植田みずきデザイナーによる「ナゴンスタンス(NAGONSTANS)」は9月1日、2026年春夏コレクションを発表した。「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」に初参加し、念願だった大舞台でのショーを実現した。
「エンフォルド(ENFOLD)」のクルーズ・コレクションから18年春に独立した「ナゴンスタンス」は、アウトドアや自然を着想源に、“日常とは違うどこかで、自分に調和する服”を提案してきた。都会で暮らしながら、休日は自然に溶け込むアクティビティを楽しむという植田デザイナー自身のライフスタイルや実体験も色濃く反映されている。そして今シーズンのテーマは、山道を意味する「Mountain Trail」。夏山の爽快さと心地よさを、高山植物に着想したペールトーンや鮮やかなネオンの自由な色使いや夏らしい機能素材、得意とする構築的なシルエットで表現した。
ファーストルックは、風をはらむビッグシルエットのスプリングコート。全身を覆った、透明感と爽快感のあるペールグリーンが観客を一瞬で引きつけた。そして、拡張したグレンチェックのオーバーサイズジャケットとパンツ、大きめの襟とボタンがレトロな印象のミニドレスなど、都会的なスタイルが続く。その後「山道を走る」アスレチックモードに転換。肌馴染みのいいジャージーや薄く透けたナイロンといった素材は、ショートパンツやパーカなどに落とし込んだ。また、ゴツゴツとした岩肌をナイロンの構築的な膨らみで表現したキャミソールドレス、峰から峰へと続く稜線を縦の折り目でデザインしたスカートなど、複雑なテクニックにも目を引く。
特徴としたのは、水着の素材をボンディングしたシリーズだ。ブランド立ち上げから主力とする水着を、日常着そしてコンセプチュアルに表現しようと、ドレッシーなアイテムなどに採用。ベアドレスやオールインワンに加え、メッシュと継ぎ接ぎしたスポーツシックなドレス、油絵画家の羽生みつ子による八ヶ岳の絵を全面にプリントしたコクーンドレスなど、ショーピースらしい“見せる”アイテムにも挑戦した。ブランドを象徴する360度見応えのある一着となった。
経験と自信が切りひらいた東コレへの挑戦
植田デザイナーについては、業界に携わらなくとも、平成ファッション世代ならば知っている人も多いだろう。カリスマ販売員を経て、20歳のころに「マウジー(MOUSSY)」の立ち上げメンバーに加わり、その後「スライ(SLY)」をスタート。2000年代の渋谷ファッションのブームをけん引した一人だ。結婚・出産を経て、12年春夏に「エンフォルド」、18年春夏に「ナゴンスタンス」を始動。現在「エンフォルド」は欧米やアジアでも展開し、韓国には直営店を4つ構え、「ナゴンスタンス」は国内に10店舗持つ。両ブランドの事業部長を務めるだけでなく、運営するバロックジャパンリミテッド(BAROQUE JAPAN LIMITED)の常務執行役員でもある。
東京コレクションへの参加については、「ずっとやりたかった」という。実は、10年ほど前にファッション・ウイーク参加へのオファーがあったというが、断っていた。「自信がなかった。当時手掛けていた『エンフォルド』は、日常服としてのコレクションが中心で、ショーのようなストーリー性のあるブランドではなかった。ショーという場となると、また違う視点でのモノ作りが必要になるし、世界観がきちんと伝えられるのか、その時は考えられなかった」。そして、今回初挑戦を果たした。「服の作り方の幅が変わった。リアルに必要な服とショーという場で見せていく服。その間で服作りを考えていくのが今は楽しい。このショーを機に、より多くの方にブランドのことを知ってもらいたい」。