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新型コロナと戦うミラノの今を現地ジャーナリストがレポート

 「ジョルジオ アルマーニ」が無観客ショーを開催したのは、2月23日。それから1カ月で、惨禍がここまで広がるとは想像だにしなかった。

 ドゥオモ広場、スカラ座、エマヌエレアーケード、マンゾーニ&モンテナポレオーネ通り。人っ子一人いないミラノは、ゴーストタウンそのもの。迷彩服の機動隊員もマスクを装着している。最近は、毎日600人以上が亡くなっている。当初は3月18日まで、それが25日まで、さらに4月3日までと、戒厳令の期限が延期されるばかりのミラノ。「あと何日」と指折り数えながら日々を暮らす市民たち。それがまた、15日までとさらに先送りされた。

 自宅から外出するときは、その理由と行き先、その他を明記した申告書を作り、携行しなければならない。公園や通りでの運動も、今は禁止。散歩も不可で、自宅の周囲のみ。2人以上の歩行も禁止だ。破った者には206ユーロ(約2万4700円)の罰金が科される。開いているのは、新聞スタンドと薬局、八百屋やスーパーマーケットのみ。日用品の買い物は可能だが、一度に10人くらいしか入店させないので、外に並ばなければならない。人と人の間は1 mの間隔を空ける必要があり、スーパーマーケットの外には長い行列ができる。

 いうまでもなく、商店も学校もデパートも休業・休校している。教会も扉を閉め、ミサはライブストリーミング。仕事もスマートワーキング、デジタルを使っての自宅勤務だ。介護の仕事に就く人など、通勤が不可欠な人のために地下鉄は走ってはいるが、 利用者は極端に少ない。

 周辺の住まいは大方が空だ。空港や列車の駅が閉まるかもしれないと察知するや、ミラノだけで即座に2万人近い人々が街をあとにして、思い思いの場所に出かけてしまったのだ。 市内のホテルは95%が空室。レストランはわずかであっても収益を得ようと、苦肉の策で宅配を始めた。アフリカ大陸からの移民の男性たちが、背中に大きなビニールの箱を背負い、自転車に乗って右往左往している。

 街に残った人々は、ときにインターネットを通じて示し合わせ、決めた時間にバルコニーに出て歌ったり、拍手をしたりしている。過酷な勤務に身を投げ打ってくれている医師や看護師たちへの感謝を表明する行動だ。しかし、その回数も減ってきた。人々の忍耐が試されている。

 4月半ばから開催するはずだった国際家具見本市は6月に延期になった。それとて「期待できるのか、否か?」という意見は少なくない。6月に開催予定だったミラノの美術の見本市は9月に延びた。6月のピッティは予定通りとのこと。ミラノのメンズ・コレクションは9月のウィメンズ・コレクションと一緒にやるか、あるいはストリーミングにするかという考えの間で揺れているらしい。

 ファッションブティックは、散々だ。それでなくとも先行きは不透明だったところ、今回のウイルスで休業を余儀なくされ、仕入れた春夏の商品は店内の倉庫に眠ったまま。支払いはしたものの、その回収方法がないという状態だ。次シーズンの商品を購入するとなれば、当然のことながら躊躇せざるを得まい。「一回、コレクションを休んだらどうか?」という声もなくはない。予定されていたシューティングは、ほとんどがキャンセルになった。

 新聞の広告は、ファッションではなく、食品企業が目立つ。数少ないファッションの広告でも、例えばアルマーニは服もバッグもなく言葉だけで、この状況を憂い、感染者や病院 関係者を見舞う長文を一ページで掲載した。

 イタリア経済の10 %以上を支えるファッション産業は、長い年月をかけて完璧なシステムとして構築した、巨大な機械のようなものだ。その機械たるファッションの実態に、突如としてブレーキがかけられたような唐突さ がある。何兆円という損害につながる今回の出来事は、目に見えない相手との戦いである。グローバリゼーションがもたらした反グローバリゼーションの現実であり、今後、とてつもなく大きな経済構造の変化が表出するだろう前兆だ。たとえウイルス禍が収まったとしても、その先には、果てしなく続くさらなる試練が待っている。


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