
中国のファッション&ビューティー市場は、経済減速や消費低迷の影響で大きな変化期を迎えている。ラグジュアリーブランドも例外ではなく、中国市場をはじめグローバルでも成長が鈍化し、厳しい局面に直面している。その一方で、中国発ブランドは東洋文化を取り入れたデザインと現代性を融合させ、強固なサプライチェーンや販売網を駆使しながら、海外ブランドとの協業や国際展開を加速。国内主要商業エリアへの積極出店に加え、アジアや欧米市場への進出も進め、業績と評価の双方で成果を上げている。
さらに、近年のDX(デジタル変革)の推進に伴い、KOL(キー・オピニオン・リーダー)がブランドと消費者をつなぎ、コミュニティ形成に重要なハブとしての役割を果たそうとする。「Weibo(微博)」「RED(小紅書)」「WeChat(微信)」などのプラットフォームを通じ、テキストや画像から、ショート動画へと進化するコンテンツ形式の変化により、中国のファッション&ビューティー領域でKOLの発信内容はますます多様化しつつある。
本記事では、中国で注目されるブランドと、業界を牽引するKOLの顔ぶれを紹介する。
海外展開を加速、注目の中国ブランド&企業6選
チックジョック/CHICJOC

「チックジョック(CHICJOC)」は、Eコマース戦略を活用し、高い購買力を持つ富裕層に的確にリーチする、中国発の新興ブランドの代表格の1つだ。オンラインメンバーシップは400万人を超え、中国のSNSプラットフォーム「RED(小紅書)」でも常に検索ランキングの上位を維持。2024年に開催した「タオバオ・スーパー・ファッション・ショー」では、ライブ配信がわずか6時間で6400万元(約13億4400万円)を売り上げた実績を誇る。さらにこの2年間で、北米や欧州を含む世界各地に40店舗以上をオープンし、グローバル展開を本腰に入れる。
江南布衣(ジャンナン・ブイ)
「江南布衣」は、「ジェイエヌビーワイ(JNBY)」「速写(CROQUIS)」「jnby by JNBY」などのブランドを取り扱う、ミドルからハイエンド顧客をターゲット層にしたファッショングループ。2025年上半期の売上高は前年同期比251.0%増の約123億5400万元(約2594億3400万円)。調整後純利益は前年同期比290.6%の約23億5100万元(493億7100万円)と急伸。現在、2117店舗の実店舗と、急成長中のEC事業を運営しつつ、デザイナーズブランドの影響力をさらに拡大しようとする。
成長のカギは、メンバーシップを軸にしたマルチブランド戦略だ。メンバーシップによる消費は売り上げ全体の8割以上を占めており、中でも「蓬馬(POMME)」や「JNBYHOME」といった新ブランドも急成長しており、グループを牽引している。さらに、同社が運営するセレクトショップ「B1OCK」は、「リック オーエンス(RICK OWENS)や「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」など海外ブランドを中国にいち早く導入したパイオニアとして、業界内で高い評価を獲得している。
アイシクル(ICICLE)/之禾
ICCFグループ(之禾卡纷集团)は、サステナビリティを軸に展開するフルバリューチェーン型のファッショングループ。上質な天然素材、環境に配慮したファッションを提供することを目指す。現在はパリと上海の二拠点体制で展開。
主力ブランドの「アイシクル(ICICLE)」は、中国の伝統思想「天人合一(自然と人間の調和)」をコンセプトに、天然素材の使用にこだわり、環境への責任を意識したデザインを行う。ミニマリズムを軸に、素材そのものの美しさを引き出す。働く人に向けた心地よい通勤スタイルも提案している。アイテムは、ウィメンズ、メンズ、キッズまで幅広く展開し、通勤、ビジネス、カジュアルなど多様なシーンに対応する。スカーフや、帽子、バッグ、シューズなどのアクセサリー類も豊富に取りそろえる。
ソングモント(SONGMONT)/山下有松
「山下有松(SONGMONT)」は、付崧氏と王捷氏により2013年に北京で創業したバッグブランド。ブランド名は“Song(松)+Mountain(山)”に由来し、「自然と向き合い、自分を大切にする」という理念のもと、東洋文化をデザインに落とし込む。細部まで緻密に作り込み、顧客に寄り添うプロダクトを展開する。北京とアメリカに拠点を構える「山下有松」は今年、上海、太原、南京の3都市に新店舗をオープンし、新コレクションも発表。中国国内のみならずグローバル展開も視野に入れ、9月29日〜10月7日にはパリで「遠山有声 Song of Mont」と題した展示会を開催した。
ラオプ・ゴールド(LAOPU GOLD)/老铺黄金

「老舗黄金(LAOPU GOLD)」は、2009年3月に創業した中国の伝統製法で金を製造するジュエリーブランド。富裕層をターゲットに据え、ラグジュアリーブランドと同等の消費シェアを獲得。2025年6月時点で、メンバーシップ数は約48万人に達した。価格設定は、金のグラム単価に連動する従来型ではなく、「定価+定期改定」を採用し、クラフツマンシップやブランド理念、価値の向上に注力する。オムニチャネル戦略を軸に、北京、上海、広州、深センといった中国の政治・経済の中心都市や、同様のハイエンド商業エリアを中心に、16都市・41店舗を展開している(6月30日時点)。
ジュディドール(JUDYDOLL)/橘朵

「ジュディドール(JUDYDOLL)」は、「Play with Practicality(遊び心ある実用主義)」をコンセプトに掲げ、商品に“機能を超えた楽しさと新鮮さ”を提供するビューティーブランド。アイシャドウやフェイスカラーで人気を博す一方、リップやベースメイク分野でも成長を遂げている。2024年のリテール売上が25億元(約525億円)を突破し、ブランド収益も前年比23%増の20億元(約420億円)超を記録した。オムニチャネル戦略にも力を入れており、実店舗は中国国内で80店舗以上を展開。主要商業エリア50カ所以上に、1万5000店以上の卸販売も行う。海外展開も加速しており、現在では30カ国以上で販売し、直近ではシンガポールに初の海外旗艦店をオープンした。
ファッション&ビューティー界を牽引する5人の中国人KOL
ルル(Lulu)
ルル(Lulu)はロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ卒業後、「VOGUE China」や香港発セレクトショップ「Lane Crawford」での勤務を経て、メディアおよびファッション業界で豊富な経験を積んできた。2024年には、サステナビリティに特化したライフスタイルブランド「KHLORIS(クロリス)」を立ち上げ、デザインを通じて環境に配慮したファッションとライフスタイルを発信している。現在、SNS総フォロワー数は360万人超で、中国国内でも影響力の高いKOLのひとり。複数のトップブランドとのコラボレーションを通じ、業界にインサイトを提供し続け、ファッション分野をリードする存在として注目。
ゴゴボイ(Gogoboi)
ゴゴボイ(Gogoboi)は、辛口コメントと的確なコーディネート分析で人気を集めるKOLだ。「Weibo(微博)」、「RED(小紅書)」、「Bilibili(B站)」など複数のプラットフォームでの総フォロワー数は1000万人を超え、中国のファッションKOL影響力ランキングでも上位3位にランクイン。同氏が生み出したハッシュタグ“#who wear what#”では、辛辣かつユーモアあふれる“毒舌”スタイルでセレブの着こなしを解説。ファッションをエンタメ化し、硬い評論型ではなく、わかりやすい言葉で評論する手法は、従来のイメージを一新し、多くのファンを獲得した。
ルック(RUK)/若舒刻
ルック(RUK/若舒刻は)、建設的かつ独自の解釈を加えたファッション評論で人気を集める。“視点を変えてファッションを楽しもう”を理念に掲げ、ブランドやファッションにまつわる課題を多角的に分析し、社会的影響力や価値創造の観点まで発信する。ブランドマーケティングや、ファッションショーの解説、ヒット商品の創出、ブランド力向上、事業戦略の立案など、多岐にわたるコンテンツ制作に携わる。「Weibo(微博)」、「WeChat(微信)」、「RED(小紅書)」を中心に、記事やショートムービーなど多様な形式で情報を発信。さらに「経済観察報」「封面新聞」「新周刊」といった中国の主要メディアにも、ラグジュアリー関連の記事を寄稿する。
アハロロ(Ahalolo)
アハロロ(Ahalolo)は、小紅書で53万人のフォロワーを持つ、ジュエリーデザイナーとファッションアートディレクターによる2人組KOL。専門性を活かし、ファッション評論やレッドカーペットの解析、ファッションショーの深掘り分析、セレブスタイルの解読まで幅広く手がける。独自の評価システム「惹(高評価)/切(低評価)」でアイデンティティを確立する。現在、「RED(小紅書)」や「Bilibili(B站)」など中国主要SNSでのフォロワー数は約200万人に達している。動画コンテンツの制作にも注力し、ファッションクロニクルやデザイナーインタビューなどを展開する。2022年には「Bilibili(B站)」でKOLのランキング100に選出。
エミリー・イェ(Emilie-Ye)
エミリー・イェ(Emilie-Ye)は、ジュエリー鑑賞、グルメ巡り、旅行体験など幅広いジャンルで活動し、特にジュエリー分野で注目を集めている。世界各地のハイジュエリー、なかでも希少性の高い一点物を動画で紹介し、クラフツマンシップやジュエリーの魅力を発信。現時点で、「Weibo(微博)」、「RED(小紅書)」、「Bilibili(B站)」などのSNSでのフォロワー数は約150万人に達する。