入院をすることになり、休んでいたらやる気がうせてしまいまして(苦笑)。ヘアメイクの仕事は楽しかったんですけどね。なんだかんだで1年くらい休職していました。いつまでも休んでいるのもな…と思っていたときに、ずっとファンだった(渡辺)直美さんがプロデュースするブランドができると聞いて、すぐにオープニングスタッフに応募しました。

―その話を聞いたときに「コレだ!」と思いました?

吉澤:思いました(笑)。「プニュズ」立ち上げのときのビジュアルが本当にツボにハマりました。いろいろなジャンルのスタイル提案はありましたが、私自身がアメコミやフィフティーズが好きだったので、中でもフィフティーズっぽいスタイルとポップな目玉焼き柄のアイテムにすっかりとりこになりました。もともとロカビリーが好きで、ピンナップガール風のファッションに憧れていて、「こういうブランドならアパレルやってみたい」と思ったんです。

―ロカビリーとかフィフティーズに興味を持ったきっかけは?

吉澤:音楽からです。この曲調が好きだなと思って調べたら、それがロカビリーだった。私は何でもウィキペディアで調べるのが好きで、ロカビリーを深掘りしていったら当時のファッションやインテリアなど、時代背景も含めて全てが自分好みだったんです。

―ピンナップガールのイラストとか可愛いですよね。でも、それまでフリーで仕事をしていたのに、会社に所属することになることに抵抗はありませんでしたか?

吉澤:抵抗がないというより、想像できませんでした。大変そうな仕事という感覚もなく、人と話すことが好きだったので、お客さまと会話して楽しい買い物時間を過ごしてもらえればいいなとは思っていました。それにヘアメイク時代の経験を生かして、服だけでなく髪色や髪形、お肌の色などから、一味違うコーディネート提案をしていけるとも考えていました。

―確かに、それは接客の強みになりそうですね。

吉澤:なので、接客そのものは特に抵抗はなかったです。むしろヘアメイクの仕事よりも合っているんじゃないかと(笑)。実際にやってみると、それより毎日届く段ボールの量とその整理の方が大変でした。思った以上に体力を使う仕事なんだと、あらためて思い知らされましたね。仕事は楽しいけど、足はクタクタでした。でも、ショップに「欲しい服がない」という悩みを持ったお客さまが来られたり、「ブログを読んで、会いに来ました」と言ってくれるお客さまがいたり、「いつも参考にしています」なんて言われるとよかったなあって思います。今はプラスサイズ向けの雑誌もあって、専属モデルさんもいますが、まだまだ店にはプラスサイズのスタッフは少ないので、私が店頭で直接お客さまの悩みを聞いて、提案できる役目を担っているんだと実感しています。

―昔前はプラスサイズが買えるのは百貨店くらいで、あとは通販雑誌で買うのが主流だったと思いますが、今は?

吉澤:最近はネット通販の利用が多いようです。「プニュズ」も立ち上げの頃はネットで見ている方が多かったので、スタッフたちと「ショップに来て試着して買ってくれる人が増えるといいね」と話していました。

―吉澤さんは服を買うときどうされていたんですか?

吉澤:それまでは古着屋やヤフオク、メンズブランドなどで買っていました。ヤフオクとかで買うときは、ちゃんと着られるかサイズを何度も確かめていました。前から直美さんのSNSでいつもどんな服を着ているかチェックしていたんですが、インスタで海外のファッションサイトで服を買っていると紹介している投稿をきっかけに、私も海外から買うようになりました。

―服を買うにも一苦労ですね。

吉澤:国内のメーカーのプラスサイズの服は体形をカバーするデザインが多くて、胸から下は全てゆったりしている感じで、グッとくるデザインが少なくて……。特に体形を気にすることなく、ピンナップガールのようにウエストをキュッと締めて、胸元が開いたデザインでもいやらしさを感じないトップスで、ヘルシーでセクシーな服となると、もう国内で手に入れるのは絶望的でした。

―フィフティーズスタイルは個性的でかわいいけど、それを専門的に展開するブランドって少ない。そう考えると、直美さんのファッションセンスは体形に関係なく、憧れる人は多いですよね。

吉澤:そうなんです。だから絶対面接に受かりたくて、面接の前に開催された直美さんとチェキが撮れるとあるイベントには精一杯おしゃれして参加しました(笑)。当日はピンナップガール風のスタイルで行ったんですけど、会場には「プニュズ」の関係者もいて「あの派手な子は何だ!」とざわついたと後から聞きました。その後の面接でも「あのイベントにいた子だ!」となったそうです(笑)。面接も一般的な質問というより、「その服はどこで買ったの?」という感じで逆に質問され、不思議な感じで面白かったです。

―先ほど「試着をして買う方を増やしたい」と言っていましたが、試着されない方が多いのですか?

吉澤:体形にコンプレックスがあるからか「着られなかったらどうしよう」と思う方も多く、試着しているのを他人に見られたくないから試着をしたがらないのです。「プニュズ」は6Lサイズまで展開していて、私でも着られるサイズがあるからとにかくお店に来てみてくださいと、事あるごとに伝えています。来店される方も徐々に増えてきていますが、まだ不安をお持ちで通販で買う方もいるでしょうが、そういう不安も解消できると思うのでぜひ来店してもらいたいなと思います。

―ずいぶん試着に対してネガティブなイメージを持たれているのですね。

吉澤:なので、ショップもいろんなところに工夫をしています。フィッティングルームは大きい方でも試着しやすいように一般的なショップのより広くしていますし、常にスタッフみんなでどんな言葉を掛けたら気持ちよく試着してもらえるか話し合っています。少し極端ですが、お客さまには「買わなくてもいいから、一回着てみてくださいね」と声を掛けています。ショップに足を運んでくれたということは、少しでもブランドに興味があって、着てみたいという気持ちがあるのだと思うので、とにかく着て、どんなふうに見えるのか体験してほしいと思いながら接しています。どんな体形でも純粋にオシャレを楽しんでほしいので、脚を出したくないけどスカートにチャレンジしたいという方には「夏にタイツを履いてもいいんですよ」と伝えて、チャレンジしやすいアドバイスをしています。だってコーディネートには正解も間違いもないじゃないですか。

―そうですよね!

吉澤:最近はプラスサイズの方だけでなく、バレーボール選手や柔道選手といったアスリートの方がプライベートでお買い物に来られることも増えています。全方向的にいろんな体形の方に着ていただけるブランドとして定着しつつあるなと感じています。

―「プニュズ」で働いていてよかったことはありますか?

吉澤:「プニュズ」を通じてイメチェンされる方が本当に多くて、そこに関われるのはうれしいです。初めてのデートに着ていく服を一緒に選んだりするときなんかは、お客さまの大切な時間の一部に関わらせてもらって、こっちまでドキドキします。その後に素敵な報告をしに来てくれると、さらにうれしくなります。

―「プニュズ」が一歩前に踏み出すきっかけになっているんですね。

吉澤:そうです。そのせいか、この何年かで試着したがらない人が前より減ったようにも感じています。

―それはよかった!では、最後にこれからの目標は?

吉澤:店頭に立ってはいたいとは思うのですが、私の分身のような…、というかオンラインストアのモデルをやったり、私の思いを受け継いでくれるスタッフを育てていきたいですね。

苫米地香織:服が作れて、グラフィックデザインができて、写真が撮れるファッションビジネスライター。高校でインテリア、専門学校で服飾を学び、販売員として働き始める。その後、アパレル企画会社へ転職し、商品企画、デザイン、マーケティング、業界誌への執筆などに携わる。自他ともに認める“日本で一番アパレル販売員を取材しているライター”