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女優→モデル→インフルエンサー、2020年現在「美のお手本」は誰?

 「理想の顔」「なりたい顔」と聞いて、あなたは誰を思い浮かべるだろう?1990年代まで、なりたい顔の対象は女優やアーティスト等の有名人だった。女性誌では「○○風メイク」「○○風ヘア」といった美容特集が組まれ、なかでも象徴的なのは、安室奈美恵のスタイルをお手本にした「アムラーメイク」だろう。2000年代後半~2010年代前半になると、美のお手本は有名人の中でも「より身近な存在」へとシフトする。AKB48の登場により、メンバーをモデルに起用する女性誌や化粧品会社が登場。同じ時期、雑誌の読者モデルも注目され、彼女たちの美容法や愛用コスメが話題となった。さらに10年代半ば以降になると、インスタグラムやユーチューバーで、一般の女性たちが美容情報を自由に発信し始める。フォロワー数の多いインフルエンサーが取り上げた商品がヒットしたり、10代では動画でメイクを覚える女性も増加したりした。時代とともに、美のお手本は「手の届かない憧れの存在」から「リアルな存在」へと移り変わっていった。

 さて、そんな背景を踏まえて、この20年現在。「なりたい顔」「美のお手本」として注目されるのは、いったい誰だろう? 答えは実に意外であり、一方「なるほど」と膝を打つ存在―――。答えは「美肌アプリで加工した自分自身の顔」であるという。

 このデータの元となるのは、アットコスメの口コミを分析し、女性の美容意識やトレンドを調査する、アイスタイル・アットコスメリサーチプランナーの調査結果。「2019年度のユーザー意識調査において、『アプリなどで加工された自分の顔に近づきたいか』という質問をしたところ、全世代を通して『そう思う』『ややそう思う』という肯定的な回答が40%。10代に限定すると、70%を越す結果となりました」(西原羽衣子・アイスタイル@cosme広告事業本部リサーチ担当)。

結局「他人」にはなれない

 最初にこの話しを聞いたとき、「あっ、言われてみれば、確かに」と、ストンと腑に落ちる面があった。美肌アプリで肌トーンを明るく補正し、目を少々大きく見せたとしても、あくまでそれは「自分自身」。他人を真似るのではなく、美しくなった自分の姿が、具体的にイメージできる。

 「色白は七難隠すという言葉の通り、『肌が明るいと美しく見える』のは誰もが知っていることですが、アプリで肌を修正すると、その効果を『自分ごと』として視覚化できます。もちろん、現在においても憧れの対象となる有名人は存在します。その一方で『骨格が違う』『肌質が違う』も口コミの頻出ワードであり、現代の女性たちは『結局、他人にはなれない』という現実的な感覚を持っているようです」と語る。

 現代の空気感として、誰かに憧れてその人に近づくより「自分らしさを追求する」ほうがカッコイイという風潮もあるという。少なくともこれだけたくさんのコスメが存在する中で「自分に合ったモノを選びたい」というニーズは高く、そのヒントの1つとなるのが、アプリで加工した自分自身なのだ。

メイクより先に、加工した自分の顔に触れる時代?

 10代の女性の間ではスマホで写真を撮る際、アプリのカメラを使用して加工するのが当たり前になっているという。アプリが身近な10代において「加工された自分に近づきたいと思う」と回答した人は、実に72.6%。30代以降になると、加工された自分への肯定的な意見は減少するが、「これは単純にアプリに触れる機会の差と思われます。年代が上の女性でも、日常的にアプリを操作する機会があれば、肯定的な意見が増えるのでは」と西原リサーチ担当。

 興味深いのは、今後デジタルネイティブ世代の成長とともに「化粧に関する意識」「化粧行動」が変化する可能性だ。「今は小中学校からスマホに触れていますから、今後はメイク年齢に達する前に、『アプリで修正した理想の肌』に親しむ女性が増えると予想されます。これまで美容、特にメイクアップ分野においては、まず『理想の自分』や『なりたい顔』を模索する作業が必要でした。今後は最初から『正解』が分かっていて、そこに近づくにはどうしたら良いか、という視点が生まれるのでは」。

消費者がリードする、美肌アプリ時代のヒット商品とは?

 そもそもアイスタイルが、この「アプリなどで加工された自分に近づきたいか」という調査を行ったきっかけは、2018年度のアットコスメベストコスメアワードにおいて、ランキングに予想外の展開があったからという。

 「それまで日焼け止めのカテゴリーでは、資生堂の『アネッサ(ANESSA)』とカネボウの『アリィー(ALLIE)』がほぼ毎年1位を獲得するという状態が続いていました。ところが18年上半期、ロート製薬の『スキンアクア トーンアップUVエッセンス』が彗星のごとく現れ、新作日焼け止め部門の1位に輝きます。私たちも予想外の展開で、いったい何故だろう?と調査を始めました」。

 さまざまな角度から口コミを分析したところ、まずこの製品名にもある「トーンアップ」というワードが2017年度から飛躍的に増加していることが判明。2015年度と比較すると、2019年度は約5倍にまで増加している。

 「さらに、ユーザーに直接インタビューを重ねた結果『どうやらスマホの美肌アプリと関係性しているらしい』という仮説にたどり着きました。この仮説を検証する過程で「アプリで加工した自分」に肯定的な人が一定数存在することが判明したんです」。

 トーンアップという言葉自体は昔から存在しており、以前は角質ケアやマッサージの結果、肌が明るくなることを指す、どちらかというと美容上級者向けのワードだった。しかし、アットコスメユーザーの声から判明した現在のトーンアップは「塗ってそのままダイレクトに肌が明るくなる」ニュアンスを持ち、10~20代が頻繁に使用している。

 ベストコスメに輝いた「スキンアクア トーンアップUVエッセンス」の発売は2018年。インスタグラムの流行を背景に、ロート製薬が「フィルターをかけたような美肌」を意識して開発した製品だ。「瞬時の美肌効果がSNSとも親和性が高く、製品名の『トーンアップ』も時代とハマって、人気を博したのではないか」と西原リサーチ担当は分析する。「まずは肌全体を明るくトーンアップして、気になる部分を修正していく……。このメイク法はアプリの修正ステップと感覚が近い。もしかしたら、若い女性たちはアプリで普段行っている動作を、実際に顔の上で再現しているのかもしれません」と語る。

バレないギリギリの線が重要。素肌美トレンドは続く

 もう1つ、ここ数年アットコスメで出現率が上がったワードに「素肌感」がある。16年度から徐々に出現率が上昇し、15年度よりも19年度は1.4倍に増加している。それだけ素肌美へのニーズの高まりを示唆している。

 「スキンアクア トーンアップUVエッセンス」のヒットは、「学生の間で支持されたことも関係しています。『学校メイク』に最適といいますか、周囲にバレないギリギリの線で、素肌を美しく見せる製品だった。その効果がSNSを通じて拡散し、爆発的なヒットにつながったように思います」。

 「素肌感」「ナチュラルな艶肌」は現在のトレンドでもあり、そしてメイクアップの永遠のテーマでもある。そんな理想の肌を「自分自身の顔でイメージできる」美肌アプリの存在は、ある種、画期的な美容ツールといえるのではないだろうか。しかもデジタルネイティブ世代に向けた商品開発にまで影響しているとなると、安易に見逃しにはできない。

 「何となく恥ずかしい(=加工された自分の顔が)」と、これまで美肌アプリを食わず嫌いしていたのだけれど、インストールして1度ちゃんと使ってみよう。果たして40代の私にも、新たな発見や感動があるだろうか?

宇野ナミコ:美容ライター。1972年静岡生まれ。日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、ウェブなどで美容の記事を執筆。スキンケアを中心に、メイクアップ、ヘアケア、フレグランス、美容医療まで担当分野は幅広く、美容のトレンドを発信する一方で丹念な取材をもとにしたインタビュー記事も手掛ける

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