近年、急速に業績を伸長させているアシックス。そのけん引役となっているのは、グローバルで支持を拡大するランニングシューズや、ファッション性の高い「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」だ。特にカテゴリーとして好調な「スポーツスタイル」は、2024年12月期において売上高が前期比69.9%増の984億円に達するなど、グループ全体の成長ドライバーとなっている。
この勢いに続けとばかりに、1994年の誕生から30年以上経つ「アシックス ウォーキング(ASICS WALKING)」も、海外開拓に本格的に乗り出す。この1月には、世界最大級のメンズファッション展示会「ピッティ・イマージネ・ウオモ(以下、ピッティ)」へ初出展して弾みをつけた。どこか野暮ったいイメージがあるウオーキングシューズの既成概念を打破する商品・イメージ戦略で世界に踏み出す。
アシックス商事が展開する「アシックス ウォーキング」の原点は、創業者である鬼塚喜八郎氏が抱いた「ブレザーに似合う靴を作りたい」という思いにある。国際大会などのフォーマルな場で、服装はブレザーなのに足元がスポーツシューズであることへの違和感から、ビジネスシーンに相応しい機能靴の開発が始まった。
技術面では、アシックススポーツ工学研究所(ISS)の知見を最大限に活用している。「一般的にランニングシューズを仕事履きに使う方もいるが、実は『走る』のと『歩く』のとでは運動強度が根本的に異なるため、走行機能をそのまま転用しても最適な歩行体験は得られない。走行時には体重の3倍から5倍の衝撃が着地時にかかるのに対し、歩行時は1.5倍から2倍程度に留まるため、同じ柔らかさの素材でも反発の仕方が変わってしまう」(担当者)という。「アシックス ウォーキング」では、素材こそスポーツシューズと同じものを使用しながらも、歩行時の効率を考えた最適な設計を取り入れている。
確かな知見・技術に裏打ちされた履き心地は支持に繋がり、顧客満足度は90%を超え、リピート率も高い。「スポーツスタイル」の急成長による「アシックス」ブランドの認知拡大の恩恵も受け、世間的にはビジネスシューズ需要が減少する中でも、「アシックス ウォーキング」は右肩上がりで成長を続けている。
一方で顧客の若返りや、変化するビジネススタイルへの対応が課題となっている。その解決に向けた動きが、主力ドレスシューズシリーズ「ランウォーク(RUNWALK)」第7世代の発売(2024年4月)だ。第6世代が11年もの間ロングセラーを続けたが、カジュアル化するビジネススタイルに対応する形で、第7世代では「品格」をテーマにあえてテクニカルな要素を隠した。フランス産のキップレザーや北海道産のステアハイドレザーを採用し、従来よりも洗練されたデザインに仕上げた。歩行に最適な硬さと反発性を持つ独自素材を広範囲に採用し、マラソンシューズに使用されるカーボンプレートをビジネス向けに転用するなど、ISSの最新技術も注ぎ込んだ。また、ここ1、2年でモカシンやスニーカーなどのカジュアルモデルも大幅に拡充。アウトソール全面に発泡ゲルを配して柔らかな履き心地を備えつつ、デニムやセットアップに合わせるカジュアルスタイルに対応した。
プロダクトの刷新とともに、これまで弱かったプロモーション面もここ2、3年ほどで大幅に強化した。23年3月に実施したギンザシックスでのプロモーションイベントなどが代表例で、常設売り場以外での接点を作っている。今回のピッティ出展に合わせても、外国人モデルを起用したファッショナブルなビジュアルを制作し、普段履きに合わせる活用イメージを訴求した。
「アシックス ウォーキング」は数年後には現在の事業規模(約220億円)の1.5倍を目指しているが、成長のドライバーになるのが海外事業だ。国内では200店舗以上を展開するものの、海外は未開拓。ただし、すでに国内店舗の売上高のインバウンド比率は約25%に達しており、特に銀座エリアなどの店舗ではこの水準をさらに上回る。「アシックスという看板を信頼して入店した訪日客がウオーキングシューズの存在を知り、ファン化する事例が多い」(アシックス商事の小林淳二社長)という状況は、海外進出への手応えとなっている。
海外への足掛かりとなったピッティ出展は手応えも大きく、「審美眼の鋭い欧州のバイヤーから高く評価された。これまで接点の少なかった20代や30代の層がブースを多く訪れ、興味を持っていただけた」と小林社長は話す。「アシックス ウォーキング」のような本格的な機能性を備えたビジネス・ドレスシューズは、海外市場においても稀有であるという。「海外には『ビジネスシューズにラバーを貼っただけ』のような製品はあるが、スポーツの知見に基づき、ゼロから設計されたものは珍しい。これこそがわれわれの強みだ。(海外展開で先行する)『スポーツスタイル』の知名度の恩恵を受けるだけでなく、ウオーキングシューズとしての独自のプレゼンスを高めていく」(小林社長)。