PROFILE: (左)松浦直彦/CFCL代表取締役副社⻑兼最高執行責任者 (右)高橋悠介/CFCL代表取締役兼クリエイティブ・ディレクター

「シーエフシーエル(CFCL)」はクリエイションとビジネス、ビジョン作りと組織づくりのバランスにより、5年で急成長を遂げた。右脳系と思われるデザイナーと左脳系が多いビジネスマン、生粋の業界人と異業種からの転身者としてクリエイションとビジネスの両輪を司る、高橋悠介代表取締役兼クリエイティブ・ディレクターと、松浦直彦代表取締役副社長兼最高執行責任者に、2人を結びつけた「公益性」について話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年6月2日号からの抜粋です)
“やるからには盛大にやる”には、
業界の問題と向き合う必要があった
WWD:改めて「CFCL」の立ち上げに際して考えたことは?
高橋悠介CFCL代表取締役兼クリエイティブ・ディレクター(以下、高橋代表):ファッションが大好きだから、自分でブランドを立ち上げ、コレクションを発表し続けられたらと思った。でも今の時代、業界にはさまざまな問題が山積しており、いわゆる今までの典型的なブランドでは「世界で戦えない」とも思っていた。今までのようなブランドでも、“細々”と営むことはできるかもしれない。でも自分は、“やるからには盛大に”やりたかった。言い換えるなら、「あっても、なくても社会は変わらないブランド」より、「『CFCL』がこの時代にあったから、社会はこう変わったよね」や「『CFCL』って、振り返れば早かったですよね」と評価してもらえるブランドになりたかった。ブランドを立ち上げるなら100年後、その考えが社会に浸透して、継承される状況を目指したい。それが、自分の目指す「ベスト」だった。そのためには、好きなことを真っ当にやりたい。❶ イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)では雇われデザイナーだったから、組織の意向とぶつかれば従うのが基本だったし、任されているパートには明確な線引きが存在していたから、今回は起業し、自分の美意識が反映できるモノが作りたかった。2013年の ❷「ラナ・プラザ」の悲劇 を筆頭に、10年代にはサービス残業やブラック企業、過労死、下請けいじめなど、さまざまな問題が噴出し、19年には娘が産まれた。だから「ランウエイを歩くモデルがカッコよければ、それで良いのか?」と思ったし、デザイナーの仕事の中にサプライチェーンの構築や従業員満足の向上などがあっても良いのではないか?と考えた。「それは、会社がやること」という考えもあるだろうが、「関わる全ての人がフェアな服」や「ベネフィットが得られる服」が“カッコいい洋服”の定義になるのではないか?と考えた。
❶ イッセイ ミヤケ
高橋代表は三宅デザイン事務所に入社して3年目の2013年、27歳の若さで「イッセイ ミヤケ メン(ISSEY MIYAKE MEN)」のデザイナーに抜擢され、14年春夏から6年間に渡りデザインを手掛けた。写真は、パリメンズで発表した17年春夏コレクションから。20年には新会社CFCLの設立と、約10年在籍した三宅デザイン事務所の退所を明らかにした。
❷「ラナ・プラザ」の悲劇

2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊で複数の縫製工場が入ったビルが崩落し、労働者を中心に死者1100人以上、負傷者2500人以上を出した。建物の違法増築や劣悪な安全管理が原因とされており、ファッション業界のサプライチェーンにおける労働環境および人権問題を問い直す契機となった。
「三宅一生さんに師事したから
服作りの意味をたたき込まれた」
高橋代表:こんな風に考えられるのは、新卒で三宅デザイン事務所に入ったから。学生のころは、自分が作りたい洋服を作っていて、社会との結びつきなんて考えてもいなかった。でも社会人になると、「それじゃダメだ」と気づく。収益を上げる洋服や社会における存在意義がある洋服などを、会社における役割を自問自答しながら作ったが、三宅一生さんはすごく視座の高い人。服作りの意味を徹底的にたたき込まれた。「何のために服を作っているのか?」「それは、自己満足じゃないのか?」「小手先でごまかそうとしていないか?」などを問われ、考え続けながら洋服を作っていると、自然と洋服の社会性や服を通した社会との接点などを考える習慣が身についた。そんなとき、❸ ブラック・ライブズ・マター というムーブメントや ❹ グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さんの主張など、筋が通った正義なら、しっかり発信すれば広がる時代がやってきた。「公益性のあるビジネスも立ち上げやすくなったのかな?」と考えた時、三宅デザイン事務所の中から変革するより、自分で会社を作った方が近道なのかな?と思えた。
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