ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレル企業は人件費、原材料費、製造費、物流費などあらゆるコスト増に直面しているが、出店する商業施設の家賃の値上げも悩みのタネだ。賃料が上昇する中、これまで以上に出店先を慎重に考える必要がある。商業施設のタイプごとに具体的に考察した。
インフレと賃上げが競り合う中でアパレル消費も5月以降は上向いているが、インバウンドや飲食の勢いに金利上昇も加わって商業施設(館)の賃料も上昇しているから、立地や客層に左右されるアパレルの出店は慎重に検討されるべきだろう。商業施設の立地や性格、販売効率、賃料条件などから出店選択の要点を探ってみた。
出店需給好転と金利上昇で上がる賃料をいかに吸収するか
消費の回復で出店意欲を高めるアパレルチェーンも少なくないが、コロナ明け以降の店舗回帰にインフレやインバウンドも加わって賃料改定に強気の商業施設デベロッパーも増えている。
CBREの調査によれば、銀座と関西で先行したハイストリート(繁華街)路面物件賃料のコロナ前水準超えが25年の第1四半期では表参道・原宿や渋谷にも広がり、未到達は新宿と名古屋栄のみとなっている。ラグジュアリーやドラッグに偏っていた出店もスポーツ・アウトドアやアパレル、飲食に広がって好物件は賃料が競り上がっている。建築費の高騰や金利の上昇で求められる投資利回りもジリジリと上昇し、不動産会社の株価に続いて東証リート指数も上昇しているから(定期借家契約改定のタイムラグがあった)、商業施設の賃料もコロナ前水準回復という一線を超えて上昇するのは必至と思われる。
商業施設デベロッパーのスタンスに立てば、インフレ局面で売り上げが伸びていれば単位面積当たりの賃料水準を高めようとするのは当然で、業種やゾーン毎に平均を大きく下回るテナントをマークして定期借家契約の改定に臨み、縮小移動したり高家賃が望めるテナントに入れ替えたりする。賃料水準を高めようとするデベロッパーは客単価の高いテナントにシフトするのが顕著だから、客単価も販売効率も低く前年を割っているようなアパレル店は追い出しの対象になってしまう。
賃料水準の上昇が避けられないなら販売効率や粗利益率の向上で吸収するしかないが、そのキーとなるのが客数と客単価、人時生産性であることは言うまでもない。客数と客単価が上向いて一人当たり粗利益額が上昇していかないと、賃料や給与の上昇を吸収できず、採算が悪化して出店どころではなくなってしまう。
客単価は商品単価と買上点数に因数分解されるから、素材の開発や仕様の完成度で商品単価をほどほどに高めるとともに(平均4%程度が客数減を招かない安全ライン)、ECやSNSでコーディネイトを訴求して顧客を店舗に誘導するローカルOMO※1.の実践が決め手になる。店舗スタッフによるスタイリング投稿やイベント告知、ECからの取り寄せ・取り置き試着やEC注文品の店舗受け取りで店舗を訪れる顧客が増えれば、買上客数も買上点数も当然に伸びる。
人時生産性を高めるもう一方のキーが店舗DXと物流の再構築だ。RFIDの導入は必然で、在庫管理・棚卸しの効率化はもちろん、迷子品の探索や店渡し・店出荷品のピッキングもスピーディーになるし、低単価店では一括読み取りのセルフレジで精算人時を大きく削減できる。
店舗のマテハン人時量を圧縮するにはVMD方式(別の機会に詳説したいが、売り場で実地説明しないと理解が難しい)の再構築と品出し・フェイシング管理の集約・定時化が効果的だが、物流段階のプレハブ化を加えれば大幅な削減が可能になる。初期投入では品番単位やアドレス単位にSKU数量を揃えてバンドル化する、棚割り図やアドレス指定を同封する、など物流段階でプレ加工することにより、店舗段階の作業を軽減してマテハン効率を高めることができる。
プレハブ化は生産段階でのインレイ封入やタグ付けに始まり、バンドル化やオリコン仕分けなどできるだけ上流(工場や出荷倉庫)で済ませるのがポイントで、物流プロセス総体の最適化に組み込む必要がある。店舗段階だけで効率化しようとすると作業の負荷が高まったりシフトに無理が生じたりするから、物流段階のプレハブ化は必然と思われる。
※1.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットでの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略
商業施設の性格と販売効率の実態
賃料の上昇を吸収する策を講じても、自店にとって十分な客数が期待できる商業施設でないと採算は望めない。世代やジェンダー別の商圏人口や分野別の消費支出規模、アクセス利便や競合関係を商圏分析システムで精査する必要があるが、アパレル店舗では世代や価格帯にテイストやトレンドも絡むから計算通りにいかないことも多い。出店区画周辺の顔ぶれを見て判断することも多いと思われるが、その前に商業施設の性格と売上規模(館の年間売上高)、販売効率(月坪効率)の大枠を掌握し、出店の基本方針を固めておくべきだ。
繊研新聞社のアンケート集計をベースに情報を補足してイオン系を除く24年度の館売上高(核店舗も含む)上位150商業施設(170億円以上)の性格と販売効率を検証してみたが、どう工夫しても物理的に図表にプロットできるのは館売上高300億円以上の72施設までだった。150施設は大きくアウトレットモール、ダウンタウン商業施設、郊外SC(ショッピングセンター)に分けられるが、ダウンタウン商業施設はステーションビル(駅ビル)、アーバンモール(駅ビル以外の商業施設や地下街)、ファッションビル、郊外SCは駅前型と駅から離れたタイプ(大雑把だが「車型」としておこう)、アウトレットモールもラグジュアリー中核型とその他で性格も販売効率も大きく異なる。
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